バレンタイン
バレンタイン
コン。
扉をたたく音に晴明が読んでいた書類から目を上げた。書斎の中は暗く、灯りは晴明が書類を広げている机のところだけだ。
薄闇に沈んだ戸口に博雅が立っていた。
「いつまでかかるんだ?それ。」
机の上の書類を指差して博雅が聞いた。
「ああ。もうちょいかな。明日までには、さすがにやっとかないと、まずいんだ。…どうしたんだ?」
「いや、たいした用はないんだ。」
ドアをあけたまま晴明の近くまでやってくると、書類を覗き込む。
「なんだか、大変そうだな。」
「まあな。一応、経営者だからな。決算くらい見とかないと。」
そういうとタバコをくわえて火をつけた。立ち上る煙に少し目を細める晴明。見れば灰皿は吸殻であふれんばかりだ。
それをちょっと眉をしかめてちらっと見た博雅、晴明の唇からタバコをひょいと取り上げた。
「おい…」
文句を言いかけた晴明に口付ける。
「…!」
「ん…。」
博雅は名残惜しそうに唇を離すと、晴明の唇にぽいと何かを差し込んだ。
「タバコは体に悪いぞ。とっとと禁煙しちまえよ。」
そういって体を翻すと開いたドアから、あっという間に出ていった。
止める間もなかった。
博雅が出て行ったドアを見つめながら、唇に残されたものを手に取る。なんだかタバコに似ているような。
灯りの下でよく見れば、それはチョコでできたタバコ、シガーチョコだった。
「そうか…今日はバレンタインか。」
その紅い唇にうれしそうに笑みが浮んだ。
これは仕事などやってる場合ではないな。
晴明はシガーチョコをもう一度、唇にくわえると机の灯りを落として博雅の後を追っていった。

どんぐりどんのすけ様よりげっちゅーです。謝々!
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