いまひとたびの…外伝


博雅の邸。
月の光がその濡れ縁を青く照らしていた。その青い光を浴びて重なり合う二つの影。
博雅の体は晴明に組み敷かれている。二人の顔が重なっている、口づけを交わしているのだ。何度交わしても足りるということがない。
会えなかった分、辛かった分、悲しかった分、愛しかった分、どれほどの想いがあっただろうか。
口づけを交わすことで少しづつその大きな穴を埋めてゆく。
息をするのももどかしいほどにお互いの唇を求め合う。
「博雅…博雅、博雅…」
晴明がくちづけの合間に博雅の名を何度も呼ぶ。
まるで博雅の存在を何度も確認するように。
また、この手からすりぬけてしまわぬよう、失ってしまわぬよう祈るような想いで名を呼ぶ。
博雅も想いは同じだ。晴明の体に腕を回して抱きしめる、お互いに溶け合ってしまえばいいと思うほどに晴明を愛しく思っていた。
「晴明…。」
ようやく唇を離してもらって博雅はにこりと微笑んで晴明の顔を見上げた。その笑顔に晴明も笑みを返す。
博雅に会うまでの自分は本当に生きていたとは思えなかった。今、生まれて初めて心臓が鼓動を始めたような気がする。晴明は白いワイシャツの胸に暖かな博雅の顔を引き寄せた。
博雅がぶるっとその身を震わせた。それはそうだろう、秋も深まる今、京都の夜は冷えると言うのに晴明によって身ぐるみはがされて、その身にはワイシャツ一枚しかまとっていないのだから。
「すまん、このままでは風邪を引いてしまうな…。」
申し訳なさそうにそういうと濡れ縁のガラス扉に向かって指を一本差し向けた。ガラスの扉がひとりでに閉まってゆく。
記憶を取り戻した今、在りし日の陰陽師としての力もともに復活したのだ。
博雅に再会してからというもの、今までには感じたことのないパワーのようなものが体のずっと深いところから沸き続けているのを感じている。ガラスの扉を閉めたりすることなどなんでもない。博雅と一緒なら空でも飛べそうな気がする。
(俺の生きる力の源がお前だ、博雅。)
声には出さないが博雅にむかってそう言った。言葉に出してしまうと博雅がまた負担に感じてしまうだろうから。
最初はあせってパニ食っていたが執拗なまでの晴明のくちづけと愛撫で今はややぽうっとなっている博雅。
「お前がいればそれでいい…、お前の胸はあったかいぞ、晴明…」
ガラス扉がしまったことにも気づいていない。
博雅に「晴明」と本当の名で呼ばれるのは気分がいい。なんだか気持ちが高揚してくる。
クールで通っていたアキラはどこかへ行ってしまったようだ。
晴明は自分を見上げている博雅にもういちど軽く口付けると自分のひざを博雅の閉じられた両足の間へと割り込ませていった。ひざととともに体も割り込ませてゆく、博雅の足が緊張するのがわかる。
「大丈夫か?博雅。」
セーブなどしないと宣言はしたがその言葉とは裏腹に博雅を気遣う晴明、アキラとしてはいろんな女を相手にしてきたがこんなにも気遣いをしたことなど一度もなかった。博雅の程よく筋肉のついた内腿をそっとなで上げる。その手のひらの感触に博雅の中心がピクリと反応した。
「…だ、大丈夫だ…た、たぶん…」
はなはだ疑問ではあったが博雅は答えた。
気持ちの上ではこれからなにが起こって自分がどうなってゆくのか理解しているのだがいかんせん身体が言うことを聞かないのだ。たとえ、遠い昔にその記憶がそれこそ山のようにあるとはいえ、今のこの身では初めてのことである、身体が緊張のあまりこわばるのも無理はない。晴明もそれがわかるだけに心配してこうやって声をかけてくるのだ。
「少し力を抜け、博雅、俺は決して無理じいなどせぬから。」
「わかってはいるんだが…すまん、どうにも緊張してしまって…」
悪いことをしているわけでもないのに謝る博雅に晴明が自嘲の笑みを見せた。
「お前だけではないぞ、博雅。俺もおなじだ、…実は緊張している」
「えっ?」
「そう驚かなくてもいいではないか?俺とて同じだけお前に触れていないんだぞ。ほら、見てみろ,震えが止まらない、ざまあないだろう?」
そういって笑うと晴明は自分の片手を博雅の目の前にかざす。よくみると本当に小刻みに震えている。
博雅はなんだかほっとしてそんな晴明がさらに愛おしくなった。こんなに自信満々に見えるこの漢をここまでにしているのは自分かと思うとうれしかった。
博雅は晴明のその震える手をとった、その自分の手はもっと震えているのに。
その手の平に唇を押し当てながら晴明の目を見上げる、その瞳は月の光を映して博雅の中に眠る艶を覗かせていた。
晴明の心臓の鼓動が跳ね上がる。もうこれ以上は待てそうにない。しかし、このまま博雅に自分のものを押し込むなど絶対無理だということはわかっていた。
稚児でもあるまいし輪抜きなどしているわけでもないのだ。博雅のそこはどんな処女より固いだろう。時間をかけてゆっくりとほぐしてやらなければならない。一刻も早く博雅をこの身に感じたいというあせる気持ちを鋼のような意思で押さえつける。
博雅のもうすっかりたちあがった男の証から、その先端を濡らしている先走りの露を手のひらの取るとそれを博雅の奥の門へとするりと擦り付けた。
「…あ。」
小さく博雅の声があがる。晴明は指でゆっくりと閉ざされた門をほぐしてゆく。中指の柔らかな指の腹でやわやわと愛撫を加えてゆく。博雅の唇から少しづつあえぎのような声が漏れ始める。少しやわらかくなったところでそっと中指を一本中へと押し込んでゆく。ゆっくりと。
「あっ!…んん…」
ぱっと目を見開いたかと思うとまたぎゅっと目をつぶる博雅。
ゆっくりと中指の出し入れを繰り返す。何回か繰り返した後でもう一本、今度は人差し指を増やす。
「つらいか?…博雅?」
耳元で吐息とともに晴明が聞く。
「…んん…だ、大丈夫…」
晴明のかすれた低い声に耳元がぞくりとあわ立つ。
さらにもう一本、今度は薬指。三本にふやされた指をさしたる抵抗もなく飲み込む博雅のそこにもう大丈夫だろうとようやく晴明は気持ちを決めた。三本の指に翻弄されて、声を殺すことはできても体がのたうつのをとめることができない博雅。
ほんのりと桃色に染まって自分を誘うようなその身に、この猛り立つものをうずめなければ自分の方がどうかなってしまう。
晴明は博雅のそこから指を引き抜くとズボンの前を開け、自分のものをあらわにする。
晴明のそれを思わず目にしてしまった博雅、あれが自分の中に入るのかと思うとやはり腰が引けてしまった。その博雅のひざの下に両手を入れて晴明はその逃げようとする体をぐいっと自分に引き寄せる。
「あっ!!」
不意のことで驚く博雅、身体に力が入る。
「力をぬけといっても…無理というものだな。」
「すまん…努力はしてるんだが…」
顔をほんのりと上気させながら答える博雅、自分の姿に恥ずかしくて晴明と目を合わすこともできない。
「なに、いいさ。」
恥らう博雅はどんな女よりかわいいとそう思った。
今まで付き合ってきた女たちは恥じらいまでもが計算ずくのようだったな。
滑らかな博雅の腹から胸にかけての肌を手のひらでたどる。柔らかな女の肌とは違うがはりのあるすべらかなその肌はいくら触っていても飽きることなどないだろうと思わせた。晴明は博雅の秘められた門に自分のものをあてがいながらも、まだ入れようとはしない。
晴明の熱い先端がそこにあたっているのを感じて博雅はいくらかの恐れとともに、早くこの身に晴明自身を感じたいとも思っていた。
恐れと切望。その相反する二つの気持ちに博雅は振り回されていた。
晴明は博雅の腰をかかえながらもその滑らかな肌に口付けている。その唇が上へ上へとあがってくる、晴明の唇がたどったところが熱い。博雅の息がさらに荒くなってくる。
晴明はその顔を博雅の顔に近づけてきた。口付けられるのかと博雅は思っただろう、だが晴明の顔は唇でなく博雅の肩に向かった。博雅がなにをされるかも気づかぬ間に晴明の歯が滑り落ちたシャツからあらわになった滑らかな博雅の肩に食い込んだ。噛みついたのだ。
「痛っ!!」
その痛さに博雅の身体から一瞬力がぬけた。そのとき晴明のそれが博雅の門を貫いた。一気に奥まで突っ込む。
「ああっ!!」
博雅が大きく声を上げる。
気づけば身体の中心に晴明のそれがしっかりと根元まで埋められている。痛みはほとんどなかった。
「どうだ、博雅、痛くなどなかっただろう?」
鼻がくっつきそうな距離で晴明がにやりと笑って言った。
「うん…でも、肩は痛かったぞ…」
少し涙目になって訴える。肩には晴明のきれいな歯型がくっきりとついている。
「悪かったな」
博雅に詫びを入れるように軽くくちづけると肩の歯形をぺろりとなめた。
「あんまり緊張しているものだから気をそらしてやろうと思ったのさ。」
しばらくは動かずにいようと晴明が言う。本来そういうことのためにあるつくりのところではないのだ。急に無理はさせたくなかった。
「いや、いい。このまま…つづけてくれ…晴明…」
博雅の言葉に心配そうな顔をする晴明。
「というより…続けてほしいんだ…」
恥ずかしくて顔から火が出そうだが、ほんとのことである。晴明は我慢できるかも知れないが自分は無理だ。晴明のものが自分の中でびくんと動くのだ、このままじっとしていたらほっといても自分は勝手に達してしまうだろう。自分のそこをいっぱいいっぱいに押し広げている晴明のそれを感じて博雅自身も固く屹立していった。
博雅からのうれしい申し出に晴明が飛びつかないわけがない。
「うれしいことを言ってくれるな博雅。ではここからは遠慮はなしだ。ゆくぞ、博雅。」
にっと唇の端を引き上げて人の悪い笑みを浮かべると博雅の腰をがっちりと固定しゆっくりと自分のものを博雅から引き出す。抜けきるぎりぎりまで出すと今度は同じようにゆっくりと挿入してゆく。それを何度も繰り返す。すばやく挿入を繰り返されるよりもはるかにつらい責めだった。
博雅が体をしならせる。その体を晴明の長い指がつつっとなぞってゆく、そしてそのまま博雅の猛る証に。狂わされるようなゆっくりとした責めと晴明の手に翻弄されて博雅の唇からうなされたように声が上がり続ける。
「…ああ…あ…うっく…」
その目にはじわりと涙が浮かんでいる。快感と愛と。
晴明の動きが少しづつ早くなってゆく。博雅の奥を突く強さもまた強くなってゆく。
もっとも深いところを激しく強く突かれて博雅の背が弓なりに反り返る、まぶたの内側で火花が散った。
晴明のものが博雅の最奥でその熱を放つ。博雅自身もまた晴明の手の中で熱いしぶきをあげた。
博雅は大きく足を広げられて身も世もなく体をよじらせ震わせ泣き声をあげた。その媚態に晴明もまたあおられていた。
こんなに艶を放つ男がいてもいいものだろうか、体を桃色に染め上げのたうつさまはどんな女よりも艶に満ちて。
伏せられたまつげが涙で光っている。
涙がつうっと一筋博雅の頬を伝って落ちてゆく。博雅自身もまたその涙の後を追うように晴明の心の中へ落ちていった。
二人、体も心も溶け合ってしまえばいい…博雅が願ったとおり、千年のときを超えて今二人がひとつに溶け合ってゆく。
この世界にたった二人だけのような時が流れる。
誰にもじゃまされることのない至福のとき。
  

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