KAGAMI−2

  


「ほら、自分で広げて見せて、博雅。」
晴明の声が耳元に熱くかかる。
「う…ん…」
ぎゅっと目を閉じて博雅は自分の手のひらに力を込めた。開いている両脚の間がさらに広がって博雅のそれが一人そこで天を向いて震える。
「自分で見ないのか?」
「み…みたく…な…いっ…」
「誰よりも可愛いのに?」
「か、可愛いわけ…あるか…」
顔を背けて震える博雅は本人がどういおうと間違いなく可愛いのに。

博雅の背後の晴明の手が博雅の胸を滑り、その小さな桃色の突起をつまむ。
「あっ!」
ビクン!と博雅の背が反る。立ち上がった博雅のものの頂点から、ぷくっと丸い水滴が盛り上がる。胸の先を晴明の指先が優しく捏ねる。それに合わせるかのように盛り上がった水滴の粒が大きさを増し、やがてつうっ…と溢れて零れ落ちる。
敏感になった博雅の体がそのわずかな刺激にも反応する。
「あっ…ふ…うっ…」
自身の竿を伝う先走りの露、思わず揺らぐ細い腰。我知らず、自分の内腿を押さえていた博雅の手が自分自身へと伸ばされる。
「ああ、だめだよ、博雅。勝手に触っちゃ困るな」
晴明の手が突起から離れて博雅の手首を捕まえた。
「どれだけ我慢できるか試してみようじゃないか」
「ばっ…馬鹿を言うな…」
頬を上気させて博雅は潤んだ瞳で後ろの晴明を見上げた。
その間も博雅のものはふるふると震えて露を溢れさせる。
「その代わり、こっちはいっぱい可愛がってあげよう」
するりと博雅の股間の下を晴明の手がくぐる。小さく窄まったもうひとつの敏感なところに晴明の固い指先が触れた。
「あっ!…やっ…」
体を大きく揺らせて博雅の体が再び跳ねる。
くちゅりと小さな水音を立てて博雅のそこが晴明の指先を飲み込む。
女のものとは違って濡れるもののないそこを濡らしているのは、博雅のものから溢れて竿を伝い落ちた蜜。わずかに粘り気のあるそれが博雅のそこを蠢く晴明の指を助ける。
晴明の手までも濡らして。

「あ…あ…」
きつく目を閉じ顔を背ける博雅。背後の晴明の首に万歳をするようにして手を回し、自身に触れぬように必死で耐える。それもすべて晴明がそうと望むから。あまりにも純情可憐なその性格である。
「本当におまえは可愛いすぎる…博雅…」
ちょっと困ったように笑う晴明。滅多なことでは笑みすら見せぬこの男を、本当に微笑ませるのは博雅ぐらいなものだろう。
「ば…か…可愛い男なんて…う…っ…いるものかっ…」
また可愛いなどと言われて博雅は苦しげな息の中から再び抗議。
「いるさ、目の前にな。」
博雅のあごを取って正面に見える鏡にふりむけた。博雅はぎゅっと目を瞑った。
「見ろよ、博雅…」
正面に映る博雅の姿。
乱れて色づくそのしなやかな肢体。伝う汗がその体を一層淫らに艶めかせる。
ふるふると震えながら開かれた下肢の中央で柔らかな茂みを濡らしてたち上がる博雅のそれ。
他のどこより色濃く色づいた、その頂からとろりと溢れる透明の雫。
そしてなによりも色香を放つは、身体よりも博雅の表情であろう。濡れ羽色に光る漆黒の黒髪、身体ごと揺すられてしどけなく乱れたその髪の間から見える熱に蕩けた瞳。恋人によって点けられた炎がその瞳に煌めく。

「おまえの全てが俺を煽る」
「そんなの…おま…え…だけだ…ば…かっ…」
「その自覚のなさが、またたまらないところだ」
博雅の首筋に舌を這わせながら晴明はくすくす笑った。
「だ、大体におい…て…おっ…おまえは…しゅ、趣味が…わ、わる…すぎ…るんだっ…」
髪をさらに乱しながら博雅は切れ切れに抗議する。
「そうかな?」
言いながら博雅の中に侵入させた指が、その本数を増やす。
「あ…っ!」
途端に博雅の背が反り、野放しにされた男の証がぶるんと震える。
「恋人の趣味はいたってよいほうだと思うが?」
文句があるならさらに本数を増やすぞ、と晴明は博雅の耳に低く囁く。低音の響きと、指の数が増えることに博雅はぞくん、と震えた。
なのに勝気な男は背筋を駆け上がるそれをむりやり振り払って言った。

「こっ、恋人の…しゅっ、趣味も…わ、悪いが…あっ…くうっ…、こっ…こいつは…な、なんだっ…!」
「なんだって…鏡さ。」
「そっ、そんなこと…は、み、見れば…あっあ…っ」
でもなんだってこんなとこに鏡があるんだ、と博雅は云いたいらしい。今は、指がまたしても増えたので、ついに言葉がなくなってしまったのだが。
「ああ…あっ…!」
3本にまで増やされた指が、博雅のそこをこれ以上ないほどに解し、広げてゆく。とくとくと盛り上がっては零れる先走りの露。ぐちゅぐちゅと耳を犯す秘密の水の音(ね)。
自分が今なにを聞こうとしていたのかさえ、かき消すほど博雅の脳内が沸騰する。
「でも、只の鏡ではない…いわゆる魔鏡というやつだよ。博雅…」
ずるり、濡れた指が博雅の中より引き出される。そして、ひくひくと口を開けたそこに晴明の硬く昂ぶったものが押し当てられた。
「あっ!」
解されたところだけでは飽き足らずに、博雅の中全てを蹂躙して突き進む晴明の剣(つるぎ)。
「はあっ…!」
我知らず大きく息を吐いて、博雅は晴明の全てを受け入れた。
羞恥を忘れ大きく開かれた博雅の足を、後ろから晴明がさらに押し開く。
「やっ…あ…っっ」
抉るように突き上げる晴明のもの。指などとは違う圧倒的なその存在感。
柔らかな茂みを濡らして立ち上がる博雅の雄に、晴明の濡れた指が絡まる。
「アッ…!くう…っ…」
今にも迸りそうな自身のものを、ぐっと根元で握り締められて、晴明につなぎとめられた博雅の背が弓のように反る。その顔が苦悶に歪む。
「まだだ…博雅」
激しい突き上げを繰り返しながら晴明がささやく。
「あ…ああっ…」
目を閉じ唇をかみ締める博雅。その身が桜色に上気してゆくさまが正面の鏡に鮮明に映る。
「もう…少し…」
ささやく晴明の息もわずかに荒い。鏡に映る恋人の姿に、普段は静けさを湛えた瞳が欲情に濡れて光る。
「まったく…お前は…っ…」
紅い唇の端に笑みが浮かんだ。
「あああ…あっ!も、もう…だめ…だっ!…ゆ、ゆるして…っ…くれっ…!」
体をおこりのようにがくがくと震わせて博雅が叫ぶ。その赤く上気した頬をあふれる涙が濡らし、かみ締められてふっくらと色づいた唇の端から赤子のように銀の糸をひいて涎が垂れる。
無理な形に回された博雅の指が、晴明の首筋にギッと爪を立てた。
「イキたいか、博雅?」
立てられた爪さえ愛おしい恋人に、晴明は低い声でたずねる。
答えなど聞くまでもないのに。
「俺の手で?」
「うっ…!お、お前の…手、手でっ…!」
「あい、わかった」
根元を封じていた指を離し、代わりに手のひら全体をドクドクと脈打つ博雅のものに滑らせる晴明。それだけで博雅がまた嬌声を上げる。
「ああ…」

「そこでよく見ておれ。」

晴明が不思議なことを言った。
「え?な、なに…?」
「なんでもない。では、ともにゆこう…博雅」
博雅の耳に口づけてささやくと晴明は最後の挿送を開始した。

「アアッ…アー…ッ!」

激しい突き上げに、博雅が悲鳴にも似た嬌声を上げる。晴明の手の中で熱く屹立した博雅のものが、その先端から熱い白濁を迸らせた。
ぷしゅ、と弾けた博雅のものが、二人を妖しく映し出す鏡に点々と飛び散る。
「くっ…!」
柳眉の間に険しい皺を寄せて、晴明が震える博雅を抱えたままその手に印を結ぶ。

「わが手に。」

印を結び、何かの呪らしきものを唱えると、短く命じた。
印を結んでいた手を解jくと、晴明は、すっ、とその手を鏡に向かって伸ばした。

「来い。」

ゆらり。

鏡が水銀のように銀色に溶け始める。どろりとなだれ落ちる鏡を見て、晴明がその唇の端に小さな笑みを乗せた。
「上々だな。」
「な…な…に…」
達したばかりで忘我の境地にあった博雅が、晴明の声にうっすらと濡れた瞳をあける。
「なんでもない…それより俺がまだだ、博雅」
博雅の細い腰に両手をかけると、晴明は達する寸前で止めていた己のものを博雅の一番深い所に突き刺した。
「ひ…ア…ッ!」
気をやったばかりで弛緩していた博雅、体の心を走る衝撃にあごをのけぞらせて叫ぶ。
「やあ…っ…」
ぶわっと博雅の目に涙が盛り上がる。萎えかけた博雅の中心が、同じように涙のような露の珠をぷくりと浮かべた。

「ともにゆこうと言ったはずだろ」

博雅の耳に熱い吐息とともに晴明がささやく。





「せ…晴明…」

「ん、なんだ?」

絹の海の中でくったりと裸身をうつ伏せた博雅の呼びかけに、晴明が答えた。
「そいつは…なんだ…」
うずたかい衣の中から片目だけをのぞかせて、博雅は晴明が手にしたものを指差した。
「ああ、これね。」
晴明はくすりと小さく笑って手にした銀色の珠を少し上に持ち上げた。
「これはさっきの鏡だ。」
「鏡?あ。」
そういえば、先ほどまでそこにあって、自分たちのあれれもない姿態を映し出していたあの鏡がない。思い出したくもないことなので、いつの間にやら頭の中から失念していたようだ。
「でも、それは…」
どこからどう見たって鏡には見えない、強いていうなら鏡と同じ素材の珠?でも、大きさも形もまったくちがう。
「さっき、言っただろう魔鏡だって。」
そういわれれば、そんなこと聞いた気も…。
「ずいぶん前に手にいれてあったのだが。式にするにはあとひとつ、どうしてもたりないものがあってな」
「式?それがか?」
博雅は衣の中から顔を上げた。
「それもひとのように姿を変えるのか?」
「まあな」
「…足りなかったものって、なんだ…?」
つい聞き流しそうになったが、怪しげな晴明の顔を見ていたら、ふっと思い出した。
「おまえの精」
「な…に…?」
博雅の顔が引きつる。
晴明はにやりと笑う。
なんだか、よくない笑み…。
「…どのような姿になるのだ?」
なんとな〜くイヤな予感がする。
「見たいか?」
「…」
博雅は晴明の持つ珠をじっと見つめた。
ますます募るヤな予感。
「見せてやろう」
「い、いや!いいっ!!」
ガバッ!と起き上がると慌てて博雅は晴明を制止した…が、ときすでに遅し。
晴明の唱える呪に、銀の珠がふわりと宙に浮く。

それは水のようにくにゃくにゃと姿を変え…。

「うわわわっ!や、やめろっっ!」
変わりゆくその姿に博雅の悲鳴、というか罵声が上がる。

「晴明のばかっっ!おたんこなすっっっ!!!」


真っ赤になって怒鳴る博雅の前には、自分にそっくりな(というか、本人)式が、先ほどまでのあられもない姿態のままに誘うようにその裸身をさらしていたのであった。


晴明曰く、

「鑑賞用だ。」

だとか。







   博雅フェチの晴明でした。

   ちょいやばにもどります