KAGAMI
「そう…少し力を込めてみろ…ああ…そうだ、それでいい…」
博雅は突き上げた腰を晴明のそれに自ら擦り付けるようにしてゆっくりと動かした。言われるままに晴明のものを飲み込んだ秘所に、そっと力を込めてみる。その収縮に晴明のものが締め付けられて、どくん、と博雅の中で蠢いた。
「あぅ…っ」
声を出すまいと必死で食いしばってきたはずの博雅の唇から思わず声が漏れた。
一度漏れ出した声はもう止めることなどできない。
細い博雅の腰をしっかりと掴んで打ち続ける晴明からの熱い抽送に、博雅の唇から途切れることなく艶めいた声が上がり続けた。その淫らで艶めくあえぎに晴明の美しい顔に微笑が浮かぶ。
「良き声で啼くのだな、博雅は…」
ずりゅっ…とぎりぎりのところまで抜くと、その博雅のものに濡れて淫らに光る楔を、また博雅の秘所に埋め込ませた。
「…ああぁ…」
深いところにぴたりと収まってびくびくと蠢く晴明の熱い昂まり。下に敷かれた衣をぎゅっと握り締めて博雅はその背をしなやかに仰け反らせた。
博雅、まだ若き青年貴族のころ。
晴明とはじめてあったとき、まさかこういう関係になるとは夢にも思っていなかった。
博雅が新しく屋敷を建てると知った帝より晴明を遣わすと聞いたあの日、あれが運命の日だったのだと今でも思い返す。
帝の命を受け博雅の屋敷を訪れた晴明、白い狩衣をふうわりと纏って静かに座すその姿に博雅の目は釘付けになってしまった。この世にこのように見目麗しい男がいるのかと驚いた。
その冴え冴えとした美貌の男が自分を見て唇の端に微笑みを浮かべた時、まるで百万の蝶が羽ばたいたように胸がときめいた。
それが恋だとは気づかなかった。
友となり、酒を酌み交わしに、あるいはただ黙って月を共に眺めるために足しげく晴明の屋敷を訪れるようになったが、会うたびごとに心はどんどん離れ難く、会えないときにはかの人の夢を見るようになっていった…初めて人を恋しいと思った。
…かなわぬ想いと思っていたのに…。
まさか、晴明も同じ想いを抱えて苦しんでいたとは…。
冷たいほどの微笑の下にそんな熱い想いがあったなんて、鈍感な私にわかるわけがないじゃないか。
今宵、初めて想いを告げた。これ以上黙っているなんて無理だと思ったから。このままでは忠見のように苦しんで死んでしまうと思った。
想いをつげずに死ぬるくらいなら…。そう思って晴明の元へ末摘花(べにばな)を一輪添わせて文を送った。
人知れず思へば苦し紅の末摘花の色に出でなむ
断崖から飛び降りるような思いで送った文。もう友には戻れないかもしれない、それでも告げずにはいられなかった、あまりにもまっすぐな博雅の想い。
返事は来ないかもしれない…でもしばらくは返歌をもらえると夢を見る期間があればいい…そう思っていたのに、晴明からは返事の歌の代わりにすぐに迎えの牛車がやってきた。
「あるじがお待ち申し上げております。博雅さまからお越しいただくなど大変申し訳なく心苦しいのですが、ここではお話できぬことですので…。どうぞ、いらせられませ。」
式神と思しき使いに頭を深く下げられ、博雅は迎えの車に乗ったのだった。
いつもの濡れ縁ではなく、その門の前で晴明は待っていた。
門に背を預け博雅の降りるのをじっと見つめた。
「晴明…」
おそるおそる掛けた博雅の声に、門の柱に預けていた背を起こすと、晴明は黙って博雅に向かって手を差し伸べた。。
「あんな文を送ってしまって迷惑ではなかったか、晴明…」
視線を逸らしながら博雅は震える声でたずねた。その身を晴明の狩衣の袖がふわりと抱きしめた。
「あんなにうれしい文などもらったことがない…」
低く甘い声で晴明が博雅にささやく。
「返事を書く間も惜しかった…呼びつけるようなまねをしてすまなかった。だが、まさか博雅の屋敷でこのようなことはできぬのでな。」
そういうと博雅のあごを取ってそっと口づけた。初めて触れ合う互いの唇。
博雅の頬に朱がのぼる。
「返歌の代わりだ…」
赤い唇を、あでやかな華のようにほころばせて晴明は言った。
自分より4歳も年下の癖に、晴明は最初から博雅をまるで年下のように扱ってきた。
だが、まさか閨の中までもそうであったとは…。
あの後、晴明にいざなわれて閨へと足を運んだ博雅。抱きしめられ口付けを受けるうちに、いつのまにやら衣を脱がされ髪を解かれていた。まるで姫を愛しむように晴明にその身を翻弄されていた。
自分よりも何歳も年下のものにこんな風に好きに扱われて…しかも、こんなところで感じてよがるなんて、私はなんて淫らなんだ…。しっかりしろ…。
時折、理性が博雅の耳元でささやくのだが、その声は博雅自身に否定される。
…でも…好きなのだ…私はこの生意気で冷たいほどの美貌を持ったこの晴明という男が好きでたまらない…この男の望むことならどんなことでも…そんな博雅に理性の声など届くはずもない。晴明の手に導かれて自らその腰を晴明のものに擦り付けた。
晴明の望むままに体をつなげた博雅、それでもきちんと躾けられて育った彼の頬は、恥ずかしさに燃えるように熱かった。思わず頭を垂れる。元結の解けた髪が羞恥に燃える博雅の顔を隠してくれた。それだけでも博雅はほっとする。
と、晴明が背後から博雅のわきの下に手を入れ、その上半身をぐいっと持ち上げた。晴明のものに穿たれたまま博雅の体が起きあがった。差し込まれた晴明の楔が角度を変えて博雅の内壁に突き当たる。
「うああっっ!」
ずんと響く晴明からの突きに博雅の口から悲鳴が上がった。
解けた髪はもう博雅の顔を隠してなどくれない。
半分閉じられた涙に潤るむ黒目がちの瞳、ほんのりと色つき汗を滴らせる滑らかな頬。そして口づけと口淫によって濡れたように艶めく唇。すべてが目の前の鏡に映っている。
「ほら、見てみろ…博雅…俺に貫かれてお前はさらに輝きを増す。そうではないか…?」
「いや…だ、そんなも…の見せるな…あぁ…」
上半身を支えていた片手を胸からさらに上へと這わせると博雅のあごを取り無理やりぐいっと鏡のほうへ向けた。
「美しい博雅…手に入れたいとどんなに願ったかしれない…雲の上のお方…」
晴明の白い歯が博雅の柔らかな耳をカリッと噛む。
「私は…美しくなど…ない…」
あごをのけぞらせて博雅が苦しげに身をよじらせる。溢れるばかりに艶めくそのからだ。
「いや…おぬしは誰よりも美しい…この手に落ちたこの宝玉…もう誰にも渡したくない…」
晴明のもう片手が天を向いて硬く起ち上がった博雅の男の証をすっとなで上げた。
「ああっ!」
のど元を押さえつけられて動けぬ博雅の背中がこわばる。
「私を想って露を零すおぬしのこれが愛しいのだ…」
「…ああ…やめ…」
晴明の手が博雅のそれをぐっと握って上下する。先走りの露が晴明の手を伝って零れ落ちる。
「ほら、こんなに…」
そこから手をはずすと、晴明は博雅の目の前に濡れた手をかざした。
「…いや…」