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    神の客






「ん~…、迷った…かな?」

ぐるりとあたりを見渡して、博雅は困ったようにぽりぽりと頭を掻いた。
馬の首をぽん、と叩いて
「おまえが調子に乗って走るからだぞ。」
と、博雅は言った。

ブルル…。

小さく首を振る馬。まるで、自分だけのせいじゃない、と博雅に抗議しているようだ。
「はは。悪かった。おまえもわざとやったわけではないものな」
もうひとつ、ぽん、と首をやさしく叩いて博雅は、改めて辺りを見回した。

「播磨の国はよく知らぬからなあ。」




お役目で遠路はるばる播磨の国にやってきていた博雅、無事帝の使いも済ませたところで、一緒に来ていた藤原の何某に、せっかくここまで来たのだからついでにもう一夜、ゆっくり休んでから帰りましょうよ、と乞われてしまった。
どうやら、気に入った端女がいたらしい。都には帰りを待っていてくれる恋人がいるのだが、そんなことは口にできない博雅、相手が年上なのもあって無碍にも断れず、つい、「よいですよ。」なんて答えてしまった。
が、お役目も終わってしまって夜まで特にすることもない。貴人をお泊めするとあって地元の荘園主は、あれやこれやと大騒ぎして歓待してくれるのだが、ニコニコ笑って座っているのもいい加減疲れてきた。

庇の向こうには、青く澄んだ秋の空。

「馬をお借りできますか?」
「は、はい?」

知らない土地にお一人なんて危のうございます、という園主の言葉に「大丈夫ですよ、その辺りをちょっと見てくるだけですから。」
なんて、答えたのだが…。
目の前に飛び出した雉に驚いて馬が暴走してしまった。
眼前に迫る木々の枝。

「うわっ!」

バッ!と頭を引っ込めて、間一髪でかわす。
「こら!落ち着け!」
馬に向かって怒鳴るが、パニックになっている馬は博雅の言葉など聞きはしない。
必死に体勢を立て直して手綱を引き絞り、ようやく馬が言うことを聞いておとなしくなるころには、博雅は知らない山の中ですっかりと迷っていたのだった。
「よ~し、どうどう。」
ぜえぜえ息を荒げる馬を、やっとのことで落ち着かせ、木々の間を見上げれば、秋の夕焼けがゆっくりと深い赤に変わってゆくところである。秋の日の落ちるのは早い。

「さて、これは困ったな」

元来た道を辿ろうにも、夢中になって走ってきたため、どこが来た道なのかもわからない。笹薮の中に道らしきものはあるのだが、それも夕闇に暮れなずむ木々の下ではよく判別できなくなっていた。
そうこうしているうちに、すっかり日が落ちてしまうと、馬は暗闇に怯えて、先に進もうとはしなくなってしまった。

「ふむ、これでは、もう、どうしようもないな。」
ひらり、馬から下りると、博雅は馬の手綱を引いて歩き始めた。
「知らぬ山の中だ。うろうろしていたら何があるかわかったものではない。夜が明けるまでなんとか休めるところを探さねばな。」
博雅の言葉に馬がブルル、と返事をするかのように首を振った。
「ははは、おまえもそう思うか」。
都のように妖しが百鬼夜行していることもないだろうが、人里離れた山の中ならば、人外のものの一匹や二匹、いてもおかしくはない。その手のものに慣れている博雅、それが別に怖いわけではないが、晴明が一緒にいない今、手に負えない不思議な出来事にあうのはごめんである。


やがて月も昇る頃、っようやく博雅は休むにちょうど良さそうなところを見つけた。
大きな大きな椎の古木の根元、人一人、すっぽりと収まりそうな大きな浅いうろがあった。これならば、背後を気にせず眠れそうだ。おまけにすぐ傍らには、きらきらと月の光を跳ね返して小さな小川が細く流れている。

「今宵の宿はここだな」

馬に水をやり、自分も喉を湿らすと、博雅は安堵のため息を大きくついた。
「はあ。」
あごに滴る清水をくいと拭うと、
「なにはともあれ、良い月だ。」
ぽっかりと、晴れた夜空に浮かんだ、柔らかな光を放つ登りかけた大きな月を見上げた。

今頃は、晴明もいつもの濡れ縁で、この同じ月を見上げているだろうか。

ここからは、はるか遠い都にいる愛しいひとを思い浮かべる。。
「こんな目にあってるなんて後でわかったら、きっとまた、なんのかんのとからかわれるだろうなあ」
大体、おぬしは無用心に過ぎる、とかなんとか言われるさまを想像して、博雅はひとりくすくすと笑った。
「でも、俺とて好きでこのような目に会ってるわけではないのだから、そのあたりはしっかりと説明せねばな。」
白皙の陰陽師のちょっと皮肉っぽい笑顔を思い出しながら、博雅は木のうろに腰を下ろした。

こうして根元に座って見上げてみれば、これはまたずいぶんと大きな木であった。あたりの木々とは大きさももちろん違っていたが、なによりも、普通の木には感じられない風格のようなものが漂っている。
まるで、どこかの社の神木のような…。
「もしかしたらこの木は、この山の主かもしれないな。」
苔むした木肌を撫でて博雅は木を見上げた。
ならば、一夜の宿を借りるのだ、挨拶をせねばな、と博雅は木に向かって声をかけた。

「もうし、山の神よ。私は道に迷って夜になってしまった者です。とても困っております。どうか、一夜の宿を私めにお貸しください。何も持ってはおりませぬゆえ、笛を一節、お聴きにいれます。お聞き苦しくもござりましょうが、どうぞ宿代の代わりとお納め下されませ。」

そう告げると、博雅は懐から葉ニを取り出して吹き始めた。


月の光のきざはしを駆け上ってゆくような博雅の笛の音が、夜の山あいに高く低く響く。
天部の神に愛でられた博雅が、山のとはいえ、神に向かって本気で奏する竜笛の音である。その音は人ならずとも、心を震わせずには置かないほどの妙なる音色であった。

最後の音が山の空気に吸い込まれて消えたとき。

「さてもさても面白い」

高い木立の上より降る声があった。
「良き音色であった。我はこの山を統べるものである、その天上の音色、今一度、我のために聴かせてはくれぬか」
と言葉が続けられた。
頭の中に直に響いてくるような、なんとも不思議な声であった。その厳かな声は、やはりどうやらこの地を司る神のようだ。
博雅は、一夜の宿代ならばお安い御用と、もう一曲、葉二を奏した。
吹き終わると、また、声が降ってきた。
「なんとも良い音(ね)じゃ。まるで、この地に楽の神が下りたもうたようであるな」
そして、ほう、と溜息のような風が一吹き吹いた。
「人の子よ、定めし疲れたであろう。今宵はここでゆるりとするがよい。」
そういって声が消えた。
と、その声と引き換えのように、近くの茂みから、かさこそと音がする。
はて、なんだ?と、そちらに博雅が顔を向けると。

高杯を捧げ持って小さな童が幾人か出てきた。手にした高杯には季節の山のご馳走がうずたかく盛られている。
取れたばかりと見える新鮮な鮎を焼いたものや、香ばしく弾けた栗に、ぷうんと良い香りの漂う茸。
おまけにたっぷりの酒までも。

驚く博雅が、これは何だ?と聞いても、童たちはにっこりと笑うばかりで答えない。ただ、どうぞどうぞと手を差し出して勧めるばかり。
ひとしきり博雅の前にご馳走を並べると、童たちはまた、一列になって茂みの中へと帰っていった。
「お、おいおい!」
あわてて引きとめようとする博雅に、最後尾の童がくるりと振り返って、にこにこと微笑んで小さな手を振った。

「びっくりした…」
あっけにとられて、博雅は童たちの消えていった茂みを見つめた。
が、すぐに気を取り直すと、博雅は目の前に並べられた品々を眺めた。酒の瓶子には、気の利いたことに瑠璃色の杯まで添えられてあった。どうやら山の神に歓待されているらしい。
にっこりと笑んで杯を取ると、博雅はご馳走になることに決めた。
なにしろ、美味しそうな匂いについ、グウと腹もなったことだし。

美味しい山の幸と、上等の酒。
「う~ん、これは素晴らしい。」
山の中をさまよって腹の減っていた博雅は、ニコニコ顔で供されたご馳走にパクついた。もし、そこにいつもの陰陽師がいたならば、お前には警戒心というものがないのかと、きっと怒られたであろうに。

ひとしきり馳走になると、博雅は大きなあくびをひとつ。

「…ふぁあ」

ほろりと酔いも回り、お腹もくちくなって、博雅のまぶたがとろんと落ちてきた。大きな古木に背中を預けて眠りに落ちる博雅。
が、今はもう秋、さすがに山の夜は冷える。
博雅はブルッと震えた。
「さぶ…」
閉じたまぶたの間に小さな皺を寄せた。
簡単な狩衣だけで薄着の博雅、両の袖に手を入れて体の前で掻き合せた。

…博雅は夢を見る。
晴明があのきれいな顔に優しい笑みを見せて自分を手招きしている。
「こっちへ来い、博雅」
博雅は、ああ、今ゆく、と答えて走りよる。
「寒かっただろう?」
そう言って、晴明は博雅の冷え切った体に腕を回して抱きしめた。
「うん、ちょっとな」
笑って博雅は答える。晴明の腕の中は、まるで真綿にくるまれたようにほっこりと暖かかった。
「はあ。あったかい…」
寒さで固まっていた博雅の体から力が抜ける。
「もう、俺がいるから大丈夫。」
晴明は微笑んで、自分の鼻を博雅の鼻にくっつけた。
「ありがと…って、冷た!」
博雅は自分の鼻先を抑えて驚いた。
「なんだ?晴明。おまえの鼻、なんだか濡れてて冷たいぞ。」
「ああ、すまない。なにしろ…だからな」
「なに?なんだって?」

「…だから、しょうがないのさ」

なに?聞こえない、なんて言ってるんだ、晴明?
が、晴明の声がどんどん遠さかる。それとともに博雅の意識も、すうっと途切れていった。


ぬくぬくと暖かい。

「ふう…ん…」

ふわっふわの何かに顔を埋めて、博雅は気持ち良さそうに吐息をついた。


「うわあっ!」
誰かの大声。

…うにゃ、なんだ…うるさい…。

ぬくぬくの何かにくるまれた博雅の眉間に皺がよる。と、とたんに博雅をくるんでいた暖かい何かが、ビュルッ!と風のごとき速さで消えてなくなった。
冷たい山の空気が、一挙に博雅の目を覚まさせる。
ガバッと起き上がってあわてて辺りを見回す博雅。
ほとんど真正面に立ちすくむ誰かと目が合った。
「ん?…ああ、そうか」
自分がいるところを思い出した博雅はゆっくりと立ち上がった。
「ひっ!」
目の前の男が、立ち上がった博雅にびっくりして後ずさる。背中に薪の山をしょってるところから見て、どうやらこの地に住む者のようであった。今にも走って逃げ出しそうな男に、博雅は落ち着いた声で話しかけた。
「ああ、待て待て。逃げずともよい、私は怪しい者ではない。」
「あ、あ、あなたさまは…」
傍目にもわかるほど、ぶるぶる男が震える。
「どうやら、夜も無事明けたようだな…。何を驚いてるのか知らないが、少しものをたずねてもよいか?」
「へっ!へええっ!!なんなりとお聞きくだせえ!で、でも、おらを食ったりしねえと、や、や、約束してくだせえまし!」
しょいこの肩掛けを握る手をガタガタと盛大に震わせて、男は今にも泣き出しそうな声で言った。
「食う?私がおまえをか?」
朝っぱらから何のことだ、いったい?と博雅は面食らう。
「あ、あなたさまは、や、山神さまでごぜえましょう?」
地面にひざをつくと、男は胸の前で手を合わせた。
「ど、どうぞおらをお助けくだせえ。おらには、まだちいせえ乳飲み子もおります。ど、どうぞ、い、命だけはっ!!」
「いやいや、そう必死にたのまれても…。私には人のようなゲテモノを食らう習慣はないぞ。大体、私は、この山の中で迷った、ただの人間に過ぎんからな」
博雅はそう言って苦笑い。
「へ?に、人間??」
「そうは見えないかい?」
だとしたら傷つくなあ、と博雅はにっこりと笑った。
「ふぇええ…」
男の肩から力が抜け、男はその場にくたくたとくず折れた。
「いったい、なんで私が山神なんかに見えたのかね」
どこから見たって人間なんだが。
「そ、そりゃあ、あんなのを侍らせておられれば、ひとに見えるわけござりませぬ」
「あんなの?」
「あ、あなた様の周りにおった、でっかいお狐さまでございますよ。あれは間違いなく、この山の神さまにござりました。うちのひいじいさまが、昔一度だけ見たという姿に、聞いたとおり、そっくりでごぜえました。だから、あなた様もてっきり山の神様のおひとりかと…」
博雅が本当に人間らしいと、ようやく信じたのか男はホッとした表情である。青かった顔にも血の色が戻っていた。
「狐だって?」
今度は博雅が驚く。
「へ?ご存知なかったのですか?ぐるんと丸まって、あなたさまを守るようにそこにうずくまっておりましたよ。」


朝の早いうちから薪を集めに出た男。山一番の古木の根元で、この山の神とされている真っ白な大狐を朝もやの中で見てしまった。それだけでも十分に恐れ多いのに、その白狐が男に気づいた。
蒼く蒼く光る眼が男の視線をくぎづけにする。

「ひ…っ…!」
男が硬直する。手にした薪が足元に転がり落ちた。
 
『そこな人間…』
口もあけずに直接頭の奥に厳かな声が響いた。
「へ、へえっ!」
男がびくっ!と、身をすくめる。
『この方を無事ふもとまでお連れせよ…やんごとなきお方である、心してお送りして差し上げろ…わかったな』
蒼い瞳に射すくめられて、男はものも言えずに、ただただ必死でうなずいた。そして、白い山の神は風のように去っていったのだという。
都から遠い山の中に生まれて育った男にとって、見たこともない上等な絹の衣に包まれた殿上人の博雅の姿は、まさしく天上人のように見えた。狐に言われた言葉の意味を理解する前に、博雅を山神として見てしまったのも無理はないというものだった。

「暖かいと思っていたのは、夢ではなかったのか…」
大きな狐にくるまれて眠っていたと知った博雅、恐れるどころかクスリと笑った。その様子に、男が、やっぱりこのお方は本当は人ではないのではないかと不審の目を向けるのにも気づかない。
「あ、あの…あ、あなたさまはやっぱり…」
「ああ、心配するな、本当にただの人だよ、私は。ただ、ちょっとね…」
そう呟くと博雅は何かをわかったように、またひとつ笑った。
「ま、山の中で迷ったわりには、よい目に会った。驚かせたのは悪かったが、それではふもとまで連れて行ってもらえまいか」
「は、はい!もちろんでごぜえます!」

ふもとの里に着いてみれば、さらに昨夜の状況がよくわかった。
村の長老の話すところによれば、昨夜、山からの使いが里に現れたのだと言う。
見るからに人とは違ういでたちの老人が現れて、「山の神の御許に今晩、客人がある。やんごとなきお方である、できる限りの馳走と酒を献ぜよ」、と告げたそうだ。
それを、山まで童に持たせよ。そうすれば、その帰りにはそれに見合った褒美を授けよう、と。
里の皆は恐れ慄いたが、山の神に逆らうなどもっての外であったし、誰も否とは言えなかった。だが、本当に帰してもらえるかどうかも定かではなかったので、子供らを使いに出そうという親もいない。仕方がないので、村の長老の孫たちがその役を務めることになった。子供らの親は泣き崩れたが、これも長老の務めと、泣く泣く子供たちを送り出したのだが。
童らはじきに帰ってきた…おまけに持ちきれぬほどの絹や玉や珍しい品々を、その小さな腕いっぱいに抱えて。
「私ども貧しい里のものにとっては、精一杯といってもたいした馳走ではございませんでした。なのに、山の神様はそれ以上のものをお返ししてくださいました。」
村の長老は、目にいっぱいの涙を溜めて博雅に言った。
「これもひとえに、御公卿さまが山の神の御客となられましたゆえ…」
そういって、深々と頭を下げたのだった。

「はは…困ったな…」

ただ、山で迷って、山神からご馳走してもらって一晩泊めてもらっただけの博雅は、下げられた頭を前に、困ってしまうばかりであった。



「ま、そんなことがあったのさ、晴明」

いつもの廂で、かわらけの杯を傾けながら、博雅は話を締めくくった。
クイと杯を空けると、博雅はそのまま天高い月を見上げてクスッ、と笑った。
「不思議な話ではあるが…。でも、あれだろ?あの白い狐、あれはおまえだろ?」
「…」
「どんな呪を使ったか知らぬが、でも俺にはすぐにおまえだとわかったぞ」
得意げに博雅はふふんと笑う。

「…なぜ、そう思う?」

それまで、一言も口を挟まずに話をただ、柱の一本に背を預けて黙って聞いていた晴明が、静かに問い返した。

「だって、夢の中でおぬしが俺を手招きしたのだぞ。俺の窮地を知って、助けに来てくれたんだろ?」
さすが、天下に名だたる陰陽師は違うものよなあ、とにっこり笑って、博雅は晴明を振り返った。

「あ…あれ?」
博雅の笑顔が固まる。
目の前に、負のオーラを漂わせた陰陽師が一人…。
「あ、あの…晴明…?」

くっくっくっ…

うつむき加減の陰陽師が、低く笑う。

「あ、あの…ど、どうかしたか…?」

「…俺ではない」
「え?」
晴明が顔を上げた。
切れ長の瞳を細めて、紅い唇の端に笑みともつかぬ笑みを浮かべて…。
「え、え~と…?」
なにやら嫌~な予感が博雅の背中を、ぞくっ、とさせた。
「そいつは俺ではない」
「お、俺ではないって…。ま、まさか。だって…」
「そいつは俺だと名乗ったか?」
その言葉に博雅は、う~んと考える。
そういえば…。
「名乗らなかった…ような…」
「ほら、みろ。そいつは山の神だかなんだか知らぬが、とにかく俺ではない。」
「でも、お前の顔をして俺を呼んだんだぞ」
「おまえのような隠し事のないやつの頭の中など、仮にも神を名乗るものなら、まるで絵巻物でも見るように、はっきりくっきり見えるだろうよ。」
「…」
憮然として博雅は黙り込んだ。
なにも、そのような言い方しなくとも…とも思うのだが、確かに俺は晴明のように、隠し事などできる性分ではない。返す言葉はなかった。
「まったく…よくもまあ、無事に帰してもらったものだな。」
晴明はやれやれと頭を振った。そして、博雅の腕をぐいと引いた。
「わっ!」
博雅の体が晴明の腕の中に倒れこむ。
「おまえのような、人より神の眷属に近いような人間、向こうの意志ひとつであっちの世界に連れ去られてそれっきり、なんてことにもなりかねない…。」
「いやいや、いくらなんでもそんな…」
急に晴明の白い袖の中に抱きこまれて、うろたえる博雅。
「今後このようなことのないように、しっかり俺の印をつけておかねばな」
そう言って、都一の陰陽師はニイッ…と、笑ったのだった。

「う、うわああっ!ちょ、ちょちょちょっと待てっ!晴明っ!ま、待てと申すに~~~っっ!!」

抵抗むなしく、屋敷の奥へと引きずられる博雅の運命はいかに…(って、もう決まってますが。)



あの笛の音を再び、と、博雅の屋敷に忍んできたあの白い狐が、もう一匹のもっと凶悪な白い狐に追い払われたのは、その幾日か後のお話でありました。








     
日本の古い民話を題材にして、ちょっと書いてみましたが…やっぱり、最後はお笑いに走ってしまいましたね…反省(汗)


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