「恋する殿上人」
「や…っ…」
「逃げないでください、博雅さま」
ずり上がって逃れようとする体を抱きとめて男が囁く。
「…む…無理だっ…」
強い力で動きを封じられた博雅はふるふると首を振った。
「わ、私は…男だから…その…あ、あれは…む、無理に決まっておるっ」
今から行われようとしていることを、はっきりとは口にできないウブな恋人に男の口角が上がる。
「ふふ、体を繋ぐのに男も女もございませぬよ」
「ば、ばかな…つ、造りが違うっ」
「大丈夫、ちゃんと代わりになるところがあります…ほら、ここ…ご存知ない?」
股間の奥をすっとなで上げられて男の腰が浮く。
「ひゃ!」
その顔が真っ赤に染まった。
「そそのようなところ…!さ、触るな!」
小さく窄まったその襞を男の指先がくりくりと擦る。
「や、やめろっ…」
拒む言葉と裏腹に男の雄がじわりと硬く熱を持ち始めて…。
「やめろと言われてやめられるようなら、苦労はいたしませぬ。想いびとをわが手に抱いた以上、身も心も私のものにしたい、と思うのは仕方がございません。あなたも男ならわかるでしょう、博雅さま?」
言いながら男の長い指が博雅の屹立に絡みつく。
「こ、こっち側に…つ、ついたことなどない!わ、わかるものかっ…あっ…!」
立ち上がり始めたそれを育てようと、絡みついた男の手が博雅のものを擦る。
「それはそうですね」
頬を染めて嫌々と首を振る博雅に、男はくすくすと笑った。どうやら、頬を染める博雅がお気に召したらしい
「女と交わるのにもここを使いたがる輩はいくらでもおります。むしろこっちの方がよい、といわれる女御どのもおられる。ほとと違ってここは子を孕みませぬからね。男でも女でもここで繋がることになんら不都合はございませぬ。むしろあなたさまのような階級のかたがたはこちらが好みだと仰る方も多うございます。」
「わ、私は、そ、そそそのようなこと…よく知らぬっ…」
鼻の頭に汗を浮かせて体を強張らせる博雅。
「でしょうねえ。…あなたさまはいかにも手付かずだ。私にとってはとても幸運なことに。」
「こ、幸運…って…」
腰から下が燃えるように熱い。男の声が低く耳に響くたび、その手に囚われたそれがさらに熱く熱を持ってびくびくと跳ね、自身の屹立から流れ落ちた蜜にまぶされて摺られる奥の孔の襞からは、濡れた淫猥な音がする。自分と同性の手によって悦びに震える自分の体に、博雅はどこでもいいから隠れてしまいたいほどの羞恥を覚えて、ぎゅっと目を瞑った。
この男のこれ以上ないほどの手厚い看護を受けてすっかり回復した博雅、その間にも友情は確実にもっと違うものへと変わっていったのは重々承知している。
友情と呼ぶにはあまりにも濃密な…。
手を取り合ったり見つめあったりもした。
…それから…くちづけも。
いままで経験したこともない、息もできないほどのくちづけ。
それすらも思い出しただけで顔から火が出そうなぐらい恥ずかしいというのに今の状況は…。
女と見まごうばかりの白皙の美貌の陰陽師を組み敷く場面は想像、というか妄想していたが…逆はナイだろう??
うそだろ?
発火しそうに熱い頭の中で博雅はパニくる。
耳に響く柔らかな低音がぞくぞくと背筋を駆け登り、くりくりと弄られた秘められた蕾が次の刺激を待ってひくついている今の状況では、組み敷く筈の予定が、このままでは組み敷かれるのはもうすでに時間の問題である。
「こ、幸運って…」
なんとなくその先の言葉は想像できたが、恐る恐る博雅は聞いた。
「どういう…意味だ…」
「あなたの初めての恋人になれる…という意味に決まっているではございませぬか」
紅い華のような唇をにっこりと微笑ませて男は答えた。
その答えに、その表情に博雅はゾクッ…と震えた。
女と見まごうばかり…なんてとんでもない。これ以上ないほどの男としての独占欲がその笑顔の底に透けて見えた。
…こいつは…誰よりも『男』だ。
立場が決まった。
「あっ…」
濡れた舌先をその天辺に感じて博雅は思わず声を上げた。
「や…っ…あ…」
「じっとして…」
「…う…っ…」
静かな声で命じられて博雅は唇をかみ締めた。
大きく広げられた下肢の間に埋まるさらさらの薄い色の髪、その髪に博雅は震える手を這わせた。
くちゅ…くちゅ…
じじ…と僅かな音を立てて燃える灯明の明かりの音の間に、糸を引くような粘着質の水音が混じる。
荒い博雅の呼気とともに。
男の紅い唇が博雅のものを根元まで飲み込み、また括れた鎌首の部分まで露わにする。それを繰り返す、その音。
そしてもうひとつ。
その淫らな連動のさらに奥。
硬く閉ざされていたはずの菊の門、その門を男の長い指が一本、二本…三本。博雅の雄を往復する唇を動きを共にしてこちらもまた耳を覆いたくなるような淫らな音を響かせる。
埋め込まれた男の指の腹が博雅の自分でも知らなかった体の内部を探り、ある一点を見つけた。くい、と摩られて博雅の体が反った。
「あ!」
ただでさえ今は男の口腔に嬲られている最中の博雅。柔らかな男の舌に絡めとられた自身のものに電流のごとくに走る感覚に目を見開く。
「…やっ…な、何っ…?」
男の咥内に囚われた博雅、見知らぬ感覚に逃げ出す事もできず、がくがくと小刻みに震えだす
「ああっ…、な、何だ、これっ…?」
股間に顔を埋めた男が博雅のものを口から外し、手を添えてぺろりと舐め上げるとニッ、と笑って博雅を見上げた。
「ここですか、なるほど」
博雅の陰茎をその紅い唇で啄ばみながら男が言った。後ろの孔に埋め込まれた男の三本の指の内、一番長い中指が先ほどの箇所を二度三度と押し上げる。
「あっ!や…だっ…、やめ…っ…!」
男の肩を押しやりながら博雅はびくっ、とその体を震わせた。感じたこともない感覚に男の体がそこにあるにもかかわらず足を閉じようとする。
「ああ、だめですよ、そんなに動いては。じっとして、と言ったでしょう?」
博雅の内腿を外側に向かって押し広げて男は言った。体中の感覚がすべてそのあたりに集中してしまったかのごとき博雅、男に言うなりにその体をさらに開いた。男の目の奥に自分よりも遥かに強烈な「男」を認めてしまった今の博雅には、自分が相手を組み敷くなどという意思はもうなかった。
くちゅり…
男の指が博雅から溢れた蜜を潤滑剤に、淫らな音を立てながら博雅のそ後孔を摺る。はじめ硬かった入り口は、今や熱を持って柔らかく解どけ、男の指を難なく受け入れていた。男の指がまたしても博雅の中の感じやすい処を擦る。
「ううっ…」
びくん、と大きく体を震わせて博雅は歯を食いしばる。その博雅の雄の先端からさらに量を増して、ぷくりと溢れて玉散る蜜。
「もう限界かな?」
くすりと笑って、男が小さな声で言った。
「博雅さま」
男が顔を寄せて名を呼んだ。
「博雅さま、聞こえますか?」
聞こえていないような博雅に、男がもう一度名を呼ぶ。
「…な…なに…?…」
霞む目を必死に開けて博雅は答える。
「頂きますよ」
「な、何を…だ?」
眉根を寄せて博雅は問う。
「もちろん、あなたを。」
言葉とともに、男は深く埋め込まれていた指を抜く。そして空虚になったそこを博雅に惜しませる間もなく、代わりに熱く滾った別のものがその入り口をぴたりと塞いだ。
「すべてを私に下されませ」
「ああっ!」
指など比較にもならない熱い塊が博雅の中をめりめりと侵していった。
「はい、大きく息を吐いて…」
口の端に笑みを乗せて男が言う。
「そうすれば体が楽になりますよ」
「ら、楽に…だって…っ…」
体を強張らせた博雅が目の端に涙を浮かべて睨む。意に反して大きく開かれた足の付け根にぴたりと重なる相手の体、その一部は完全に博雅の内部に嵌め込まれている。
「力が入りすぎなんですよ」
博雅の唇に指先を滑らせながら、男の顔が至近距離に寄る。
「こ、こんなところに…入れられて…体が…おかしくならないほうが…ヘン…だろっ…」
男の指先から自分の蜜の香りが青草く漂う。博雅は眉を顰めて毒づいた。
すべてが相手の前に曝され、囚われ、隠れるすべも逃げだすすべもない。しかし愛しい恋人がすることなのだから嫌ではない、むしろ自分が本当に身も心も相手のものになったことがうれしい。でもそこに最後の男のプライド。博雅は強がって見せた。
「なかなか減らないお口だ、そこも可愛いですけど。」
可愛く(この男にはそう見えるらしい)毒づく唇にちゅっ、と音を立てて口付けると
「ご自分で力を抜く気がないならこのまま行きますよ」
男の手が博雅の腰を掴む。
「私もこう見えて結構切羽詰ってますのでね、初めてのあなたに優しくしてあげたいのは山々ですが…」
ちょっと無理ですね、と、ちっとも切羽詰っていない顔で言うと、ぐり、と博雅の狭い内部にさらに腰を突き込んだ。
熱を持った硬い相手のモノが先ほど指先で感じさせられた秘密の箇所を大きく刺激する。
「ひあっ!」
男に支えられた博雅の体が大きく仰け反った。
体の中心を何かが突き抜ける。ジン…と頭の芯が痺れて全身に汗が浮く。胸の紅いつぼみがキュッと小さく固まった。そのつぼみに唇を寄せてぺろりと舐める男。
「ふふ…そんなに締められると千切られそうですよ、博雅さま。あなたにならそれも本望ですがね」
わずかに息の上がった声でそう言った。
「ば、ばかっ…何言って…あう…っ…!」
ずる…と大きく引き抜かれて、博雅は言葉を途切らせた。男のモノが秘門の入り口を摺る、その感覚が全身を走り皮膚が総毛立つ。力が抜けていないので締められている分だけ、鳥羽口の襞にかかるその刺激もまた大きいのだ。が、普通初めての場合、そんなところまで感じるものはいない。これも天性の感性か。
「へえ、ここも感じるんですか、これはますます重畳。」
もう片方の乳首に唇を移しながら男は機嫌のよい声で言った。
「さすが博雅さま」
蛇の鎌首のようにくびれたところまで引き抜かれた男のそれが、今度は勢いをつけて博雅の中へと差し戻されて、博雅の口から悲鳴に近い嬌声が上がった。
「…んん…っ…」
男の腕に掛けられた足がゆらゆらと揺すられるたびに、博雅の食いしばった口元から小さく声が漏れる。我慢しようにも男のモノが秘門をくぐるたびに生まれる快感はどうしようもないほど博雅の体を煽る。
もっと奥に…
男のモノを感じたい。その熱い杭でもっと奥を貫かれたい。
渇望のごとき思いが博雅の頭に浮かぶ。だが、勿論言葉になど出さない。女のように征服され貫かれて、なお、さらにもっと求めるなんて、これ以上は男としての誇りが許さない。ここまでされてもう男のプライドもないと思うのだが、それでもどこかに線を引いておきたいらしい博雅はグッと奥歯をかみ締めた。
もっと奥に欲しい、なんて…死んだって言えるものか。
紅くかすむ目の奥で博雅は必死に理性をかき集める。
が、口には出せなくても体が求める、引き抜かれるたび、それを追いかけるように腰が動く。ほとんど無意識のうちのその動きに相手の男の目が細められた。
「もしかして…もっと中に入れられたいですか?」
恐ろしくカンのいい男。
「な、なにを…」
言葉に詰まる博雅。真っ赤に燃える頬が代わりに返事をした。
「ふふ、初めてでこれほど感じやすいなんて…本当に、本当に私の恋人は素敵だ」
博雅の腰をグイと自身に引き寄せると男は
「あなたさまの中を私でいっぱいに埋めて差し上げましょう」
そう、博雅の耳元でささやいて己のものを、博雅のその最奥へと突き挿した。
「ひ…っ…!」
目を見開いて博雅が息を呑む。
「やっ…あ…あぁ!」
ようやく息をついた博雅は男の胸に手のひらを当てて、激しく体を震わせる。深い身体の奥に突き当たる男のもの。目じりに勝手に涙が盛り上がる。
「もっと?」
意地悪く囁いて男が自分のそれをぐりと博雅の奥の内壁に擦り付ける。ビクビクと熱く蠢く男の熱茎。
「はあ…っ、や…やだっ…!」
「やだ、なんて可愛い、でももう止まりませぬよ」
博雅の片足を持ち上げて自分の肩に掛けると、男は博雅の最も深い所に挿送を始めた。
ぬぷぬぷと淫らな音を立てて男の熱く猛るものが博雅の奥を犯す。
「素敵な可愛い私の博雅さま、ほら見えます?私のものがあなたを我が物にするところが」
肩に片足を掛けたまま男は博雅の腰を高く持ち上げて博雅に見えるようにした。
持ち上げられた尻に相手の男の腰が当たる音が耳に響く。
苦しいほどに曲げられ持ち上げられた下半身、見たくもないはずなのに誘惑に負けて博雅は薄く目を開いてしまった。
「…!」
自分の尻に突き立てられる男の陰茎。目の前で蜜を零しながら揺れる己のもの。自分の意思と関係なくだらしなく弛緩した己の足。
…そして、淫らなそのすべての向こうに恋人の姿があった。
普段は汗ひとつ、毛筋ひとつも乱れぬ恋人が髪を乱し頬を上気させてそこで微笑っていた。
男の意地もプライドもこの微笑の前にはなすすべもない。
「はは…、わ、私は確かに…お前のもの…だ…」
そう微笑んで博雅は恋人の体を引き寄せた。
「ああ…っ…!だ、だめだっ…!も、もう…!!」
激しい挿送の果てに、そう上ずった声でひときわ高く声を上げると、男の胸にがりっと爪を立てて博雅は大きく口を開いて吐息を洩らした。
「んんっ…!」
びゅる…っ…。
博雅のものの天辺から熱い蜜が溢れ飛ぶ。
熱い白濁が男の腹に飛び散った。
「おやおや、先にイってしまいましたか…いけない人だ」
べったりと腹にかかった博雅の精を一掬い指に取ってぺろりと舐めると、男はくすくすと笑った。
「これからがいいところなのに」
そういうとくたりと力の抜けた博雅の胸に咲く桃色の蕾をきゅっと摘み上げた。
「あっ…ん…っ!」
喉を反らせて博雅が声を上げる。
達したばかりの敏感な体にはむごいほどの刺激。
両方の蕾を捻り上げたまま男は今だ博雅の内部にある己のものを蠢かし始めた。
このように嬲られたことなどない胸の先端からびりびりと雷のように体に渡ってゆく快感。天空を走る雷光のごとく炎の線が胸の突端と自身の男の印と男に犯される秘孔を繋ぐ。
「あなたは私のもの。その私が命じます。…もっと、感じてください、博雅さま。」
博雅の体に折り重なるようにして身体を重ねて男が低く囁く。腿に踵がつくほど深く膝を折り曲げられ、隠す術もないほど広げられる下肢。再び怒張したものが天を仰ぎ、ふるふると震える。
「私もあなたのものです。だからもっと深く、もっと奥に私を迎え入れて…」
「ああ…あ…ああ…もっと…もっと…」
男の声と熱く貫かれる下肢、博雅はうわごとのように声を上げ続けた。
「…なんてことがありましたね」
「…」
まるで絵巻物でも読むように、つらつらと最初の頃の話をする晴明に、博雅は真っ赤になって口をつぐんだ。が、やはりここは一言言わねば気がすまない。
「お、おまえって…なんというか、自分で言ってて恥ずかしいとかないのか」
「恥ずかしい?何がです?」
ちらり、博雅の方を見て
「今とさして変わってはないように見受けられますが?」
そう言って前に伸ばした手をスス…と動かした。
「そ、そ、それは…うん…っ…」
びくっ、と一瞬、身体を弾ませて、博雅はまたしても言葉に詰まってしまった。
それもその筈。博雅の今の状況は確かに昔と大差ないようであった。
「ふふ、でも昔よりいいかも、ですね。随分と身体も心も素直になられた」
「だ、誰が…素直…だっ…」
無理やり慣らされたのだ、と途切れがちな言葉で博雅は文句を言う。
「あなたは私のもの、そして私はあなたのもの。そして何ももまして、互いを求め合う気持ちはやはり素直が一番。そうでしょう?」
フフと紅い唇に笑みを浮かべて、晴明は単衣だけを体に引っ掛けた博雅の体を胡坐をかいた自分の上に引き上げた。
するり、単衣の絹が博雅の裸身を滑り落ちる。
「素直に言いましょう。もう一度…博雅さま」
先に吐かれたものが博雅の太ももを流れて落ちる。
「…ばか。素直すぎだ」
博雅は頬を染めて小さく呟いた。
ちょいやばにもどります