源博雅、その暑気あたり



ドタッ!
玄関へと続く廊下の向こうから何かが、いや、誰かが倒れる音がした。
晴明は読んでいた書類から目をあげるとそれをぽいと無造作にデスクに放り、音のした方へと急いだ。
ほの明るい照明の下、廊下にばったりと倒れている人影。
まるで行き倒れのように片手を前に投げ出す格好でうつぶせている長身の男はほかの誰でもない、もちろん源博雅であった。
「おい、博雅、大丈夫か?」
その頭の辺りにひざをつくと晴明は肩をゆすった。
「ううう…もうだめ…吐きそう…だ」
眉間に苦しげにしわを寄せて、ぎゅっと目をつぶった博雅が言った。
「吐く?こんなところで吐かれては面倒だぞ。ほら、俺につかまれ」
そういうと晴明は自分の首に手を回させてよいしょと博雅を抱き上げた。細い体格の癖に晴明は意外と力はあって、博雅のことを抱えあげてもふらつきもしない。
普段なら抱き上げられでもしようものなら、やめろやめろとじたばたともがく博雅が今はう〜んと唸ったまま抱かれるに任せている。バスルームへと向かいながら晴明は少し心配になってきた、今朝、家を出るときには具合の悪そうな様子などなかったのだ。
 
「うう…」
少しばかりもどして、力なくぐったりと洗面台背を預けて座り込む博雅の顔を心配そうに覗き込んで晴明は聞いた。
「博雅、どうしたと言うんだ?なにか悪いものでも食ったのか?」
心配げにそう聞いた晴明を、なぜかじろりと博雅はにらんだ。
「ヘンなものなんか食ってない。でも、お前のせいなのは間違いない」
「俺のせい?なんのことだ?」
「お前のせいで具合が悪くなったと言っているんだ」
 
それはこういうことだった。
夏休みもまっさかりの今日。博雅はいつものごとく、弓道部の練習を指導するため学校へと向かった。
その日は朝からテレビの天気予報で、今日は今年最高の記録的な猛暑となるでしょうと言っていた日であった。
時々休憩も挟みながら練習は朝から昼過ぎまで続いた。いくら少しばかり屋根があるからといっても炎天下の戸外である。みな、ぐったりと暑さに参っていた。
なるべく涼しくと、Tシャツ一枚にハーフ丈のトレーニングパンツで練習する部員たちの中、コーチをしている博雅は見ているだけでも暑くなりそうな服装だった。
あごの下まできっちり隠れるハイネックのTシャツは手首まである長袖、それだけでも暑いのに、さらに長いトレーニングパンツ。のぞいている肌は手と顔ぐらい、とても炎天下でする格好ではなかった。
「せんせ、暑くないの?」
「見てるだけで、マジあっちーんだけどー」
「心頭滅却すれば火もまた涼し、ってな。全然、暑くないさ」
からかったり、心配したりしてくれる生徒たちに向かって、博雅は余裕のある顔で笑った。
…実は、死ぬほど暑かったが。
練習を終え、生徒たちが帰るのを見届けてから車のエアコンをガンガンに利かせて帰ってきた博雅だったが、一日中暑さを我慢し続けていた体は車のエアコンも効かないほどに熱を内にこもらせてしまっていた。
ふらふらの状態でようやく家まで帰ってきたまではよかったのだが、玄関を入った途端、気が緩んだのか博雅は目の前の風景がぐらりと平衡を失ってそこで倒れてしまったのだった。
 
「熱中症だな。しかし何だってそんな格好で行ったんだ。もっと涼しい服を着ていけばよかったのに。それに何で俺のせいなのだ?」
事情を聞いた晴明の最後の一言に、博雅はふらつく体で立ち上がると、バッ!ときていた長袖のTシャツを脱ぎ捨てた。
「こんなので薄い服なんか着れると思うか!」
服を脱ぎ捨てた博雅の上半身には、昨夜晴明のつけた紅いくちづけの跡がまるで花びらが舞うように派手に飛び散っていた。
首筋、鎖骨、胸、へその辺り。そして、腕にも。
「…これはしたり」
にやっと笑って晴明は言った。
「これはしたり…じゃあない!こいつのせいで俺は…」
のぼせた頭に血が上ったせいだろうか博雅の体がぐらりとかしいだ。
ふっと意識をなくして倒れ掛かる博雅の体を、晴明がぱっと抱きとめた。じかに触れた博雅の体は、ほんのわずか抱きとめただけでもわかるほどに熱く、熱を持っていた。
 
冷たくやわらかい何かの感触に、博雅はゆっくりと意識を取り戻した。
どうやら自分はベッドに寝かされているようだ。またひやりと冷たいけれど、やわらかいものがぐたりと力の抜けた博雅の体をやさしくこすった。冷たくぬらしたタオルのようだ。
「晴明…?」
「俺以外に誰がいる?」
笑いを含んだ声が薄闇の中から聞こえた。
「吐き気はどうだ?もう大丈夫か?」
ベッドサイドの柔らかな明かりをつけて、晴明が顔を寄せた。
「ああ、もう大丈夫みたいだ。俺、もしかして気を失ったのか?」
ゆっくりと半裸の身を起こした。
「俺が怒らせてしまったからな。悪いことをした、すまんな博雅。」
そばのテーブルから冷たいミネラルウオーターのペットボトルを取って、それを博雅に渡した。
「お、ありがと」
ごくごくとのどを鳴らして博雅は一息でそれを半分ほど飲みほして、ふうっと息をついだ。
「もう少し横になってろ」
手から残ったボトルを取り上げると、肩を押して博雅をもう一度横にならせる。
博雅はいわれるままに横になった。
そばに置かれた洗面器にタオルを浸す晴明をぼうっと見つめた、洗面器には氷が入っているらしく、水音にまじってカランカランと小さな音がした。
「博雅。これは間違いなく熱中症だ。あんまり無理をすると死ぬことだってないわけじゃない。いくらおれがつけた跡がいやだからと言ってあんまり無理をしてくれるな。」
それから、悪かったともう一度謝ってくれた晴明に、あまり怒りの持続しないたちの博雅はやさしく笑んで答えた。
「その…つけるなとは言ってない。ただ場所だけは考えてくれ」
目をそらして照れながら言う博雅。大の男の癖にこんな風に恥ずかしがるところが妙にかわいい。
その博雅の様子に、晴明の目がつい、と細められた。こういう表情の時の晴明には気をつけたほうがいいのだが、今の無防備な博雅にはそれに気づく注意力はない。
「ああ、今度からはそうする…さて、ではこの際だ、お前に熱中症の手当てについて少しレクチャーしてやろう」
「え?いいよ、そんなの」
「いやいや、お前でなくてもかわいい生徒の一人がこんなふうに倒れでもしてみろ、そんなときにすごく役立つぞ。覚えておかない手はなかろう?」
「ま、まあ確かに覚えておいて損はないかもな…」
さてどうしようかと考えている博雅の顔に、ひんやりと冷たいタオルが押し当てられた。
「まず、頭を冷やすこと」
博雅の返事も聞かぬうちに、晴明の熱中症の緊急時における手当てのレクチャーが始まった。
「おい、晴明、俺はまだ聞くとはいってないぞ。」
「お前の手当てもかねてだ。黙って聞いておけ。」
博雅の意見などハナから無視して晴明は続ける。
「まったく…でもまあ、これは確かに気持ちがいいな」
じんわりと顔の熱を冷ましてくれる冷たいタオルに、満足のため息をつく博雅。
 
「次に大動脈の近くを冷却する」
氷の入った水に漬かっていた晴明の手のひらが博雅の両脇に差し入れられた。冷たくぬれた手に触られて博雅がびくっと飛び上がった。
「つ、冷たい!」
あわてて起き上がろうとする博雅を制して晴明は淡々と言った。
「じたばた動くな、熱中症のときはなるべく涼しくして体をじっと休めることが肝心だ」
それでも冷たく濡れた晴明の手の感触は、体中の血がざわりとするほどに博雅の心を乱した。
「わきの下に大動脈が通っているからな、まずここを一番に冷やす。」
「…なるほど…って、晴明!それは治療の一環か?」
今度こそガバッと体を起こして博雅は聞いた。
顔の上から濡れたタオルが転げ落ちた。
晴明の手が博雅の胸の小さな突起を摘んでいた。
「土御門流…かな?」
にやっと笑って晴明の舌が摘んだその桃色の突起をぺろりと舐めた。
「あっ!」
博雅の体がびくっとはねた。
「気化熱でも冷える。」
「な、なにが気化熱だ!やめろって」
博雅の言葉に聞く耳も持たない晴明。片方の突起をくりくりと指先でもてあそびながら、もう片方に舌を這わせる。存分に舐めあげると、つくりと立ち上ったその小さな胸の蕾みに歯を立て、かしりと甘噛みした。博雅が敏感に反応する。ちいさな蕾ではあったが、それは晴明の手によってすっかりと、感じやすいポイントとして開発されていた。
「あ…!」
胸の突起からもろに下半身へと電流のように快感が走り、思わず晴明の手の中から逃げようとする博雅の腕を掴んでさらに口の中にとがり始めた突起を含む。
「ああっ!」
舌で尖った粒をころころと転がされて博雅の唇からさらに声が上がった。
 
「そしてもうひとつの大動脈に一番近いところ…それがここだ。」
晴明は博雅の胸から唇を離すと、手をまだ氷の浮いている洗面器の水に浸し、その冷たくぬれた手を博雅のトレーニングパンツの中へとするりと差し入れた。
その手が博雅のもののすぐそばの両脇に当てられた。
「ここも冷やす。そうすると体に流れる血管が冷えて体温を下げる働きをする」
「あ…やめ…」
晴明によってずるりと下衣を下げられて博雅は声にならぬ声で抗らう。
下衣から天を向いて博雅のものが跳ね出た。晴明の手がその昂りをそっとなで上げ、ジワリと露の染み出したその頂点を親指の先でぬるぬると弄る。
下衣からその部分だけが飛び出した格好の博雅は、恥ずかしさのあまり晴明の腕をぎゅっと掴んだ。
熱のこもったように赤らんだ頬に汗を浮かべて博雅がぷるぷると首を振る。
「やめ…っっ!」
「どうやらここも熱をもっているようだな。一度熱を放ったほうがいいな。」
博雅の小さな抗議など軽く無視して晴明は一気に下衣を剥ぎ取った。博雅の長い脚がすべて晴明の目の前にさらされた。
閉じようとするその脚をぐいと開いて晴明の体がその間に割り込んできた。ネクタイをしゅるりと解くとまず袖口のボタンをはずしそれからワイシャツのボタンもぷちぷちと外した。
 
晴明の舌が博雅のものをざらりと弄る。冷たい手で根元をしっかりと押さえられたそこが晴明の口内でびくびくと震えている。
「せ…晴明っ…は、離せっ!…もう…!」
迫りくる射精感に博雅が泣きそうな声で訴える。その手が晴明の肩を掴む。
「遠慮などするな…飲んでやる、出せ」
「ば…ばかっ!」
博雅が言うのと、晴明の舌先が一番敏感な鈴口の割れ目にねじ込むようになめ上げるのとはほぼ同時だった。
「くう…っ!」
晴明の口内に博雅の放った熱い精が解き放たれた。
こくり…
晴明ののど仏が一度上下した。紅い唇の端をつうっと白い博雅の放ったものが伝って落ちた。それを親指でくいとぬぐう晴明、指先についた博雅のものをぺろりと舐めた。
両手で顔を覆い荒い息を吐く博雅の首筋に手を這わせる。
「まだまだ熱いな。」
「ち、違うこれは…」
「いや、まだ体が熱を持っている。こういうときはやはり中からも熱をとらないとな。」
明らかに楽しみ始めている晴明には博雅の必死の抗議など届くはずもなく。
 
「ほら、もうひとつ…」
つるりと硬く冷たい塊がもうひとつ、博雅の秘められた後孔へと押し込まれた。
「やっ…!」
晴明の強い手に押さえられた博雅の細い腰がビクッと跳ねる。
溶けかけて小さくなって角の取れた氷が博雅の中にいくつかもうすでに納まっていた。
体の奥の方がその氷でひんやりとつめたいのを微妙な感覚で博雅は意識していた。
「もういいかな…」
晴明の指が博雅の中へと差し込まれて中の氷をころころと動かす。その今まで経験したことのない感覚に、博雅はまた腰をそらせて呻いた。
「…うう…んん…っ」
もう一度硬く立ち上った博雅のものに背後から手を回してきゅっと握り締めると、晴明はその耳元で低い声で言った。
「いれるぞ…」
「えっ!でも…」
中にはまだ、溶けかけて小さいとはいえ、いくつもの氷が、そう言わなければ…
けれどもそんなことも伝える間もなく、晴明の硬いものが博雅の後孔を押し広げて侵入してきた。
中の氷をさらに奥にと押し込みながら晴明のものが容赦なくぎりぎりと入り込んでくる。押された氷の塊が、博雅の一番感じるところをぐいっと押して刺激した。とたんに博雅の体が大きく跳ねて悲鳴のような声が上がった。
「ぁあああ…っっ!」
博雅の中で溶けた氷が晴明のもののすべりをさらによくしてくちゅくちゅと隠微な水音を立てる。
体の奥に冷たい氷の感触があるのに晴明の熱い燃えるような熱の塊をも感じる。その長くて熱い昂りがごろごろと氷を体の奥でかき混ぜるその相反する二つの感覚に博雅は我を忘れていつも以上に乱れた。
くしゃくしゃになった少し長めの髪を振り乱して晴明のものに自ら腰を押し付けてもっととねだる博雅は、大人の男の癖に晴明にとってはどんな女よりも可愛く見えた。
可愛い博雅、俺の前でもっと乱れてくれ…
その奥に自身を深く深く何度もうずめながら晴明は乱れる博雅に心の中でそういった。
 
二度目の気をやってぐったりとうつぶせる博雅の額に手を当てて晴明は満足そうにいった。
「お。博雅、熱が引いたようだぞ。」
「なに…が手当ての方法だ…」
まだ目もあけることのできないほどに息の上がった博雅が搾り出すような声で言った。
「こんな手当ての仕方があるか…」
ようやく片目だけを開けることができた博雅は、恨めしそうな目つきで涼しい顔をしている傍らの晴明を見上げた。
色白ですべらかな胸をした晴明は、まるで皿いっぱいの生クリームをなめた後の猫のような顔で微笑んでいた。
「なんだ?気に入らなかったか?」
「気に入るとかどうかの問題では…こら!晴明、なにをする!」
「いや、お気に召さないならもう一度…?」
博雅の背をつつっと滑り降りた晴明の指先が博雅の双丘の谷間をすべる降り、たった今まで晴明のものを貪欲に飲み込んでいた秘所へとつぷりと潜り込んだ。まだ閉じきらないそこは晴明の指を何の抵抗もなく飲み込んだ
「ま、待てって、晴明っ!」
いまだ力の入らぬ体を起こそうとしたが、それを晴明に軽々と押さえつけられて博雅の悲鳴が小さな明かりだけがともった室内に響き渡った。
 
その翌日。
「先生、今日もそんな格好して。大丈夫?」
「マジ暑そうだよ〜」
そんな生徒たちの少し心配そうな言葉に、博雅は引きつった笑みを見せて答えた。
「せっんぜん大丈夫!心頭滅却すれば火もまた涼し!ははは…」
その汗だくの長袖ハイネックの下には昨夜つけられたばかりの新しい紅い跡がてんてんと…。
 
(あのやろう、絶対わざとだ!今日は昨日のような醜態は絶対見せないからなっ!)
 
ぐっ!とこぶしを握り締めると、今日もぎらつく太陽を挑戦的ににらみつけた博雅であった。
 
 






あまりにも暑いので頭の中も発酵してしまいました。(汗)
 
 
ちょいやばへ〜♪