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    「源博雅、その運のつき」


渡殿の向うに何人かの人影、その中の一人に博雅の目は吸いつけられた。
周りのものより頭一つ背が高い。
すらりとしたその立ち姿。
一番身長があるくせに一番優雅に見える。
 
なのに、なんだ、あの顔は。
 
せっかく綺麗に見えるのにもったいないと、博雅が思うのも無理はなかった。
立ち姿は優雅そのものなのに、透き通るような花の顔(かんばせ)はこれ以上ないほど不機嫌そうにむっつりとしていた。
 
ああいうのを仏頂面って言うんだな。
 
せっかくの綺麗な紅い唇がへの字に曲げられ、美しい線を描く柳眉の間には目いっぱい寄せられた皺がよっている。おまけにその目つきときたら、抜き身の太刀のごとく剣呑で険しかった。
 
ああ、もったいない。
 
思わず博雅は、はあ、と大きくため息をついた。自分の前でふうわりと微笑むその顔を知っているだけに、なおさらにそう思う。
そのため息が聞こえたのだろうか(物理的に無理なはずなのだが)その人物が急にこちらを振り向いた。
 
「おっと…やばい」
あわてて博雅はすぐ傍の御簾の影に身を潜めた。
 
「おや、博雅どの、こんなところで何をやっておられるのです?」
御簾の影にぴたりと背をつけて隠れる博雅に通りすがりの顔見知りが不思議そうに声をかけた。
「あ!いや、その〜何でもない…です。お、お構いなく!」
ぱっと背を起こし、にっこりと笑うと博雅はその場からあわてて離れ、廊下に出た。ぱたぱたと早足で角を曲がったところで誰かにドンとぶつかった。
 
「っと!申し訳…ひっ!」
 
ぶつかった事を謝罪しようと顔を上げたところで、目の前に立つ人物に思わず素っ頓狂な悲鳴が出た。
 
先ほど遠くから見ていた人物。都一の呼び声も高い高名な陰陽師、安倍晴明であった。
 
…そして博雅の現恋人でもある。
 
「ひっ…ですか」
冷た〜い声が静かに言った。
「あ!その!いや…え〜」
だあっと全身に冷や汗が流れる。ついさっき、あんなに遠くにいた男がなんだってこんなところにいる??わけもわからず取り乱す博雅。
でも、よくよく考えてみれば何も悪いことはしていない、ただ、遠くからその姿を眺めていただけだ。博雅は気を取り直して逆に強気に出た。
「お、おぬしこそ、な、ななな何だ。急に目の前に。」
「…私のことを見てましたね」
博雅の強気なせりふなどハナから無視する晴明。博雅の目をじっと見つめてそう言った。
「は?はい??」
思わす声が上ずって語尾が上がった。
 
あの距離で視線に気づくとはなんて鋭いヤツ。
 
「…私ね、今、ちょっと機嫌がよくないんですよ。ここにくるとロクなことがなくって…」
ほう…とため息をついて上を見上げる晴明。
鋭利な角度の頤に、すっと伸びた鼻筋、ばさりと長い睫が物憂げに伏せられるのを見て、つい、なんちゅう綺麗な男だと博雅は目を奪われる。が、この美貌にだまされてはいけないことを、まだ、恋人としての時間の短い博雅は知らない。
「でも、あなたに会えたからよしとしましょう」
にいっと笑みを浮かべる晴明。紅い唇の端が妖しげにきゅっと上がった。
「え?はっ??」
ついぼけっと見ほれていた博雅、なにがなにやらわからぬうちに、ガシッと晴明の腕のなかに抱き込まれた。
「えっ!?ちょっ!ちょっと、待て待てっ…!」
あたりをはばかって小さく抗議する博雅の声を無視して、晴明は御簾を掻き分け几帳を潜ってどことも知れぬ暗がりに博雅を引っ張り込んだ。
 
「な、ななな何だ、ここっ!?」
人の二人も入ればろくに身動きもできないほどの狭い部屋というか…隙間。
まだ日も高いというのに、至近距離でないと相手の顔も判別できないほどの暗がりに、博雅は驚いて声をあげた。
「しーっ、静かに」
博雅の腰に手を回して自分の方に引き寄せると晴明はその耳元に低く囁く。
「こ、ここは、いったい…」
思わず声を潜めて博雅はあたりを見回す。長く宮中にいるが、こんな昼なお暗い、秘密の匂いがぷんぷんするところがあったなど、聞いたことも見たこともなかった。
「あなたがこんなところなど知るわけもありません。この宮中にはあなたのようなまっとうな人間が知らないことがいっぱいあるのですよ…」
言いながらクスクス笑って、晴明は博雅の耳たぶをかぷっと咥えた。
「…あっ!…こ、これ、やめろ…」
思わず小さく声を上げ、焦って博雅は晴明の体を押した。細身のクセに妙に力のあるこの男はもちろんびくともしなかったが。(どうやら、どく気はさらさらないらしい)
「こ、ここがどんな所かは知らぬが、我が君の足元には違いないだろうが!なにをする気だっ!」
ほの暗い中で博雅はキッと晴明を睨んだ。
「何って…決まってるでしょうが。こんなところに呼びつけられて、したくもない仕事を押し付けられてイラついていたところに、あなたを見つけたのだから…ねえ?」
耳元に低く囁かれる晴明の甘い声。
思わず背筋をぞくっと何かが走ったが。
「ねえ、じゃない。おぬしの屋敷やどこかならともかく、ここはだめだっ!っていうか、とにかく今することじゃないだろっ!宮中だぞ!」
その背筋に走る「何か」を無理やり無視して博雅は迫りくる晴明を制した。
「なんと頭の固い…みんなやってることですよ。もちろん、あの男だって」
博雅の抵抗もなんのその、束帯の蜻蛉を器用に片手で外しながら晴明はしれっと言ってのけた。
「あ、あの男って言うなって何度言ったら分かるんだ。そ、それに皆がやってるなんて言葉に俺が騙されると思うか!」
帝をあの男扱いされて帝命の博雅のトーンがついつい上がる。
「静かに…って、言うだけ無駄か」
あきらめたようにそういうと、彼の男は博雅の頤をくいと持ち上げて、まだ物の道理を説き続ける博雅のその騒がしい唇を自らの唇で塞いで黙らせた。
「…んむっ…」
 
 
 
どことも知れぬ暗がりの壁にその背を押し付けられる博雅。乱れた束帯の袷に晴明の細い指が這う。
 
「ちゃんと後で着せてあげますからご心配なく…」
そういって晴明は博雅の石帯をしゅるりと外した。重い絹擦れの音を立てて袍 (うえのきぬ)が床に滑り落ちた。
「や…やめ…」
さらに下へと伸びる晴明の手を止めようとする博雅の手を、逆に壁に縫い止めて
「どうしてやめられます…?いとしい君…」
そういって晴明のくちづけが博雅の頤を辿り、下へと向かっておりてゆく。
寛げられた袷から覗く博雅の滑らかな胸、そこに咲く小さな二つの突起、その片方に晴明のくちづけが辿りつく。
舌先でツンと突ついてやるとその小さな突起が目覚め、徐々に硬く立ち上がりはじめる。
「可愛いですね」
そう言うと晴明はそれを唇の間に挟んでツイと引っ張る。
「あ…んっ…」
博雅が、晴明と絡ませた手に力を込めて小さく唸る。だめだ、いけないと思っても、体は徐々に晴明の支配の下に嬉々として屈しようとしていた。
次々と解かれてゆく装束が床に小さく山を作ってゆき、代わりに博雅が何かの贈り物のようにその包みの中から現れる。
袍 と色を合わせた単の下から、程よく鍛えられた滑らかな体が現れる。足首で結んだ足袋だけのすんなりと伸びた脚の付け根に嫌がる博雅とは意思を異にしたものがゆっくりとその身をもたげていた。
晴明の手のひらがそれをそっと撫で上げる。
「…はっ…あ…」
博雅の体がびくっと跳ねた。
軽く撫で上げた後で再びその付け根に戻ってそこをぎゅっと握り締めると、博雅の腰がふわっと壁から浮いた。
「擦ってほしい…?」
「い、いらないっ!」
体とは裏腹に博雅は必死で首を振る。
「…石頭ですね…ほんと。」
口の端をちょっと上げてそう言うと晴明は博雅のそれをゆるゆると扱き上げ、頑固なその口に自分の舌を滑り込ませた。頭と同じく必死に食いしばるその歯列をやんわりと舌先でなぞり、ふっくらと濡れる下唇を小さく噛む。眉間にしわを寄せて湧き上がって来るいろんなものをこらえる博雅に
「口を開けて…」
吐息とともに命ずる。この際、どっちが上の身分かは関係ない。(それは先日確認したことだったし)
ますます頑固にぎゅっと目をつぶる博雅にさらに命じた。
「博雅…早く」
甘く名を囁かれて思わず博雅の唇が開く。その隙を逃さず晴明の舌が魔物のようにするりと博雅の咥内に滑り込んだ。
 
「ん…む…っ…」
晴明の熱を持った舌が博雅の舌に絡みつき、幾度も角度を代えて二人の唇が重なる。博雅の鼻や額にうっすらと汗が浮かぶ。息すらさせてもらえぬほどのくちづけに博雅の頭の芯がジン‥と痺れ、ここがどこなのかを忘れさせてゆく。
指先を絡ませた片手が壁に押し付けられる。くちづけが深くなるたびごとに、絡まる博雅の指の関節が白く浮き上がった。その博雅のもう一方の手は晴明の首にかかり、いつの間にか無意識に晴明の体を自分の元に引き寄せている。
そんな博雅にくちづけを続けたままの晴明の唇に、気づかないほどの笑みが浮かぶ。
ここがどこかも忘れて自分に溺れる博雅が愛しい。

「本当にあなたに会えてよかった」
今日、会ったことだけを言っているのではない。が、晴明の手の中で我を忘れつつある博雅にはちゃんと伝わっているかどうか。くすっと笑うと、晴明は宮中で育ったも同然の博雅が知らないというこの秘密の暗闇に、誰も入れぬようにさらに結界の呪をかけたのだった。

晴明の手が博雅のものを愛撫し続ける。
「は…あっ…あ…ん…」
きつく目を閉じ、天を仰ぐ博雅の唇から途切れなく艶めく声があがる。博雅の先端から溢れる露が、その手によって暗く狭い闇の中にじゅくじゅくと淫らな音を響かせていた。
熱をはらむ闇。
熱い吐息や、単が片袖で引っかかっているだけの博雅の体から登る熱を帯びた香りが、その闇を一層濃く、淫らなものにさせていた。
晴明によって煽られてしまった博雅。もうここがどこだか、朦朧とした頭には判別がつかなくなりつつあった。
ただ、ひたすらに晴明の手を、唇を、その意識が追う。
知ってしまった快楽と呼ぶにはあまりにも強い晴明との絆。
それを早くこの身に感じたくて博雅の体が震えた。
 
晴明のまだ衣をつけたままの脚が博雅の素足を割る。片足を持ち上げられ、双丘をぐいと広げられて博雅は思わず晴明にぎゅっとしがみついた。
「そう、ちゃんと掴まっててくださいね」
少し息を弾ませながら晴明が言った。
「おっと、それから…」
忘れていたとそういって晴明は懐から何か取り出した。
「な、何…?」
猛った自分のものに何か違和感を感じて博雅はぼうっとした目を開けた。
「なんでもありませんよ。気にしないで」
晴明はにっこりと笑んでちゅっと博雅に口付けた。
「で、でも…つあっ…!」
もう一度聞こうとした時。
広げられた後孔を割って晴明の錬鉄のような熱い楔が博雅を貫いた。
「ああっ…!」
止めようのない声が上がる。
壁に預けた博雅の背中が弓のように反った。
「しい…っ」
その背を支え、博雅の両脚の間にさらに深く腰を入れながら晴明がその耳元に囁く。
「聞こえちゃいますよ…あの男に」
低く笑いを含んだ声。
「ぐっ…!」
ここがどこだか、脳裏を寸の間、理性がよぎる。零れそうになる喘ぎを晴明の紺色の束帯に額を押し付けることで必死でこらえる博雅。
「そう…静かにね」
博雅をきゅっと抱きしめて晴明は言った。
 
 
持ち上げられた片足が力なくふらふらと揺れる。まるで命綱のように晴明の首に両手を回してつかまる博雅。伏せられた長い睫毛が苦しげに震える。
男として女御を抱いた時には感じたこともない苦しいほどの快感に、身も心も浚われる。
晴明の熱い楔が、自分でもまともに触れたことすらない場所を行きつ戻りつする。空っぽになって満たされて、また空っぽになって満たされて…。その部分が溶けて晴明の体の一部になってしまうような不思議な感覚。
 
「んっ…はあっ…」
 
晴明の耳に博雅の熱い吐息がかかる。
「あ。」
思わず晴明からも声が漏れる。同時に博雅の中を摺るそれがドクンと質量を増した。
「私にこんな声を出させるなんて…参ったな」
少し困ったように言う晴明。
「まったく、あなたぐらいだ。こんなに私を熱くさせるのは…」
そういうと、晴明は大きさを増した自分のものにビクビクと体を震わせる博雅の腰を抱えなおした。そして、ずり落ちそうに壁を滑る博雅を壁にしっかり縫いとめると最後の抽送を開始した。
経験の浅い博雅のその最奥に激しく突き上げる晴明のもの。
「あっ!やっ…!」
閉じたまぶたの裏に星のような閃光が飛ぶ。突き上げられるものに煽られて激しい射精感が博雅の熱茎を襲う。
「ああ…」
もうイク…そう思った。
 
なのに。
 
「悪いね、博雅どの。」
そういって博雅の中に白い精を放ったのは、かの陰陽師、晴明だけ。博雅の方はといえば、襲い来る快感は間違いなく体を巡りはしたが、肝心の最後の放出がない。ジンと痺れたように熱いそこをぼやけた視界で見てみれば…。
 
「な、…なに…これ…」
 
いつの間にやら猛るその根元に白いこよりが巻きついている。
「博雅殿の中にならともかくも、私の衣にかかったりしたら、いかな陰陽師といえど、ちょっとばかり格好がつきませんから。悪いとは思いましたが今は我慢して下さいね。」
「…は?え?」
未だぼうっとする博雅にはなにがなんだか理解できない。
「大丈夫ですよ。そんな顔しなくたって。今すぐ屋敷に戻って、ちゃんとイカせて差しあげますから」
そう言って、晴明は泣きそうな表情の博雅の中から自身をずるりと引き抜くと、すまなさそうににっこりと微笑んだ。
 
 
「博雅様に置かれましては、悪い霊の風に当たられて急に具合がお悪くなられました。つきましては、この晴明めが責任を持って博雅様に害なす悪霊を払わせていただきたく…。」
赤い顔をしてぐったりとなった博雅の背に手を添えて、晴明は帝の前で深々と頭を下げた。
 
あの男呼ばわりするより百倍タチが悪い…。
 
体から抜けない熱の中、ぼうっとする頭で博雅はそう思ったのだった。

見目麗しくはあるが、その気になれば誰より狡猾で神経の太い博雅の想い人。
…そんな晴明の姿を目にしたのが、今日の博雅の運のつき。









「縛り」が好きというわけでは…(汗汗)
     


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