源博雅、その危ない休日


ちゅんちゅん、ちゅちゅん…。
カーテンの向こうから朝を告げるスズメの声。
「朝だなあ…」
くしゃくしゃの髪の中でぼうっとした目をぼんやりと開けて博雅はつぶやいた。その腕の中には抱きこまれてつぶれてしまった羽枕。いつもなら、自分の方が抱き枕代わりにされている方なのだが、今日はいつもとは少し違う。
誰もいない隣のスペースをなでなでと撫でて博雅は大きなあくびをひとつ。
「どうせ、休みだ…もうちと寝るか…」
ふにゃふにゃと呟くと博雅はもう一度ふかふかの枕に頭を沈めた。
平和な日曜の朝、いつもならば隣に横たわる博雅のマイハニー、平成に蘇った最強の陰陽師、安倍晴明ことアキラは仕事のためお留守である。
日曜ともなれば、休みに乗じて朝からもう一回、なんてしょッちゅうあることなので、その当事者のいない今朝はとっても平和せあった。
二度寝のできる幸せをぬくぬくと感じながら、博雅はくう…ともう一度、眠りに落ちかけた。
「また、寝るのか、博雅どの?」
耳元で突然、声がした。
「!?」
パチッ!と博雅の目が開く。
目の前に朱呑童子の顔があった。
「ど、どどど童子どの??」
がばっ、と起き上がり博雅は驚いた声を上げる。
「いかにも」
ベッドのマットレスにひじをついて華のような笑顔を浮かべるその男は年のころなら、晴明とそうは変わらなく見えるが、実は千年以上は遥かに超える都に君臨する大妖、大江山の朱呑童子である。またの名を酒呑童子とも言う、美しく見えるが昔はその恐ろしさゆえに都を震わせた鬼の総大将。ひとを引き裂き食らうことに何のためらいもない非道の妖し。
その妖しが博雅に向かって優しげな笑みを浮かべる。
「よい天気だ、我と出かけようではないか」
びっくりして固まっている博雅の頬にツツッとその長く冷たい指を走らせると
「世の中はどうやら異国の神の祭りらしいからな。」
そういって、ニッと笑った。
華のような笑顔の口元で、キラリと長く伸びた鋭い犬歯が光った。

「なんでこんなことに…?」
隣の運転席で軽々とハンドルを操る横顔に、博雅は思わずはあ、とため息が出た。
「何をため息などつくのだ、博雅どの」
「何をって…マズイでしょ、やっぱり」
本日お留守のマイハニーの顔を思い出す。
「おぬしは自分がどこかにゆくたびに奴の許しが必要なのか?」
ちらりと博雅に目をやって童子が少し小ばかにしたように笑った。その笑顔に博雅が少しばかりムッとする。プライドが少々傷ついたらしい。
「そ、そんなものいるワケないでしょう。」
「なら、何の問題もないではないか。少しばかり我と出かけたってな」
「も、もちろんですとも!」
売り言葉に買い言葉。

「それにしても、童子どのがクルマの運転だなんて…」
ようやく落ち着いた博雅が言った。朱呑童子のような大物の妖しが、こんなヒトじみた真似をするなんて。
「なに、これはこれで便利なものだ。トロい牛車や、臭い鬼なんぞに乗るよりはよっぽど快適だ。だいたい、こいつは文句を言ったり鳴いたりしない」
童子はくすくすと笑った。無表情のときでさえ、とてつもなく綺麗な顔をしているのに、それが微笑んだりしたらまるで神か天使のごとき美しさである。
いくら晴明に、あの鬼王が綺麗なのは顔だけで心の中は真っくろけだ、などと言われても博雅にはどうしても信じられない。ついつい、この清らかに見える童子の美しさに判断力を失う。
街はクリスマスが近いせいで、いつも以上に活気付いていた。童子の言う異国の神の祭りとはこのことだ。
「童子どのがクリスマスですか?」
自分よりいくらか上背のある童子と並んで歩きながら、博雅はおかしそうに言った。
「おかしいか?」
「ええ、なんだか」
「そうでもないぞ。あの千年の昔から、この日の本の国はいろんな国のものを受け入れてきたではないか。唐しかり、隋しかり。近いところではオランダ、アメリカ、イギリス、ドイツ、この国ほど節操もなく、とつくにのものを受け入れてきたところはないと思うがな。」
「なるほど」
童子の見識に驚く博雅。
その博雅をちらっと見て
「我がそういうことを知っているのはおかしいか?」
童子はちょっと皮肉っぽく笑った。
「いえ!そんなつもりでは」
「長い時を生きているとはいえ、我にも考える頭ぐらいはついておる。これでも色々考えておるのだ。」
焦る博雅に童子はそう言った。そして、
「だがな、長い時を生きるのは、存外つまらぬものだ…」
「…え」
人でいっぱいの雑踏のなかを歩きながら、ぽつりと童子が呟く。
「我はな、博雅どのに感謝しておるのだ」
「私に…感謝?」
童子の口から出た意外な言葉に博雅は再び驚く。
「まさか」
「まさかではない。博雅どのがこの世に再び現われてくれたことがどれほど嬉しかったか…ぬしにはわかるまいなあ」
童子は華のような笑みを浮かべて博雅を見た。

「それとそれも貰う」
「ありがとうございます」
高そうなソファにゆったりと足を組んで座る童子が指差す服を、平身低頭の店員が満面の笑みで抱えていった。
「あ、あの…ど、童子どの」
童子なんて呼んでいいものかと戸惑いつつ、博雅は小さな声で座る童子に声をかけた。
「なんだ?」
童子が鷹揚に顔を上げる。
「こんなに色々…困ります…」
また新しく肩に掛けられたジャケットに博雅は困ったように視線を落とす。
「困る?なぜだ、昔のように絢爛な衣とはいかぬが、それなりに良い品だぞ」
「それはわかりますけど、そういうことじゃなくって…」
のせられた帽子が博雅の頭から滑り落ちる。
「その変なかぶりものはいらぬな」
童子がひらひらと手のひらを振る。
「はいはい、かしこまりました。では、違ったデザインのものを」
いそいそともう1人の店員が、違う帽子を探しに店の奥へと引っ込んだ。
「帽子もなにも、こんなことをしていただく言われはございませんよ。童子どの」
博雅は手を広げて周りを一瞥した。
ここはものすごく敷居の高いことで有名な海外ブランドの紳士服専門店だ。そこに博雅を連れてきた童子。博雅にあれこれ着せては、片端から買い上げまくっている。代金など眼中にまったくないのは傍目にも明らかで、店の者たちが総動員でこのたった二人の客に対応していた。
普通、一見の客などいくら金を持っていようが、店員のほうがもしかしたら偉いのではないかと思うぐらい尊大な態度を取る連中が、今はまるでこまねずみのように走り回っている。童子の、人ではないその秘められたカリスマ性のゆえか。
「似合っているではないか、遠慮するな。」
「でも…」
「異国の神の祭りには、普段、感謝している相手に贈り物をするのが習わしなのだろう?」
優雅なしぐさでソファから立ち上がると、童子は博雅のもとへと近づく。
「我からの感謝の贈り物だ、ぜひ受け取ってもらいたい。」
言いながら童子の手がすっと上がる。
途端に周りの人間の動きがストップモーションのように止まった。
「贈り物の次は食事だな」
固まって動かない店員の手に、ばさっと札の束を乗せると童子は博雅の腕を取った。
「ここの品は、後でぬしの屋敷まで届けさせよう」
「だ、だから、いりませんって!」
「聞く耳は持たぬな」
博雅の腕を引く童子は笑ってそう答えた。
「あなたに、これ以上色々していただくわけにはまいりませんって。」
車を停めた地下の駐車場で、博雅はきっぱりと童子に向かって言った。
「なんだ、面白くないな。そんなに私からの贈り物がいやなのか」
童子は、この妖しによく似合う真っ赤なランボルギーニの車体に片肘を置いて、困惑顔の博雅を振り向いた。
「そんなわけでは…。」
「なら、よいではないか」
「でも」
「いちいちあの陰陽師の許しなど要らぬのだろう?」
「そりゃ…」
さらに困った顔になる博雅を童子は面白そうに見つめた。
「おぬしも知ってのとおり、あやつが舞い戻ってからというもの、我はそなたとまともに口もきかせてもらえぬ。」
「そ、そんなことは…」
ない、とは言えないのがつらいところの博雅。
「さっきも言ったように、我にとってはそなたの存在は救いであり、癒しでもあると言うのに。それをあやつは我から奪ったのだ。この埋め合わせはどうしてくれようか、のう、博雅どの?」
まだ昼の日差しの外とは違い、薄暗い地下の駐車場の青白い蛍光灯の人口の光に大江山の鬼王、朱呑童子の目が金色に光った。
「知っておるか、博雅どの。この都は我のものだということを?」
薄暗い地下をぐるりと見回して童子は言う。
「人の世がいくら移り変わりその生き様が変わったとしても、この地は我の統べる地。我がこの地の主だ。たとえこのような地の底といえどな」
童子の手が博雅の顔の横をスイと通過し、その後ろのコンクリートの壁に当てられた。思わず言葉をなくした博雅の目がその手の先を追う。
ゴリ…。
何の切れ目もないコンクリートの打ちっぱなしの壁がゆっくりと動き出す。
「異国の神を寿ぐこの日に、ひとは贈り物を贈りあうそうではないか。それも人の勝手な解釈に過ぎぬとはわかっておるが、それに乗るのも悪くはないな」
「うわ」
童子の人にあらざる万力のような手が博雅の腕を取り、目の前にぽっかりと開いた暗闇へとその想いびとを引きずり込んだ。

「そなたからの贈り物が欲しい」
暗闇に童子の声が響く。
「え?あ…!」
花の香りの息が唇にかかったと思ったらあっという間に唇をふさがれた。
「んんっ…」
もがいて離れようとする体を童子の腕が捕らえて離さない。
「一夜でいいのだ。」
わずかに唇を離し童子が囁く。
その苦しげな声に博雅の胸の奥がチクリと痛んだ。
「ただの一夜…」
童子の指が博雅のあごをクイと押し上げ、暗闇の中に童子の瞳と博雅の瞳が出会う。
「ど、童子…どの…」
「今宵を我に与えてくれ…博雅…」
瞳をあわせたまま再び唇が重なった。



「…あ」
絹ずれの音に重なって小さく声が上がる。
「やっ…あ…」
ぴくり、震えるその手が敷かれた衣をぎゅっと掴んだ。

帳台をぐるりと囲む五幅の帳が、その外に置かれた灯火の炎を受けてゆらり、揺らめいた。
魔よけに掛ける鏡が普通とは逆の位置、前方の左右に掛けられている。そして、その丸い鏡面に映るは絡み合う二人の姿。

「博雅…」
愛しい人の名を呼んで、童子の唇が滑らかな博雅の胸の真ん中を這う。その童子の両手の指先はすでに博雅のそれぞれの乳首を弄っている。
「…う…」
軽くひねられて眉を寄せて博雅が唇をかみ締めた。
「感じやすいのだな」
見る間に硬くなってゆく胸のつぼみを見つめて童子が言う。
その声に滲む嫉妬。
「つあっ!」
ギリと強く潰されて思わず博雅は声を上げた。
その痛みが全身を電流のように貫き…博雅のものをビクリと立ち上がらせた。
すでに何もその身に着けていない博雅、立ち上がるそれは隠しようもない。ぷちゅ、と噴出すその蜜までもが童子の目の前に曝される。
「ほう、これも感じるか…」
ライバルのあのすかした陰陽師が童子の脳裏に浮かぶ。
我の愛しい想いひとをここまで淫らに変えさせるとは。
それは我の役目だったはず…。
ならば、この一夜ですべてを書き換えてくれよう。
たった一夜でよい、と痛ましいほどの瞳で迫られて、いつのまにやら童子の腕の中の博雅の中将。自分に優しく触れてくる鬼の心など、もちろん気づいてもいないのだった。


童子の熱い舌先が、弄られてぷっくりと膨らんだ博雅の乳首を咥えて吸った。
そして、博雅の両脚のひざ裏を抱えあげて童子の猛るそれが…。




「いつまで寝てる、博雅」
ぬくぬくの羽根布団をベリッ、とめくって晴明が言った。

「は、はにゃ???」

枕を抱えて博雅が素っ頓狂な声を出した。
「こ、ここは?」
「家に決まっておろうが。もう昼も回ったぞ、いい加減起きろ」
「あ、あれ…童子どのは?」
「童子だあ?」
博雅の寝ぼけまなこの一言に布団を抱えた晴明の目がキランと光った。
「なぜ、童子の名を言う?」
「え?あ!」
晴明の不穏な低音で、自分が不用意に言った一言に博雅、パチリと目が覚めた。
「なぜだ?」
「いや、あ、そのなんだ、えっと〜〜」
じりっと近づく晴明に、夢とはいえ、さっきまで迫られてこちらもその気だった博雅、額に冷や汗が浮かぶ。
その博雅の目を見つめて目を眇めた晴明。その片眉が上がる。
「帰りを早めて正解だったな」
そう言って博雅の股間をぎゅっと掴んだ。
「痛っ!」
パジャマの上からでもはっきりとわかる。博雅のそれはきっちりと勃ち上がっていた。
「いったい今まで何をしていた?いや…どこにいた?」
「は?何を言ってる。俺はここにすっといた…っていうか痛い、晴明!」
ぎりぎり握り締められて博雅は身を竦ませた。
「じゃあ、これはなんだ?」
「あ、朝に勃ってることなんて誰にだってあるだろっ、テテテっ!」
「これが朝立ちのワケあるか」
パジャマの布をその先端から溢れたものがじわりと濡らしている。朝立ちぐらいでこんなものは出ない。それを掴んだまま晴明は博雅の体に覆いかぶさった、そしてその首筋にツンと高い鼻を近づけた。
「な、なにをする、晴明」
さっきまでの童子とのことを思い出し、ますます焦る博雅。

(あれは夢だ。でもあんな夢見てたなんてこいつに知られたら…。)

ちょっと考えただけでもゾッとした。夢ってのはタガが外れるものとはいえ、マズイマズイ、実にまずい!

そんな考えが頭の中を駆け巡る博雅の首筋に鼻を突っ込んでいた晴明。くんくんと匂いを嗅いで

「ヤツだな」

と、言った。

「は??」
(ば、ばかな、夢だぞっっ!!??狐?とゆーより警察犬か、お前はっっっ!!!)

博雅、汗がだらだら。
「い、いったい何の話だ?ヤヤヤ、ヤ、ヤツって?」
(夢だぞ、夢夢…)
思わず掴まれたそれもしゅううと縮む。
「ヤツといえば朱呑童子に決まってるだろう…さっき、お前が名を呼んだ…」
「 !!  (ひえっ!!)」
「ずいぶんと愛しげに呼んだよなあ」
「な、ななな」
迫りくる晴明の目がコワイ。…そりゃあ綺麗だが、綺麗なだけに迫力もハンパない。
「説明しろ」
「せ、説明って…」
あわあわと目が宙に舞ったが、ついに諦めた。
…だって、ヤバかったとはいえ、たかが夢だ。
「夢を見てた…」

「…というわけだ」
ベッドのヘッドボードに背を預けて、博雅は今まで見た夢の内容を洗いざらい話して聞かせた。
「…」
しーん。
ベッドの端に足を組んで腰をかけた晴明、腕組みして目を閉じたまま微動だにせず。
「夢だよ、夢。そりゃあとんでもない夢だとは思う。けどっ!見たくて見てワケじゃない!ああ、でも、なんであんな夢見たんだろっ!?」
もしかして自分じゃ気づかないうちに童子とのそんなことを望んでたのか??博雅、自分が信じられなくってますます頭を抱える。ひたすら晴明だけを待ってたつもりだったのに、俺ってそんな浮気性??

「ふむ。」
パッと目を開けて晴明は部屋をぐるりと見回した。そして部屋の一点を指差した。
「あれを置いたのはおまえか?」
「え?」
晴明の指差す先を見て博雅は首を振った。
「違う、俺じゃない。」
部屋の片隅に置かれたテーブルの上に、黒のふち飾りが美しい丸い鏡がひとつ。
晴明は立ち上がってそれを手に取ると、くるりと振り向いた
「な、なに?」
自分かと思って驚く博雅。が、晴明はその先を見ていた。
博雅の体を乗り越えてベッドの向こう側、そのマットレスの下に手を突っ込んだ。
「何を?」
一緒に覗き込む博雅に
「ほら、あった」
「あっ!」
晴明はテーブルの上にあった鏡とうりふたつの、もう一枚の鏡を取り出した。
「な、なんで同じ鏡が二枚も…」
「鏡の呪だな」
「呪?」
「普通、寝所には外に向けて二枚の魔よけの鏡を置く。」
「し、知っているが…」
「でもこれは魔よけではない。むしろその逆だ」
「ぎゃ、逆って」
そういうと晴明は鏡をくるりと裏返して見せた。
「ここに呪が書かれてある、わかるか?」
「う、うむ」
黒い鏡の背面にくねくねと蛇がのたくったような文様。
が。
「でも、これは…」
「そう裏返しの文様だ。」
初めて見たのになんとなくある違和感、よく見ればすべての文様が鏡文字のように逆に書かれてあった。
「つまり、人仕様ではない、ということだ。魔よけではない、こいつは魔を寄せるためのものだ」
二枚の鏡を床に放ると晴明はそれをまとめてガキッと踵で踏んで粉々に割った。
「鬼のいぬ間になんとやら、とかいうが、俺のいない間に鬼の方がやってきたらしいな」
「し、しかし、あれは夢だ、俺はどこにも行ってなんていない」
「いいや、行っていたのさ。間違いなく」
上から見下ろすその視線は冷静な陰陽師の目だ。
「俺の帰ってくる寸前までここにいたのはお前の身代わりの式か何かだな」
「そんな…」
「俺の目の前で式とお前を入れ替えるなんて、たいした芸当だ」
「えっと…とゆーことは…」
博雅、冷や汗が、さらにさらにダクダク。
「さっきまでここに寝ていたのは実はおまえではなかった、ということさ」
「えっとえっと、それって…つまり…」
「あいつと寸前まで行った馬鹿な恋人は本当に浮気をしていたということだよ、博雅クン」
唇の端だけ上げて笑った晴明は…すっごく怖い。
「さあて、どうしてくれようかな」
ポキリと指を鳴らして蘇った陰陽師は冷たく笑ったのであった。

「ひえええ」

図らずも浮気現場を取り押さえられた格好の博雅の運命やいかに。





「お届けもので〜す」

明るい声とともに届けられたブランドの包装紙に包まれた箱の山。
「うう…、やっぱり夢じゃなかったんだ」
それを前にして博雅はがっくりとうなだれる。
「ほう、ずいぶんと気前のいい恋人だな、博雅どの?」
「ひっ!いつの間に!」
知らぬ間に真後ろに立っていた晴明に飛び上がる博雅。
「こ、これは」
「別に言い訳せずともよいさ」
そういって晴明は詰まれた箱の上をなでた。
「プレゼントをしてヤドリギの下でくちづけをする。異国の神の習いに乗ってやったことだからな」
「え?」
「お前の枕の下にこいつがあった」
ピッと指に挟んで博雅の目の前に晴明がみせたもの。
「葉っぱ?」
「ヤドリギのな」
晴明はその小さな皮のような光沢を持つ葉をくるりと回した。
「えええ?」
「お前に軽い呪をかけてそのガードを甘くして、プレゼントやら甘い言葉やらでお前を落とし、最後はこいつの下で思いを遂げる。本来ならばこいつの下で誰にでもできるのはくちづけぐらいだが勝手に誇大解釈したらしいな、童子は。」
「ク、クリスマス…?」
「ヤドリギの下でやったことなら俺も文句は言えないだろうと言う意味かもな。ま、それは解釈を異にするところだが」
そういうと晴明は博雅の首に腕を回した。
「な、なに?」
「この贈り物の山を見てたらまた腹が立ってきた。」
「え、いや、待て待て!さっき散々…」
「こいつの下では何をやってもよいそうではないか。枕元に一本立てといた。」
「い、いっぽん??」
「好き放題だ」
クククッと笑う晴明。

朱呑童子のほうがよっぽど…。

「ひえええええ!」

本日二度目の悲鳴が博雅より上がった。




   ちょいやばへもどります