ピアス
「…ちわ…」
そ〜っと静かに部屋の扉を開けて入ってきたのは博雅。ここは、晴明がいやいや経営しているMARENA・COPORETIONのビルの最上階。アキラ(晴明)の社長室。
もう、すっかり夜も更けて社内には誰もいない。守衛が時々、見回りに回ってくる程度だ。
アキラの会社には、いついかなるときであろうと顔パスの博雅、何故こんな時間にこんなところにいるかというと、実は昨日ここに来たときにある忘れ物をしたのを、こっそりと探しにきたのだった。
ばれては非常にまずいので、アキラのいない時間を狙ってそっと忍び込んだ。今頃、アキラは晴明に戻って、京都に向かっているはずだ。一緒に戻ろうという晴明に、もう一日用があるからと言い訳して東京に残った博雅。実は用とは、アキラの部屋で落としたであろう大切なものを探すことだった。まさか、それを言う訳にはいかなかったが。
「そうか…、仕方がないな。では、気をつけて帰ってこいよ。」
そういってくれた晴明のことを思うと、ちくりと胸が痛んだ。
「どの辺に落としたんだろう…。」
ちいさなペンライトで、落としたであろう辺りを小さく照らす。
部屋の明かりをつけたくはなかった。いくら晴明がいないからといって、煌々と明かりをつけるのはためらわれた。
まるで、こそドロのようだが、いたしかたがない。
「まいったなあ。大事なものというか、やばいものなのに…。いったい、どこだ?」
床をごそごそと、アキラの机の下にもぐりこむ。
きっとこのへんだ。昨日、このあたりでアキラとキスしていたのだから。
机の下の狭い隙間に手を伸ばしながらも、ちょっと昨日のことを思いだしてつい、にやけてしまった。
昨日はキスだけだったが、めちゃくちゃ良かったのだ。晴明の口付けも好きだがアキラのキスは、それとはまた違ってすごく好きだ。
なんというか、はじめは優しく始まるくせにその後は激しくって、しつこくって…。思い出しただけでなんだか、体が熱くなってくるようだ。
「まずい、まずい。こんなことを考えている場合じゃなかった。」
にやにやを引っ込めると口元をきゅっと結んで、改めてごそごそ。
「…で、さがしものとやらは見つかったかな?」
頭上から静かに低い声が降ってきた。
「せっ、晴明っ!?」
がこっ!!
「痛てぇっ!!」
聞き覚えのある恋人の声にあわてて頭を上げた博雅。力いっぱい机に頭をぶつけた。思わず頭をかかえてしゃがみこむ。
「うううう…痛い…。」
「なにやってんだ。ばか。」
冷たい声。
「なんで、おまえここに…?京都に帰ったんじゃ…?」
痛む頭をさすりつつ、晴明を見上げて涙目で聞く。
「帰ったのは俺の式だ。なんだかお前の様子がおかしかったから、帰ったように見せ掛けただけだ。」
博雅の腕をひっぱって立ち上がらせる。薄暗いなか、自分より頭半分だけ高い晴明が博雅にはもっと大きく感じられた。
「何を捜していたんだ?…もしかしてこいつか?」
博雅の目の前に小さなものをぶら下げてみせる。
薄暗い闇の中でもきらりと光るちいさな装身具。シルバーのピアス。
「うっ!」
思わず声が出ない。
「こんなものを落とされて、俺が気づかないとでも思っていたか?」
暗闇の中でも、晴明がうっすら笑っているのがその気配でわかった。
非常にまずい…、なんだか、とってもよろしくない展開だ。
「あ、ありがとっ!いやあ〜これをさがしてたんだ!あったのか!いやあ〜、よかったよかった。」
めいっぱい明るく振舞ってごまかそうとする博雅。だが、晴明はごまかされるわけもない。
「博雅。」
たった一言。
「は…はいっ?」
思わず声が上ずった。
「だれからもらったか聞いてもよいか?」
その切れながのひとみが、とっとと吐けと無言で言っている。
「…咲也君…。」
こういうときの晴明には逆らえない博雅は観念して正直に答えた。
「ほう。」
やっぱりあのガキか。そうだろうとは思っていたが。
「別に意味はないんだ!ただ、僕だと思って持っててくれって泣かれてしまって…。断りきれなかったんだ!!」
隠し切れない博雅。
「で?」
「おまけに今すぐつけてくれって言われて、つけたらそのまま忘れていて…、いや!ホントすぐ外すつもりだったんだが、ころっと忘れてしまって…すまんっ!」
とにかく、こんなときは謝っておくに限る。
「ふうん。」
うす暗闇のなか、晴明の瞳が蒼く光った気がした。
絶対怒るとおもったのに、
「気をつけないとなくすぞ。」
そういうと、呆然とする博雅の耳にピアスを留め、そのまま背を向けて部屋を出てゆこうとした。思わず博雅がその腕を取って引き止める。
「せ、晴明!どうしたのだ!?なぜ怒らない?」
とんでもなく不安になって、つい声が大きくなる博雅。
背中をむけたまま晴明は言った。
「怒ってどうする?お前が誰からなにをもらおうと、俺にはそれをとめることなどできない。だろ?」
怒るよりもなによりも一番おっかないオーラが、晴明の背中からひやりと流れているようだ。だから、見つからないうちに拾って処分しておきたかったのだ。
あれは昨日のことだった。
散々、騒動を起こしていった咲也がついに、上海に戻る日がきた
咲也は日本にいる間中、博雅にくっついていた。学校の送り迎えはもちろん、はては校内まで付いてくる始末。
見目麗しい咲也は案の定、女子生徒の間にセンセーションを起こした。おかげで博雅は、校長には怒られるわ、女子生徒からは、あれは誰々、いったい誰なのよっ!などと取り囲まれて詰め寄られるわ、散々な目にあったのだ。
なのに、人の常識など通じぬ咲也は、公然と博雅にべったりとへばりついて離れなかった。
よくあれ以上、何もなかったものだと思う。まあ、それ以上、咲也が博雅に手出しできないわけがひとつだけあったのだが。
晴明の存在だ。
ある程度までは目をつぶっていたが、それでも咲也が必要以上に博雅に接近しようものなら、その冷たい目がきらんと光り、まるでたこかなにかを引っぺがすように咲也の首根っこを掴んで博雅からひきはがした。
「俺のもの(博雅)にくっつくな。」
氷のように冷たい目でにらまれた咲也。軽く怖かったがそれくらいなんのその。たかが人間。
「けちですね、晴明さん。いいじゃないですか、ちょっとくらい。減るもんじゃなし。」
「お前がさわると減る。」
その白貌の面に紅い唇をゆがませて晴明が笑う。思わず咲也の背筋にぞっくと寒気が走る。
「わかりましたよ。…ほんとにけちだなあ。」
言いながらも上海に帰る前に絶対博雅を落とすと心に決めた。恋はライバルがいるとなお一層燃え上がるものなのさ、あんたなんかにゃ負けないよと、なにやら対抗心にめらめらと火がつく咲也だった。
その日から咲也が上海に戻るまでの二週間というもの、博雅は本当に気の休まるときがなかった。
だから、昨日、空港まで白蛇姫様や美鈴さんとともに上海に帰る咲也を見送りに行った時は、本当にほっとした。
その咲也が目にいっぱい涙をためて、これを僕だと思ってつけていてと言った。あんなに目をうるうると潤まされては、気のよい博雅にはとても断ることなど出来なかった。しかし、何でそのままつけたことすら忘れていたのか…。
「晴明!待ってくれ!もしかして俺のこと嫌いになったりしないよなっ!?…そりゃあ俺はなんだか抜けてるところもあって、お前に迷惑ばっかりかけてるけど…。」
晴明の背中に向かって、一生懸命に訴える。その目にじわりと涙が膨らむ。晴明にだけは嫌われたくない。こっそりピアスを探しにきたのだってそれが原因だ。見つかって晴明にきらわれたらどうしようと心配でいてもたってもいられなかったのだ。
「ほんとにな…。お前は本当にいつだって、トラブルを引き連れてくる。博雅、お前に再会して記憶を取り戻すまでの、アキラとしての自分は孤独だったが、それなりに平和だったよ。」
晴明は、背中を向けたまま話し始めた。
「トラブル…そうか…。俺はやっぱりトラブルの元凶か…。」
晴明の腕から、博雅の手が力なくすべり落ちる。
「すまん…。俺は自分のことばかり考えて…。これじゃあ、お前に嫌われても文句は言えないよな…。」
がっくりと頭をたれる。涙がぽたりと床に落ちた。
「でも、それまでの俺は本当に生きている気がしなかったよ。今では冷静沈着といわれた俺が、博雅に振り回されて感情の嵐のなかだ。…今だってそんな小さなものひとつのせいで、嫉妬で気が変になりそうだ。」
そういうとくるりと向き直って、その手を引き自分の胸の中に博雅の体を閉じ込める。
「博雅。…お前は本当に俺のものだよな…。信じていいんだな?」
博雅の耳元のピアスの近くで吐息のようにささやかな声で晴明が聴く。
「…当たり前だ…!!いまさら何をいってるんだ、晴明。」
晴明に抱きしめられたことで博雅はホッとした。よかった、まだ、嫌われたわけではなかった。
「時々不安になるんだ…。これは本当のことなのかってな。俺にこんな幸せなことがあっていいのかって…。」
「いいんだよっ!確かに俺は馬鹿で抜けてるかもしれないけど、晴明、お前の幸せのためなら何だってするぞっ!」
晴明がこんなに覇気なく落ち込んだことなど見たこともない博雅は少しでも力になろうと必死で言った。
「では、とりあえず口づけをしてくれないか…?」
「く、くちづ…????」
なぜ?という疑問符が博雅の頭の中でいっぱいになった。
「なんだ、今、何でもすると言ったではないか。あれはうそか…?」
「うそなんかじゃない!…わ、わかった!」
晴明に悲しそうに言われて、胸にぐっときてしまった博雅、思い切って唇を触れ合わせる。晴明の薄い冷たい唇に触れて博雅の心拍数がどかんと上がった。
「…どうだ?これでいいか?」
どきどきしながら尋ねる。晴明の顔は闇の中に沈んではっきりとは見えない、でも、なんだか笑っているような気が…?気のせいか…?
「もう少しディープな方がいいんだが。」
「で、ディープって…ええっと、まいったなあ。」
うろたえる博雅。
「じゃないと、ほんとに幸せかどうかわからない…。」
うそっぽい晴明の言葉に、本気で困ってしまう博雅。晴明は逆立ちしたってそんなこと言うわけなどないのに、テンぱっていてそれに気づかない。
「…わ、わかったよ!ではっ!」
今度は本気の本気で口付ける。晴明のうっすらと開いた唇をわり、そのなかへと舌を入れてゆく。少し勇気がいったががんばって晴明の舌に自分の舌を絡める。
最初はおずおずとしていた博雅だったがそのうち、すっかり晴明の口内を探ることに夢中になってしまった。いつの間にか晴明の体をドアに押し付けて、さらに口付けを深めてゆく。これには晴明のほうが少し驚いた。ちょっと悲しくなったのは本当だったが後半はどちらかというと博雅をからかうだけのつもりだったのに、まさか博雅がこんなに熱くなるとは…。でも、なんだか本当にうれしい。幸せとはこういうものかと本当に感じた。博雅のつたない舌使いにかえって欲情しそうだ。
「ん…はあぁ。」
ようやく長い口付けが終わった。晴明の唇が闇の中でうっすらと光って見える。博雅は、いつも晴明を受け入れている自分のそこがじわりと熱くなってゆくのを感じていた。実はもうすでに、昨日のキスでかなり煽られていたのだと気づく。下半身がじわじわと熱くなってゆく感覚に、うろたえる、晴明、どうしよう?助けてくれ。
「どうした、博雅?なんだか急に無口になったな。」
博雅のあごを取ってその瞳を覗き込む。暗闇のなかでも夜目の利く晴明には、博雅のその瞳が劣情で揺らめいているのがわかった。
これはこれは…。おもわず、こぼれそうになる笑みをくっと我慢する。
(軽く背中を押してやるか)
先ほどの口付けでふっくらと膨らんだ博雅の唇に、軽くついばむように口付けてみる。
博雅は驚くほど反応した。体ががくがく震えている。
「どうした?具合でも悪いのか?博雅。」
唇を頬へと移動させて、頬をついばむ。
「わかってるくせに聞くな…。」
「さあ、何のことか、俺にはさっぱりだが?」
言いながらも、その手は博雅の服のボタンをはずしはじめている。
「いじわるめ…。俺のことだましたな…晴明」
悔しそうに晴明のことをにらむ博雅。
けろりと言う晴明のいつものような口ぶりに、ようやく、いいようにからかわれていたと気がついたのだ。
「ばれたか。でも、まるっきりうそというわけでもない。本当に俺は不安だったんだぞ。あんなもの落とされて、俺がどんな思いをしたか…。」
シャツの間から現れた博雅の体に、じかに晴明の手が這ってゆく。滑らかな胸をなでると小さな博雅の乳首を探り当てる。人差し指と中指の間の間節できゅっとはさむ。
「あっ!!」
博雅の背がのけぞった。その背を片手で支えると晴明は貌を伏せ、博雅の小さな乳首をぺろりとなめた。博雅の唇からせつない声が漏れはじめる。
「あれだけ不安にさせられたのだ。悪いがやさしくなどしてやれぬぞ。」
晴明が言う。
「…いい。最初から正直に言わなかった俺が悪かったんだ。それにもう…我慢できない…。」
頬を染めて博雅が言う。暗闇にまぎれてつい大胆にも心の中をさらけ出してしまった。晴明の声に、視線に、その指先に、心も体も答えてしまう自分。
晴明に触れたい。博雅の手も晴明の着ているものにかかる。きっちりと締められたスーツのネクタイをひっぱり、その貌を自分に近寄せる。
「俺ばっかり脱がせて…何でお前はこんなに着込んでるんだ…。晴明。」
晴明の手はすでに博雅のズボンのベルトをはずしにかかっている。
「体に自信がないんだ。脱ぎたくない。」
気弱そうに答える晴明。
「うそつけ…。今日こそは絶対脱がす!」
「ふふん」
やる気のあるのはいいことだ。まあ、少しくらいは脱いでやってもいいが、博雅の努力次第だな。
そんなことを晴明が思っていることなどぜんぜん知らない博雅。おぼつかない手つきで晴明のネクタイをはずしている。だがその間も、晴明の手は手際よく博雅の服をはいでゆき、ついでにその身をなぶって行く。あまりにも手際が違いすぎた。
博雅が晴明の上着を脱がせてシャツのボタンを半分空けたところでタイムアップとなった。
そのころには博雅の身には半分ずり落ちたシャツだけしか残っていなかった。おまけに晴明の長い指が片方は博雅のものをなぶり、もう片方の手は首の後ろに回って博雅の頭を押さえ深く口付けをして、博雅の理性を弾き飛ばしている最中だった。とても博雅のかなう相手ではなかった。しかも、くず折れそうになる博雅を立ったまま支えているその力、なにが体に自信がないものか。
いつの間にか、ドアに背を預けているのは博雅のほうに変わっている。
晴明はつかの間、博雅のものから手を離すとズボンの前を開けて己のものを引き出した。すでに硬く立ち上がっているそれを博雅のものにすり合わせる。
「ああ…んん…っ。」
晴明のものと直かに触れ合う刺激に、博雅の口から悦びの声が上がる。
晴明は、自分の上着を握りしめている博雅の片手をはずすと、晴明自身のものをその手に握らせた。博雅の手に自分の手を重ねて上下に動かさせる。おもわず力を入れてしまうのだろう、時々ぐっと強く握られる感覚に、晴明の頭の中がじん…とする。博雅の手の上から手をはずすと、自分も博雅のものを握り、同じ刺激を与える。
「ああっ!!だめ…だ!晴明…!頭が変になってしまう…っ!ああっ!ん。ん。…。」
博雅は今にもイってしまいそうだ。その先端から先走りの露があふれている。体もがくがくと震え始めている。
(もう、そろそろか…)
晴明は博雅の片足をその腕に掬いあげると、高く上げさせた。博雅の奥のつぼみがそうされることで大きく広げられた。博雅の先走りの露を手のひらにとり、そこに擦り付け、指を一本二本と滑り込ませる。熱くなったそこは何の抵抗もなく、晴明の指をのみ込んでゆく。
「博雅。俺と繋がりたいか…?」
くちゅくちゅと卑猥な音をわざと立てさせながら晴明が問う。
「…んん…。」
博雅は頭の中が真っ白になったようで、晴明の首にしがみついているばかりで何も答えることが出来ない。
「お前のここは、早く挿れてほしいとねだっているようだぞ。」
さらに奥まで指を差し込む。
「…ああっ!そうだ…早く…挿れて…。…もう…まてない…。」
羞恥に頬を上気させながら、博雅が晴明に促されて答える。
「「お願いします」は…?」
意地悪く、さらにもう一押し。いじめっ子の本領発揮である。
「あ…ん…んん。意地悪だぞ…くそっ。あっ!」
博雅は言い返そうとするが、晴明の指にいいようになぶられていては考えも定まらない。
「「お願い」だけでもいいぞ…。ん?どうだ?」
言いながら、さらに中で指を開いて博雅のそこに刺激を与える。
「くっ…。お願いだっ!!…早く…!」
もう、我慢など出来ない、泣くような声で博雅が懇願する。
晴明の肩に爪が立てられたが、その痛みまでが愛おしい。
「いい子だ、博雅…。」
晴明は博雅の片足を自分の腰に絡ませると、ぐっと腰を入れて博雅のそこに自分のものを挿しこんでいった。
「あ、あああっ!!」
博雅のそこがいっぱいいっぱいに広がって晴明のものを受け入れてゆく。もう最初のころに感じた痛みなどなかった。ただひたすら、痺れるような快感だけが背筋を這い登ってゆく。
ドアに押し付けられて、博雅の体が上下する。暗闇の中、晴明の吐息と博雅のあえぐ声だけが響く。
「せい…めい…、こんなこと…言いたくないが…あっ。」
博雅が晴明に言う。こんなに乱されているときに、博雅が話しかけてくるなど初めてだ。
「…どうした…ん?」
答える晴明のその声に博雅の中がくっとしまった。晴明の声だけで、すでに反応してしまうらしい。
「あっ…。たぶん…今じゃないと俺には…なかなか言えぬ…。」
あえぎながらも、必死で話を続けようとする博雅。
「だからなんだ?俺とて今はちょっと…忙しいんだが…。」
まったくこんなときになんだ?
「…俺は…その…」
口ごもる。
「その…たとえ意地悪なやつだとしても…やっぱり、お前を…愛してる…んだ。だれよりも。…だから、不安になど…なるな…。」
晴明の顔を両手で挟んで口付ける。が、感じすぎていて息が続かない。
「…ばか。」
晴明が笑ったのが博雅の手に伝わってきた。博雅もふわりと微笑んだ。
博雅の中で晴明のものがさらに大きくなった。
「うっ…んん!」
「喜ばすからだぞ、ばか。」
博雅の手が晴明のシャツの中へと入り込む。晴明の胸の辺りをさまよっていたが小さな突起を見つけると、自分がされたことと同じことをした。指の関節でそれをきゅっと挟む。
「あっ…!」
おもわず晴明の口から、らしくもない声が上がる。
博雅は飛びそうになる意識の中で、くすりとわらった。
「よくも笑ったな…。」
悔しそうに言うと、晴明は博雅の中のものをぎりぎりまで引き出すと、一気にその最奥まで串刺しにした。同時に晴明のものが精を放った。
「くっ…!!」
「あああっ!!!」
博雅の悲鳴にも似た嬌声が上がった。その目に涙があふれる。
「泣き顔もかわいいな…博雅。」
大きく息をつきながら晴明が笑う。
「ばっか…」
晴明は博雅のものにその細く長い指をからめると激しく扱く。やさしくなど出来なかった。晴明のものはまだ博雅の中に収められたままだ。
「あっ!ああっ!!」
晴明に与えられた刺激に博雅がその身をのけぞらせる。
「いけっ!博雅っ!」
「ああーっ!晴明っ!!」
博雅のその先端から白く熱いものがほとばしった。
「あ…ああ…」
博雅の体から力が抜けてゆく。晴明の肩にまわされたその手がずるりと力なく滑り落ちる。そして博雅は晴明の腕の中で気を失っていった。
気を失ってしまった博雅の力なくうっすらと開いたその唇に、そっと口付けると自分のものをその身から引き抜く。その感覚に博雅が小さく身をよじった。
その博雅の身を絨毯に横たえ、服で軽く覆うと身づくろいをして、博雅の耳からピアスをはずした。
その小さな装身具を見つめる、薄い茶色のひとみは氷のように冷たい。
「聞こえたか?それとも見たのかな?まあどちらでもかまわないが。…咲也、わかっただろう?博雅は間違いなく俺のものだ、二度と手を出すな。今度、こんなまねをしたらただではおかない。」
紅い唇にぞっとするような笑みを浮かべて、そう言うと床にピアスを落とし、ぐしゃりと踏み潰した。
博雅には、後で俺がもっと似合うピアスを買ってやろう。
「くっそ!!あの野郎!全部わかっててやったな…。」
もう片方のピアスを手にすると咲也は悔しそうにそれを握り締めた。博雅に渡したピアスは特別だった。博雅にはつけたことを忘れるよう術もかけておいた。
なのにそれに一目で気づいた晴明は、わざと博雅をあおるような口付けをして、ぼうっとなった博雅から気づかれぬようそっとピアスをはずして持っていたのだった。
そのピアスは、いつでも博雅の行動を知ることの出来るものだった。咲也のほうのかたわれのピアスを鏡の前に置くだけで、まるでカメラのように博雅の周りで起きていることが鏡に映るというとんでもない代物だ。
それがわかった晴明は、わざと博雅との濡れ場を見せ付けてやったのだ。博雅が本当は誰のものか、はっきりとこのガキに教えておいてやらなければならない。
自分では経験したこともないようなラブシーンに、咲也は目が釘付けになってしまった。覗き見をしているようで(そのまんまだが)少々、気がとがめたが、とても目が離せなかった。あまりにも濃厚すぎてこちらのほうまでおかしくなってしまいそうだった。頭がぼうっとする。
だから、晴明が自分に呼びかける声が聞こえてきた時は、飛び上がるほど驚いた。
あれを見破るなど、まったくとんでもない陰陽師だ。上海にはまだまだ現役で腕利きの陰陽師が多くいるが、これほどのヤツなど見たことがない。悔しさにふるふると震えると手にしたピアスを壁に投げつける。
「くっそ〜!俺の博雅さんだっ!お前になんかに、ぜ〜〜ったい渡さねえ!!」
天に向かってほえる咲也。近いうちに絶対リベンジだと心に固く誓って。