咲也の報復(2)
あれから晴明は毎日なにやら熱心に古い文献を引っ張り出しては何かを調べている。博雅の方はといえばナニのあたりに違和感があるのは抜けないがそれ以外はいたって平穏な日々に少しほっとしていた。そんな週も明けた月曜日。
「源元先生。今日、そちらの教室に新しく生徒が入りますからよろしくお願いしますよ。」
朝の朝礼で校長にそういわれた。
「えっ?また急な話ですね。何も聞いてなかったんですが‥。」
校長とともに生徒が待っているという校長室へと向かいながら博雅が言った。本当にそんな話があったなどどとは知らなかったのだ。
「なにを仰っているんです。先週お話したじゃないですか。」
校長がドアを開けながら博雅を不審そうに振り返った。
「えっ?そんな‥」
そんなはずはないと言い掛けた口が思わず閉じた。校長室の中で来客用のソファに座っていた人物が立ち上がってこちらを見たからだ。
「君は‥」
唇に一本指を立て、しっ、と小さく博雅に合図するその少年は、前よりももっと年若く見せてはいるが間違いなく…咲也。
校長から紹介を受けた後、教室へとむかう二人。博雅が前を向いたまま小さな声で聞いた。
「咲也クン。なぜここに?」
「博雅さんの側にいたいからに決まってんじゃないですか。それより…例のもの取れました?」
「…!あ、ああ…もちろんっ!」
思わずうそをつく。
「へえ。どうやって?」
「晴明が術を解いた。」
「…へええ。よく解けたねえ。あれは中国の古い呪法の一つでめったなことでは解けないはずなのになあ。晴明のヤツ、むかつくけどすげえな。ちぇっ!僕が博雅さんの相手をするはずだったのに。」
悔しそうに舌打ちをしながら咲也が言った。
「君が相手って…?」
いったいどういう意味だ?
「まあもう解けてしまったんならしょうがないな。あの紐はね、恋人や伴侶以外の相手をしないと取れないはずだったんだよ。昔、好きだった男を妹に寝取られてしまった娘が悔しさのあまり作り出したのがあの呪術。たとえ一時でもいいから恋人を自分のものにしたかったんだって。だから晴明のやつには博雅さんと契ることなど絶対できっこないんだ。…て、いうかそのはずだったんだ。
ちえっ!悔しいなあ。わざわざ3回にしといたのに!」
(なんだって…?晴明‥以外???しかも‥3回???)
博雅の顔がさーっと青ざめてゆく。咲也の言葉が頭の中をぐるぐると渦を描いて回っている。
「…ねえ、博雅さん…ほんとに取れたの?」
頭ひとつ小さく化けた咲也が下から博雅の顔を覗き込んだ。
(ばれてたまるか…)
眉間にしわを寄せ目いっぱい怖い顔をして
「取れたんだ。言っとくが生徒としてここに入った以上は私は教師だ。知り合いとはいえ、その辺はきっちりするからな。だから校内ではそんな話はするなっ。」
強い口調で咲也に言った。
「…はあい。わかりましたよ。ほんと、博雅さんはそういうとこ融通利かないよなあ。」
「おかしな手を使って校長をだまくらかして生徒として潜り込んだ君とは違うんだよ。」
「あはは。博雅さん、意外とキツイなあ。」
博雅の怖そうに見せている顔はこいつにはかけらも効いてないらしい。心の中で博雅は大きくため息をついた。
(それにしても…3回‥!しかも晴明以外‥。)
博雅の背筋に悪寒が走った。
その夜。
「そうか…やはりそういう意味か。もしかしたらとは思ってはいたんだ。」
晴明に今日の話をし終えた博雅にベッドに腰掛けた晴明が苦い顔をした。博雅は落ちつかなげに寝室の中をうろうろと歩き回っていた。
「そういう意味って…?」
どきどきしながら聞く。
「俺以外の誰かと契らなければその封印は外れないってことさ。しかも3回だと…。ふざけやがって。」
「うそ…だろ…」
大体想像がついた答えであったとはいえ、晴明の口からはっきりと言葉にされたその衝撃は博雅には大きかった。思わず立ち止まって天を仰ぐ。
「自分がその相手をするつもりだったんだ。まったくとんでもないエロがきだ。」
400年生きていても晴明にとってはただのエロがき扱いの咲也。
「おまえの力でなんとか取れないのか?」
博雅、もう泣きそうである。
「色々文献を調べてたんだがそいつはどうやら本当に中国の古い呪法らしい。おれの力で外せないことはないが…、ただ、その後はその呪いはもう二度と解けなくなってしまう。」
「ということは…?」
「もう俺と博雅がナニしてもお互い感じることなどできないということさ。」
「…!!」
博雅、呆然。
「俺以外と契らなければ呪いが解けない…そんな噂が流れでもしてみろ。咲也を押しのけてもう一人、厄介なのが出てくるぞ。」
「あっ…!もしかして…」
「そうだ。朱呑童子。やつが絶対くる。今度は大義名分もあるからな、お前ヤられるぞ…。」
先日だまされて酔わされ、あと少しで襲われるところだったのを思い出して博雅の顔が青ざめた。
「ひえ。で、でも!俺、今日は咲也クンにはもう紐は取れたって言ったから…たぶん大丈夫だと思うんだが…。」
「そんなうそ、通じるのは咲也のあほぐらいだ。」
「…。」
「ま、手がないわけではない…。あのばかがかけた呪なんて論理的には穴だらけだ。」
そういうと立ちすくむ蒼ざめた博雅を見上げた。
「要するに俺じゃなければいいだけだ。」
紅い唇の端をくいっとあげて薄い笑みを浮かべる。
「だ、だからといって俺は式相手なんていやだぞ!」
ぴんときた博雅が頬を染めて言った。式相手などもうこりごりだった。
「やっぱり?そう言うと思ってたからまあ、不思議ではないが…そうか…ふむ。」
ちょっと宙を見つめて考えた後、
「では自分でやってもらうしかないな。」
にんまりと笑った。
「はっ!?」
「要するに俺が相手でなければいいんだ、ということは自分で抜いてもいいということだ。イケればいいんだからな。」
「そうなのか?」
不安そうに博雅が聞いた。
「あのばかな咲也のかけた呪など、そこまで考えてなどあるわけもないだろうよ。」
当然とばかりに晴明が言った。
「ま、とにかく。俺にはお前に触れることができない。だから今日は全部自分でやるんだ、博雅。」
晴明が言った。
「う…。それしか手はないのか?晴明…。」
「いやならやめておくか…?」
「でも、そうなったらもうおまえとは…」
「できないことはないがもう以前のように感じることはない。別に俺はプラトニックでもいい、そっちのほうは何とか我慢するぞ。」
博雅の気持ちを思いやってわざと軽く冗談めかして言う。
けれど、晴明との今までの夜を思い出して博雅の声が泣きそうな位震えた。
「いやだ…。お前ともう愛を交わすことなどできないなんて…ぜったい、いやだ。」
じわりと涙が浮かんだ。
「泣くなよ博雅。お前の気持ちがそうならば俺が手伝ってやるから大丈夫。」
にっこりと微笑む晴明。
博雅の目に浮かんだ涙が引っ込んだ。
「な、なにぃ?!」
「だから、俺が手伝ってやるって。」
「じょ、冗談じゃない!ひとりエッチなんか手伝ってもらうヤツ、どこの世界にいるって言うんだ!‥じ、自分でやるっ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴った。
「なんだ。残念だな。」
にやにやと晴明が笑った。
「い…、いいから出てけ!」
にやつく晴明の手を引っ張ってベッドから立たせると、その背を押して廊下へと追い出す。
「でも博雅、いったいなにをオカズの抜く気だ?」
背を押されながら首だけ振り返って晴明がずけっと聞いた。
「ば!ばかたれ!聞くな!んなことっ!!」
最後に一突き背を押すと晴明を廊下に放り出し、乱暴にドアを閉めた。
「もしかしてオカズは俺じゃないだろなあ?」
ドアに向かって晴明が聞いた。
「ば、ばかやろっ!!」
晴明の言葉にドアの向こうから博雅のくぐもった怒声が響いた。
「ま、いいさ…。」
なにを考えているのか晴明が人の悪そうな笑みを浮かべた。
あれから、もうそろそろ1時間が経とうとしている。
リビングで冷酒の入ったグラスを片手に本を読んでいた晴明が座っていたソファから立ち上がった。本はテーブルの上に置かれたが氷の入ったグラスはその手に持たれたままだ。
「…さて、そろそろかな。」
リビングを出ると寝室へと向かう。物音ひとつせずシンとした部屋のドアをそっとノックした。
コン。
返事はない。
ドアのノブに手をかけ、そっとあける。部屋の中は電気が消されて暗かった。廊下の明かりが差し込み部屋の中が見えた。
ベッドにひっくり返って体を伸ばしている博雅。その両腕は顔の上で重なるように交差していた。シャツがわずかに乱れている。
「…博雅。」
「…」
答えない博雅。
ドアを閉め、暗くなった部屋を横切ると顔を覆った博雅のそばに腰掛けた。手に持った冷酒の入ったグラスの氷がカランと鳴った
「どうした、博雅?さっきの勢いは何処へいったんだ?」
そう聞いて、くいっとグラスをあおる。
「…無理…。」
くぐもった声でぽつり。
「…何が?」
手だけを伸ばしグラスをベッドサイドのテーブルに置く。
「なんとか1回はやった…。」
「ほう。」
なんだ俺抜きでも一応は抜けるのか、と少し機嫌を損ねた晴明。
「…でも…出ない…。」
「そうだろうな。」
その言葉にがばっと起き上がる博雅。
「知ってたのか!?」
起こした上体をねじると怒って晴明の顔をにらみつけた。
「怒るなよ。お前は俺に話す暇などくれなかったではないか。」
「そ、それはそうだけど…でも知っていたのか…。」
今度はあっという間にしょげかえってまたベッドに仰向けになってしまった。かなり情緒不安定になっているらしい。
「イケても抜けないってやつだろ?」
けろっと言う晴明。
「う…ん。」
今更照れたところで始まらない。おとなしくこくりとうなずいた。
「例の紐が呪縛しているからな。後、二回はそのままだろうさ。…つらいだろ?」
「…うん。」
「つらくても続けてやったほうがいい。そのまま何日も我慢なんてできっこないからな。どうだ?まだ一人でやるか?」
晴明が博雅の体をはさむように手を突いてその顔を覗き込む。唇が今にも触れそうな近さだ。
「‥わからない。」
困ったように目を伏せた。長いまつげが震える。
と、晴明の手が博雅のワイシャツのボタンを実に手際よく外しだす。
「世話の焼けるやつだな、博雅。まあ、そこがまたいいんだけどな。」
博雅が何もいえないでいるうちにあっという間にシャツの前をはだけてしまった。ただし、一度もその手はじかに博雅には触れなかった。
サイドテーブルに置かれたグラスの中から解けかけた氷をひとつ取った。
はだけられた博雅の胸の突起のそばにそれを乗せた。
「わ。」
博雅のからだがぴくっと震えた。仮にもたった今まで体温の上がるようなことをしていたのだ。その熱くなった体にはその冷たい刺激はかなり強烈だった。晴明の人指し指が解けかけの氷を博雅の胸に滑らせる。ピンク色の胸の突起がその冷たさでつんと硬く立ち上がった。その周りをくるくると滑らせる。解けた水が博雅の体を伝って流れ落ち白いシャツに濡れたシミを作った。
「俺が手伝ってやる。大丈夫…。手など触れなくても何回だってイカせてやるさ。」
その目は博雅以外には向けられたことのない優しい微笑に満ちていた。
「‥へ‥へんな自信だな…。」
胸の辺りで悪さをする氷に気を取られながらも、つられて博雅も微笑んだ。
小さくなった氷が博雅の胸の突起をきゅっと押した。
「あっ。」
博雅が少し背をそらせて反応した。
「なっ。手など触れなくても俺には博雅を感じさせてやることくらいできないことではないんだ。安心しろ…。博雅。」
隣に腰掛けた晴明に耳の辺りの触れるか触れないかのところで低い声でささやかれた博雅。それだけでもう体が再び反応を始めた。肌にさえ触れなければ大丈夫のようだ。体は確実に晴明の声に反応する。
晴明の手が博雅の腰のベルトにかかる。バックルを外し、さらに前を開く。
「俺はじかには触れられないからな、博雅、後は自分でしてくれないか?」
晴明の言葉に赤くなりながらもたくし込んだシャツのすそを引っ張り出す。腰を浮かしズボンを脱ごうとした博雅を一旦、晴明が止めた。
「待て。ズボンは脱がなくていい、あれだけ出して。」
「え。」
「早く。」
晴明の言葉に恥ずかしがる博雅を急かす。精を放つことができなかった博雅のあれは今、必要以上に敏感になっているはず。ほんの少しの刺激でもイクはずだと踏んだ晴明。ならば羞恥心を煽るように少し恥ずかしい格好のほうが早くイケるだろうと考えた。博雅の手によってボクサーパンツの中から跳ねるように顔を出した、今だ硬さを残したままの博雅のもの。本来ならば吐露していなければならないのに例の紐がそれを邪魔しているためか。触れてもいないのにびくびくと脈打っているのがわかった。紅い紐に絡まれてひくつく博雅のもの。ひどくみだらな姿だった。
ズボンと下着を通してそのみだらではずかしい姿が外気と晴明の目にさらされている。もう、そのことだけでも、もう一回イキそうだ。もしかしたらあと2回何とか自分でできるかも‥、そう思った博雅。が、そんな考えが頭から吹き飛んだ。
「あっ!!」
目が見開かれ、その背がのけぞってシーツから浮いた。
博雅はその先端に焼け石を押し当てられたような突然の刺激を感じあっという間にイッていた。自覚する間もなかった。
晴明が手にしたグラスの氷で冷え切った酒を、熱くなった博雅の鈴口めがけて一滴垂らしたのだ。ほんの一滴だった。なのに博雅は自分でもわからぬうちに達してしまった。
「‥ほら、後、一回。」
晴明が耳元に唇を寄せてささやいた。
「あちこち濡らしてしまったな。」
晴明が言った。
「…う、うん。」
起き上がって自分の姿を見下ろす博雅。シャツにはいくつか濡れた後。そこから下を見る勇気がない。チラッと見て思わず目を背けてしまった。ズボンから突き出したままの自分のもの。二回イッたはずなのに未だ萎えない、むしろ、さっきよりも硬く大きくなっている。
その竿の部分には、まるでツタが絡むように半分あたりまで紅い紐が絡み付いている。怒張したために、そのくくられた付け根のほうは今では紙一枚も入らぬほどにきっちりと、博雅のその柔らかな肌に食い込んでいた。吐露できなかった精が溜まっているのだろう。そのあたりが重く、熱を持ったように熱い。その上、たまらないほどに苦しかった。
「じゃあ、今度こそ脱いでもらおうかな。」
その言葉にはっとわれに返る博雅、少し恥じらいながらも上に羽織ったシャツを脱ごうとした。
「シャツは脱がなくていい。博雅はそれ一枚でいたほうが色っぽいからな。」
晴明が言った。
「色っぽいって…。俺には色気なんてないぞ‥。」
そういった博雅だったが、二度もイカされた後の博雅は匂いたつほどに艶めかしく、誰が見ても十分に色っぽい。
「いいから黙ってろ。何なら猿轡でもかまそうか?」
少し笑いを含んだ晴明の声。
「い、いや!いいっ!黙ってることにする!」
「なんだ、面白くないな…」
今度は確実にくすくすと笑う。
「ば、ばか…。」
それだけ言うと今度こそちゃんと黙った博雅。腰を浮かすとズボンと下着を一度に脱いだ。晴明の言う通りにシャツ一枚の姿になる。ひざを抱えてあそこを隠して座る博雅に晴明が言った。
「では続きといこうか。…まずはここだな。」
博雅の胸の突起に硬い何かが触れた。
「わ。」
思わず体を引く。
「直接触れられぬからな。ただの扇だ、心配するな。」
硬かったのは晴明が今でも必ず持ち歩く檜扇だった。
「…ほらまずはここ。博雅のかわいい乳首。ほら、ちょっとつつくだけでこんなに硬く立ち上がる。ピンク色でなんともかわいい…。」
檜扇の硬い角でつんつんとつつく。
「…あっ…こら…。」
「こらじゃないだろ…さあ、自分で触れてみろ。博雅。」
扇の端が博雅の左の手首の下に当てられぐいっと押される。おずおずと博雅は自分の胸に左手を当てる。
「そこを指の間にはさんで。」
「え。」
「ほら。」
今度は指先をつつく。
「う…。」
頬をそれこそ真っ赤に染め、博雅が自らのそれを左手の指先の間ではさんだ。利き手ではないせいだろうか、自分でやっているはずなのにまるで晴明が触れたかのように体の中心を貫いて快感が走り抜けた。
「あ‥っ。」
博雅のここは人一倍、敏感だからな。ほら指先に少し力を込めてみろ。そっと優しく押しつぶすんだ。」
また扇の端が博雅の手をつつく。
言われたとおりに博雅は指先に力をこめた。乳首の先が押しつぶされる。少し上に向かせてつぶされると一番感じることを自分でも知っている博雅。晴明に言われなくとも自分で乳首の先を上にねじった。乳首と指先だけが異様に熱い。そして自分の捕らわれた下半身の一部のも確実にまた、熱くなってきていた。思わず、目をぎゅっと閉じて歯を食いしばった。
「気持ちいいか?博雅?」
「…う…」
「そうだろうなあ。俺が言わなくても、ちゃんと一人で感じるやり方をしているものなあ。」
ずばり言われて博雅がうろたえる。
「い、いや!俺はそんな…!」
あわてて指を離す。
「いいからその手を外すな…。そこはちゃんとじっくり責めてやらないと、博雅は後で機嫌が悪くなるからな。」
「ばっ…!俺がいつ、そんなことを言った?!」
博雅が怒る。
「う〜ん…博雅、おまえ、ちょっとうるさいぞ。」
晴明は困ったように首を傾けた。博雅が怒っていることは気にもしていない。実際それどころではないのだ。余裕のあるような顔をして見せてはいるが、指一本、触れられなくて晴明の方も限界に近づいていた。
「おまえおしゃべりしすぎ。これではできるものもできない…。」
そういったかと思うと、ズボンのポケットからきちんと折り目のついた大振りのハンカチを取り出し、びっくりしている博雅の口に咬ませて後ろでぎゅっと結んだ。その結び目に向かって小さく呪を唱えて指先を当てた。結び目がぽうっと黄色く光って消えた。
あわてて結び目を解こうとした博雅だったが、もういくらがんばっても呪のかかったハンカチは解けない。
「ううっ!!」
博雅が怒った目で晴明をにらむ。
「怒るなよ、大体、お前が悪いんだぞ、ムードも何もぶち壊しなくらいしゃべるから。ほんとなら、キスで黙らせてやりたいところだがそれができないんだ。しばらく我慢してろ…」
「ん…。」
今にも口づけられそうなほどの熱い目で見られて、博雅の怒りが波のように引いていった。触れられなくて本当につらいのは、もしかしたら自分より晴明のほうではないかという気がした。
「これからちゃんと俺の言うとおりにしないと、いつまでも終わらないぞ。」
真剣な目で言われた。
「…う…」
コクコクとうなずく博雅。
「では、脚を開いて俺にお前のものを見せてくれ。」
「ん…!」
さすがに戸惑ったように顔を上げる博雅。
「俺は触われないんだ。いやでも自分でやってもらうぞ。…ほら脚を広げろ、博雅。」
扇の角が博雅のひざの下に入る。
「両足を立てて開くんだ。…ほら」
おずおずとひざを立てほんの少し脚を開く博雅。猿轡をかまれたその頬から赤みが引かない、額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「もっと。」
扇が脚の間に入って内側より押す。
「ひざに手を当てて内側から押すんだ。そうすればいやでも開く。いやなら自分の手ではないと思え。俺だと思うんだ。」
博雅は目をつぶってひざに手をあて、勇気を奮い起こしてぐいっと脚を広げた。晴明にされるのだと思えば怖くなどない。
両足の間で紅い紐に絡めとられた博雅のいとしいものが見えた。思わず伸びそうになった手をぐっと握って我慢した晴明、今は自分の欲望よりまずは博雅のことが大事だった。
「咲也のばかには腹が立つが、その紐の色だけは良い趣味だな。」
晴明が言った。
実際、博雅のものに紅い紐はよく似合った。色の薄い博雅のものが紅い紐をさらに際立たせていた。シャツだけを羽織った博雅。その体の中心には赤い紐に絡めとられた男の証。扇情的な光景だった。晴明の目が冷めたくなってゆく。
ふれることすら叶わなかった遠い過去を思い出した晴明。状況こそ違うが、思いつめてもふれられぬことには変わりがない。募る思いにあのころの意趣返しをしたくなってくる。
「いい眺めだ。どんなだか説明してやろうか?」
意地悪な言葉にぶんぶんと首を振る博雅。そんな説明など要らないと目が訴えている。
それを軽く無視して晴明が言った。
「お前のものに紅い紐がまるで蔦のように絡みついているぞ。ほら、お前が大きくなったものだから根元のほうに紐がしっかりと食い込んでいる。痛くはないか?」
そういうと扇の角でつつっとそれをなで上げる。指のようには柔らかくないその痛いほどの感覚に博雅がおもわず脚を閉じようとした。
「だめだって言っただろう?」
ひざの内側を晴明の扇がパシリと打った。
「‥ん!」
博雅が呻いて目を閉じる。手が震えながらもまた自らの脚を押さえつける。
「さあ。目を開けろ、博雅。そして俺をちゃんと見ろ。」
あごの下に扇を当てて上を向かせる。博雅がそっと目を開けた。
「さ、これでもう最後だ。二度目は間単にいったが三度目ともなるときついぞ。最後までちゃんと見ててやるから早く俺のところへ戻って来い。博雅。」
晴明が言った。その晴明の唇に博雅の目が吸い寄せられる。もう一度、この唇にふれて体中に晴明を感じたい。じわりと涙を浮かべて博雅がうなずいた。晴明に促されることもなくその手が自分の物へと伝い下りてゆく。晴明の目をみつめたままそれをそっと握りこむ。自分の物とも思えぬほどに硬く張り詰め、熱くなっている、握った感覚と握られた快感の両方に博雅のあごがのけぞる。
また少し腫れたのだろうか、紐がぎりっと博雅をさらに締め付ける。晴明には絶対知られたくないが、その紐の感触に酔ってしまいそうなくらい感じていた。胸のあたりまでをほの赤く染め、博雅は自分のものを己が手で嬲った。晴明に見られていることがさらに快感を煽る。
額に汗を浮かせ朦朧とした眼差しで晴明を見つめた。
なんで、こんなに俺の想い人は美しいのだろう。こんな惨めな姿をさらす俺など、この男にはふさわしくなどないのではないか‥。あれらもないこの身をさらし、一人でよがっている自分。恥かしくて死んでしまいそうだ。そして、そんなことにまた感じてしまう自分がいることにも気がついて、さらにつらくなってくる。朦朧とした意識の中でそんなことが頭を掠めた。
晴明と目が合った。と、晴明が博雅にふれぬように気をつけながら、その開かれた脚の間にひざを入れてきた。両手を博雅の腰の外側に付く。止まってしまった博雅の手を見下ろした。
「誰がやめていいといった?ちゃんと続けろ、博雅。」
怒ったように言うと、その怒りを含んだままの目を博雅に向けた。
「ばか博雅‥。お前はいつだって俺にふさわしい。‥俺のほうこそ、お前にふさわしくないのではないかといつも不安を抱えているんだぞ。馬鹿なことを考えるな。どんな姿をさらしていようと、お前は俺の唯一人の想い人。いつだって愛してる…。」
ハンカチの上から口づけた。
「…んんんっ!!」
博雅が最後の精を放った。あれほどにきつく博雅を締め付けていた紐が手も触れぬのに、はらりと解けて落ちた。三度も溜まったものがいっせいにその出口を求めて博雅の中からあふれ出す。量の多さのためか噴出すという感じではないが、なかなか止まらない。
晴明がそれを手で受け止めているのを見て博雅がびっくりして止めた。まだハンカチがくくられたままなので声にはならなかったが。
「んん!(よせ!)」
「何でだ?汚い物ではない。お前が俺を想ってくれた証だ。俺は嬉しいよ。」
「んんっ!(でもっ!)」
あわてて丸めたシーツで晴明の手を拭く。
「余計なことを…。」
軽く眉間にしわを寄せると床にあったネクタイをひらう。シャツをはだけるときに博雅が外した物だった。小さなヨークシャテリアが細かくプリントされた博雅のお気に入りのネクタイだった。
「お前のお気に入りのネクタイで悪いとは思うが…一本、だめにさせてもらうぞ。」
にっこりと微笑む晴明。なにをされるのかに気づいて博雅の目が大きく見開かれた。
「その通り、ご明察だよ、博雅。俺はお前の封印が外れるのをじっと待っていたんだ。なのに、最後の最後であんなこと考えやがって…。二度とあんなこと考えないようにきっちりお仕置きしとかないとな。」
もうどこを触っても大丈夫な晴明はまるで鎖を解かれた虎のようなものだ。誰にも止められない。博雅を押し倒すとその両手を上に上げさせ博雅のお気に入りのネクタイでベッドのヘッドボードに一角にくくりつけた。
「‥まして、今の姿は恥ずかしがるお前には悪いが、実に好みだよ。博雅。」
目覚めた虎は本当に怖い。
もう一回、つづかさせていただきます。(意味なく長い!)
次回、「晴明×博雅&晴明VS咲也、痛い目にあうのはどっちだ!?」…みたいな?(笑)
ちょいやばに戻ります