嫉妬は熱く (2)
「ひ…っあ…ぁ…」
壁に手をついてようやく体を支える博雅。
時々ひざから力が抜けて立ってなどいられなくなるのだが、背後から腰を掴んでいる晴明が博雅がくず折れることを許さない。晴明の挿送のリズムに透明の雫を振りまきながら博雅のものがリズミカルにゆれていた。博雅はぼうっとした頭で晴明に言われるままにその体を開いていった。晴明によって博雅自身からあふれ出したものが内腿を伝わってゆく。
背後から回された晴明の手が蜜をあふれさせ続けている博雅のものを下からさわりと撫で上げ、その硬い指先がその先端をぐりっと押しつぶした。
「あっ!…ああっ…!」
背後から貫かれるのと同時に前をきつく弄られて博雅ののどから悲鳴にも似た嬌声が上がった。
「そのような大きな声を出すと外に聞こえるぞ、博雅。ここは奥の俺の部屋とは違ってドアひとつ隔てれば秘書室もあり廊下もある。」
博雅を攻める手を休めることもせずに晴明は息も乱さずに言った。その言葉にはっとして博雅はきりっと晴明を振り返って睨んだ。
「な、なら…やめてくれ…っ!」
「いやだな。このように色っぽく乱れるお前を何で離せるものか。できればもっと艶っぽい声を上げてもらいたいくらいだ」
にやりと悪そうに笑う晴明、博雅の声が外に漏れようがどうしようが本当は一向に気になどしていない。
「晴…明っ…!」
博雅は必死に理性を取り戻して理不尽な事を言う晴明を睨みつけた。わざと自分をあおる晴明に博雅には珍しく怒りがわいた。
「お前の思うようになど…なって…たまるかっ!」
「ほう、俺に歯向かうというのか博雅…」
赤い唇に不敵な笑みを浮かべる晴明。
やさしく擦っていた手の動きが変わった。根元をぐっと押さえて動けぬように博雅のものを固定すると扱き出されたその頂点に爪を立てた。
「やあ…っっ!!」
博雅がのけぞって悲鳴を上げる。
やわやわと弄られるのとは違う痛いほどの刺激が、その頂点から繋がりあった後ろの秘所へと電流のように流れ込んだ。
「やっ…やっ…ああぁっ!」
腰を引くつかせる博雅の口から意味を成さない声が上がる。
まさにその刺激が引き金となって博雅が達しようとしたそのとき、きつく掴んでいた晴明の手が博雅のものをぱっと手離した。支えのなくなった博雅のものがふらりと心もとなげに揺れた。
「や…だっ…!」
その目にじわりと涙が浮かぶ。濡れたように艶めく博雅の唇からは先ほどまでの強気な言葉はもう出てこなかった。
「だめだ。博雅、今度は後ろだけで。」
博雅のなめらかな二つの丘をぐいと押し広げてさらに奥へと己のものを打ち込みながら晴明がその耳元でささやく。
「そんな…っ」
博雅が泣きそうな声で言った。思わず自分の手がそれに伸びる。その手をぱっと掴んで押さえ込むともう一度晴明は言った。
「さあ。イッてみせろ。俺のものだけに反応するお前を見せてくれ。」
博雅の最奥に埋め込んだそれをぐいと上に向かって突き上げた。
「あっ!…や…ああっ…っ!」
壁についたままだったほうの手がぎゅうっと握り締められてそのすぐ横に博雅の額が押し当てられた。きつく目を閉じ、唇をかみ締める博雅のその表情は苦悶に満ちた聖者のようにすら見えた。
「あ!…あっあっあっ…うう…っ!」
かみ締められた唇が開いたと思うと、そこからは聖者とは正反対の艶めいた声が止め処もなく漏れ出した。
晴明に引き止められた手もその背も小刻みに震えだす。
晴明の腰がぐり、と博雅にさらに突きこめられた。
「いや…あっ…あああっ!」
誰にも触れられぬまま、心もとなげに揺れていた博雅のものから熱いものがびゅう、と迸った。
後ろからの刺激だけで本当にイッてしまった博雅。息を荒げるその身が震え続けていた。
「イッたな」
背後から回された晴明の指先が硬く立ち上がった博雅の胸のつぼみをきゅいと摘み上げた。
「や…はっ…」
その背をのけぞらせる博雅、確かに後ろからの刺激だけで精を飛ばしはしたがまだ完全な達成感まではあと少し届かなかった。震えるその体がびくりと小さく跳ねる。
晴明の楔が今だ硬度を保って博雅の中にあった。
「せ、晴…明…お願いだ…」
博雅は晴明にその秘孔を擦り付けるようにして腰を振った。もう一度…。今度は晴明の手の中で一緒に…。
「なにをだ?」
博雅の気持ちなど手に取るようにわかっているくせに晴明はわざと聞く。
「ふ…触れて…くれ…」
胸の蕾に置かれた晴明の手を自らに導く博雅。もう外に声が聞こえようと誰に気づかれようとどうでもよかった。痛みすら伴うほどのその飢餓感にわずかに残った博雅の理性が跡形もなく砕け散った。
博雅は震えて汗ばむその手で掴んだ晴明の手を自分のものに回させる。晴明はただ黙ってうっすらと微笑み博雅の手に自分の手をゆだねた。
晴明の手に自分の手を重ねて擦り始めると、博雅はわれを忘れたように声を上げ始めた。
「あっ…!あ…あうっ…!」
自らの腰を晴明に激しく打ちつけながら博雅は再び快感の坂を駆け上っていった。
「大丈夫か博雅?」
晴明にぴたぴたと頬を軽くはたかれて博雅はようやくわれを取り戻した。気づけば応接の柔らかなソファに博雅はいつの間にか横たえられている。どうやら知らぬ間に気をやってしまって晴明にここまで運ばれたらしい。
肌蹴たシャツ一枚のしどけない姿。どうやったのかは知らないがいつの間にか、吐き出した精の後もきれいに拭われて、くたりと力の抜けた博雅自身が先ほどまでの激しい交わりにその色を濃くして博雅の足の付け根を彩っていた。ぼうっとして未だに自分がそんな姿であることにも自覚がない博雅、目の前の晴明の顔を見上げて満足げに微笑んだ。
「…せ…」
呼ぼうとした恋人の名がかすれて言葉にならない。そのかすれてしまった自分の声にはっと驚いて目を見開く。その顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていった、つい先ほどまで自分がどれほどあられもない声を上げていたのか思い出した。
「ううっ…!」
思わず顔を覆ってうなる。
「お…れ…とんで…もない…声だし…てな…かったか…?」
かすれかすれに、それでも必死に晴明に聞く。
「すごかったな」
ククッと底意地の悪い笑いを漏らして晴明が答えた。
「う…っ!…ほんと…かっ…!」
博雅がその耳まで赤く染めてぐったりと顔を伏せた。
「そうがっくりするなよ博雅。お前が俺の恋人だなんてことはいまさら隠すまでもないことではあるし、むしろ皆に聞こえるくらいに叫んでもらって助かったぐらいだ。今日のことがうわさにでもなれば、俺の博雅に手を出そうなんて不埒な奴もいなくなるだろうしな。」
「お、おまえ…!もしかして…ぜ…全部…けっ…計画してやったのでは…な…ないだろうなっ!」
今度は怒りに赤くなりながら博雅がかすれた声を張り上げた。
「ふっふっふっ。当たり前だろう。でなければわざわざここまでお前を連れ帰ったりするものか。今頃はホテルのベッドの中で同じことをしているところだ」
「こ…この…っ…悪者…めっ…!」
「ククク…何とでも言え。俺にそこまで嫉妬させるおまえが悪いのさ、博雅。」
「馬鹿いうな…んんっ…!」
怒れる博雅をやすやすと押さえつけ、文句を言い続けるそのふっくらとした唇をふさぎ黙らせると、そのしっとりと汗ばんだ肌にもう一度その手を滑らせる晴明であった。