朱呑童子の呪
秋ももう終わりの三日月の夜。
鞍馬の山の中。妖し達が酒盛りを開いていた。
皆から離れた梢の上に腰掛けて幹に背を預けているのは朱呑童子。
彼は今,かなり機嫌が悪い。
ほかの妖したちも遠巻きにして恐がって近づくことができないでいた。そんな中、黒川主だけは平気な顔をして声をかける。
「よう、朱呑のだんな。なんだか機嫌が悪そうだな。どうしたんだ?」
朱呑童子がその美しい顔を険しくしかめて木下の黒川主を見下ろした。
「おぬしの知ったことではない。」
ふん、とむこうを向いてしまった。
「やれやれ。ほんとに機嫌がわるいんだな。おぬしがここまで感情的になることと言えば…ふ〜ん…。さては博雅様に振られたか、晴明となんかあったか。どっちかだな。」
黒川主の言葉に朱呑童子がきっと振り返る。その目はまさしく鬼王の瞳。恐ろしいまでに殺気を放っていた。
「おっと!そんな恐い顔でにらむなよ。俺はただ、そうじゃないかって言っただけだぜ。なんだ、図星かよ。」
黒川主は朱呑童子の殺気のこもったまなざしにも、いたって平気な様子だ。
「で、博雅どのか?」
「ふん。」
晴明が戻ってきてからというもの、わかっていたことだが、博雅と会う機会がめっきり減ってしまった朱呑童子。
それまではそれこそ博雅は、いってみれば朱呑童子の縄張りだといってもよかったくらいだった。
なのに、忘れたころにやってきたくせに晴明のヤツは博雅を自分のテリトリーにしっかりと守りこんで、その結界は朱呑童子すら寄せ付けようとしない。
それでも週に一度くらいは博雅のほうが朱呑童子をたずねてきて話をしたり、一緒に笛を吹いたりしてきた。ところが…。
「この間の宴以来、博雅どのが訪ねてこなくなったのだ。どうしたのかと思っていたらどうやら晴明め、俺に会ってはならないと言っているらしい。」
「ああ。この間のあれか…。」
自分のところの咲也が晴明を怒らせたあれ…。あの時の晴明は確かに、おっかなかった。
咲也にその怒りの矛先が向かわなかったことに、いくらかほっとしていたのだが、その余波がまさか朱呑童子に向かったとは。まあ、でもあのときの朱呑童子の態度も晴明を馬鹿にしまくっていて確かにやつの怒りを買いそうではあったが。
「まあまあ。天下に名だたる朱呑童子殿ともあろうお方が、晴明などという小さな人間ごときに腹を立てなさるな。」
その黒川主の言葉になにを思ったのか、朱呑童子がふっと宙を見つめてひとりごちた。
「小さい人間…。ふ…む。」
にやっと笑った笑顔の鋭い犬歯が、三日月の薄い明かりを跳ね返してきらりと光った。
その朝。
博雅はへんな夢を見た。
幼いころの夢。母がいて父がいて、幸せだった小さなころを夢で見ていた。大好きな母と手をつないで歩いている。と、手をつないだ母の姿がすうっと消え始める。あわてる幼い自分。大きな声で母を呼ぶ。
「おかあしゃんっ!!」
自分の声ではっと目を覚ました。全身にびっしょりと汗をかいていた。
「はあ。夢か…。」
額の汗を拭こうと手を上げた。その手がパジャマの袖の長さの半分にも満たないことに気づく。
博雅の悲鳴。
「う、うわ〜っっ!!」
「な、なんだ!?どうした?博雅っ!?」
となりで寝入っていた晴明がその悲鳴で飛び起きた。隣の博雅をみて声を失った。
「…ひろま…さ?」
「せい…めえ…」
半べそをかいている博雅。
「これは…また…。」
おどろきから覚めた晴明は少し面白そうに笑った。
「おまえ…もしかして今、笑ったか?」
涙目で晴明をにらむ博雅はあまりにもかわいらしかった。
「…いやいや、笑ってなどいない。俺はいつでもこんな顔だ。」
だが、その口の端は明らかに笑いをこらえて、ぴくぴく引きつっている。
「そうかあ?絶対笑ったと思ったぞ。」
ピンクのほっぺたをふくらませて怒る。それがますますかわいい。
大きなパジャマのなかで博雅の体が泳いでいた。その日、目覚めたら博雅のからだが小さくなっていた。小さくなったというより幼いころに戻ったというほうが正しいだろう。くりくりの瞳に、同じくくりくりの柔らかな髪。ほっぺは丸々として、まさに健康優良児そのもの。たぶん6歳くらいだろう。120センチほどの身長はまさにぴかぴかの小学一年生といったところ。
「こんなのがその辺歩いてたら、あっという間に悪いおじさんにさらわれちまうな。」
しげしげと博雅を見ながら晴明が言った。
「冗談ではないぞ!晴明。いったい、俺はどうなっているんだ!?」
当惑してしまいに怒り出す博雅。だが、その姿ゆえ迫力は皆無。
ぶかぶかの袖を何重にも折り返してシャツを着た博雅。袖は折り返せても胴回りは今の博雅なら二人は楽に入れるほどにゆるゆるだ。ズボンにいたってははける物すらない。
「何で俺がこんな目に…。」
博雅にはなにがなんだかまったく覚えがない。とにもかくにも今日は月曜日だというのに、これでは学校にも行けそうにない。
「なんとなく犯人はわかる気がするが…。」
と、晴明。それをさえぎって博雅が悲痛な声で言った。
「犯人よりも仕事だ!今日はまだ月曜なんだぞ。教師の癖に休むわけには…どうしたらいいんだ…」
小さな手で小さな頭を抱え込む。
「俺は休んだって別にかまわないとは思うが…そんなに気になるならお前に似せた式をお前の身代わりにやっておこうか。」
「式?大丈夫か?」
「おれの式ならがきどもの相手ぐらいなんとでもなろうさ。どうしても無理というなら学校で派手に怪我でもさせるさ。それなら名実ともに堂々とやすめるだろ?」
ふっと笑って晴明が言った。
「そこまでしなくてもいいとは思うが…」
「まあ、学校のほうは俺の式に任せておけ。それより。」
さて、どうしたものかと晴明は考える。たぶんこれは朱呑童子の仕業だ。近頃、博雅とやつが会うのを極力邪魔してきた、たぶん理由はそのあたりだろうと見当がついた。
(まあ、いつまでも博雅をこのままにもしておくまい。)
ほうっておいても何日かにうちには元に戻るだろうとタカをくくった。それまではこのちび博雅を眺めているのも楽しかろうぐらいに思っていた。
ところが。
翌日、事態は晴明にとって思わぬ方向へと進んでいた。
昨夜はさすがに何もできず、そのまま小さくなった博雅をその腕に抱え込んで眠った晴明。博雅の泣き声で目が覚めた。
「ひっく、ひっく…」
目が覚めてみれば目の前に小さな博雅が肩を震わせて泣いているではないか。
「博雅?どうした?小さくなったことがそんなにショックだったのか?」
まさか泣くほど嫌がっていたとは。昨日はひたすら怒っていたはずなのに。
「あ、あなた…だれ?ひっく。ママがいない…ひっく、ぐすっ。」
「ひ、博雅…?」
さすがの晴明も驚いた。昨日は体だけが小さくなっていただけなのに今日はその記憶までもが逆行している。
(朱呑童子…いくらなんでもこれはないだろう?)
つぶらな瞳にいっぱいの涙をためた博雅をみて、朱呑童子にたいしてむかっと怒りを覚えた。
その晴明を見上げて小さなこぶしで涙をぬぐいながら博雅が言った。
「おじちゃん、だれ?」
「お、おじちゃん…。」
おのれ、朱呑童子…。思わず、こぶしに力が入ってわなわなと震えた。よくも博雅に俺をおじちゃん呼ばわりさせるようなことをしたな…。殺気をみなぎらせた晴明の表情に小さな博雅がびくっと震えてまた泣きそうになった。
「ひ…っく。」
はっと気づいて思わず博雅に手を差し伸べる。小さなわきの下に手を入れて自分の胸元に抱きかかえた。
「すまない。怖かったか?」
「う…ん、ちょっと…。でも、おじちゃんほんとに誰?それにママとパパはどこ行ったの?」
つぶらな瞳で晴明を見上げる。
「パパとママは…あ〜、その…今日はちょっと二人でお仕事にいったんだよ。だから今日は博雅は俺…いや私とお留守番だよ。…わかったかい?」
少し苦しい言い訳だったが中身まで幼くなった博雅にはそんなことわからない。素直にこくりとうなずく。
「そっか…じゃあぼくパパとママが帰ってくるまでいい子にしてる。」
少し潤んだ瞳でにっこりと微笑む博雅。
(か、かわいすぎる…)
ロリコンでなくてもノックアウトされそうな爆弾スマイル。
(よくもまあ大人になるまで無事にきたものだ…)
たぶん朱呑童子が守ってきたのだろうとはわかってはいるが。だがそれとこれとは話が別だ。晴明は式を朱呑童子の元へと使わした。この博雅を何とかしてもらわなければ。
式に伴われてようやく朱呑童子がやってきた。むすっと面白くない表情を浮かべている。
「なんだ、我を呼び出すなど。」
博雅に呼ばれるならともかく、何で晴明などのためにこんなとこまで来なくてはならないのだと思っていた。
「どうしてくれるのだ、朱呑童子どの。」
「何が?」
「博雅のことに決まっておろうが。」
晴明が指差した先に式とボール投げをして中庭で楽しそうにはしゃぐ小さな博雅の姿があった。式に買いに行かせた半ズボンとTシャツがさらにその愛くるしさを増すアイテムとなっていた。
「ほう。これはまたかわいらしい。昔よくさらった稚児などよりはるかにかわいいな。」
いつもは冷たく無表情なその白い面ににんまりと笑みが広がる。
「あなたがやったのだろう。博雅を元に戻していただこう。」
「まあ確かに小さくなるよう呪はかけた覚えがある。」
「では早く戻せ。」
「えらそうな物言いだな、晴明。」
じろっと晴明をねめつける朱呑童子。だが晴明も負けてはいない。同じように氷のように冷たい目で睨み返す。
「偉そうなのは今に始まったことでもないだろう。そんなことより…」
晴明がさらに言い募ろうとしたそのとき手から離れたボールを追いかけて二人の所へ博雅が走ってきた。ボールに追いついて拾い上げると二人の大人を見上げた。
「おじちゃんたち、なにお話してるの?ぼくと一緒にボールのなげっこしようよ。」
「おじ…」
朱呑童子が言葉に詰まった。
「ごめんよ、博雅。おじちゃんたち大事なお話の最中なんだ、後でもっと楽しいことして遊んであげるから、もう少しお姉ちゃんとあそんでおいで。」
晴明はそういって博雅の背を押した。
「うん…じゃ、後で必ずあそんでよっ」
少し名残おしそうな顔でまた再び式のところへと駆け戻る博雅。その背を見送りながら晴明が朱呑童子にいった。
「小さくするだけならまだわかるが、なぜ心まで幼くしたのだ?朱呑童子どの。」
「心まで幼くなったというのか?」
「そうだ、あのとおり、すっかり普通の幼子になってしまった。悪ふざけにもほどがあろうと思うのだが。」
「我はそこまでしておらぬぞ。」
と、朱呑童子。
「なんだと?」
「我は体だけを小さくしたのだ。そうすればおぬしも博雅に色々できないだろうし、さぞ、楽しかろうと思ってな。だが、それだけだ。中身までいじってはおらぬ。」
「では、あれはなぜだ?」
晴明はあごをくいっと博雅に向かって傾けた。
「わからぬな。まあ博雅殿は今までいろんな怪異にあって来たからな。やはり普通の人間とはなにかしら違う能力のひとつも備わっていてもおかしくはないだろうさ。」
「ふん…そういえば昨日も今朝も母の夢を見ていたようだったな。」
「それだな、たぶん。博雅どの母御が誰よりも好きだったからな、体が小さくなってその思い出が博雅どのの心を支配したのかもしれん。」
「どうすれば戻る?」
「さあな。」
「元はといえばあなたのせいではないか、無責任だぞ。」
晴明がいらっといった。
「そのさらに大元はおまえだ。」
朱呑童子も言う。
「なにい…」
「我と博雅殿が会う機会をことごとく潰してくれただろうが。」
「その腹いせか」
切れ長の目を細めて晴明が朱呑童子をにらむ。
「そのとおり。今回のこれはおまえには面白くないだろうが我にとってはまたとない好都合かもしれぬ。」
朱呑童子がふふんと鼻で笑う。
「もう一度博雅どのと最初からやり直せるというものだ。お前と違って我は人間の寿命に左右されぬからな」と童子は言った。
「今度、博雅どのがちょうどよい年頃になったころにはお前はもう爺さんだ。ははは!これは面白い」
「おのれ。朱呑童子っ!!」
晴明が袖口から呪符を出す寸前に朱呑童子はかき消すように消えた。
『おう。こわいこわい…』
声だけが彼のいた場所に響いた。
「くそっ!あのやろう…」
呪符を握りつぶして晴明が言ったときだった。
バシャンッ!
水音がしたかと思うと式の大きな声が聞こえた。
「あれっ!博雅さまっ!!」
晴明がはっと声のした方をふりむく。中庭の池の中で手足をばたつかせている博雅の姿が目に飛び込んできた。
「博雅っ!」
あわてて庭を駆け抜けて池まで走る。見れば博雅が大して深くもない池の中でパニクっていた。そばにボールが浮いているところをみると、どうやらボールを追いかけて池のそばで足を滑らせたようだ。溺れるはずもない深さなのだがあせりまくっている博雅にはそれがわからないらしい。晴明はためらうことなく池に飛び込んだ。
「大丈夫か?博雅?」
「あ〜んあん!」
びっくりして泣く博雅を水の中から抱き上げると、小さな手を晴明の首にぎゅっと回してしがみついてきた。
その震える小さな体を晴明は優しくぽんぽんとたたいた。
「大丈夫、もう怖くないぞ、この晴明がついてるからな。」
「せ…め?」
なみだで大きく潤んだ瞳を上げて博雅が言った。
「おじちゃんのおなまえ?」
「そうだ、お…おじちゃんの名前だよ。」
『おじちゃん』はやめてくれ、博雅。
「せ…め。せーめ!」
なにがうれしいポイントだったのかわからないが今まで泣いていた博雅がにっこりと笑った。
その爆弾スマイルについつられて晴明も笑みを浮かべた。
「へくちゅっ!」
すっと風が吹き抜けてびしょぬれの博雅がくしゃみをした
「おっと、大変だな、このままでは風を引いてしまう。天一、湯の用意をいたせ、すぐにだぞ」
そばに仕える式神に命じた。式は黙ってこくりとうなずくと、すっと家の中へと消えた。
小さい博雅がお風呂の中でご機嫌に歌っている。
「せーめ、せ〜め♪」
自分で即興に作った歌のようだ。
「なんだその変な歌は?」
博雅の小さな頭をごしごしと洗いながら晴明が聞いた。
「ん〜?これはねえ、せいめの歌。せいめはぼくの一番大事なひとなの。」
思ってもいなかった博雅の言葉に驚く晴明。
「そうなのか?」
シャワーで泡だらけになった体を洗い流した。
「うん。だってぼくは、せいめのためにいるんだもん。」
水滴を滴らせながら博雅がにっこりと晴明にむかって微笑んだ。
晴明は、つぶらな大きな瞳で見上げられてそのかわいらしさと言葉に、ロリコンでもないのについ、その小さな桜色の唇に口づけてしまった。
「おっと、しまった。」
はっ、とわれに返った。これではただの悪いオジサンじゃないかと自分を叱る。
突然のことに目をまん丸にしてびっくりしている博雅。
「すまない…」
謝ろうとした晴明の言葉が宙で止まった。
博雅の様子がおかしい。
突然、博雅の体がびくっと跳ねた。
「なんだ?」
驚いて見つめていると晴明の目の前で博雅の体がぐんっ!と一回り大きくなった。
さっきが小学1年だとすれば今度はその1学年上くらいの背丈になった。
「あれ?」
そう言って驚いている博雅もさっきよりは少し成長した話し方になっている。
「はは…ん」
何事か理解した晴明、今度はしっかりと博雅の顔を自分の方に掴んで向けた。
「そういうことか…。」
紅い唇を引き上げて悪そうな笑みを浮かべると驚く博雅の唇に自分の唇を重ねた。
ちゅ。
ぐんっ!
博雅が大きくなる。
ちゅ。
また一回り。
ひとつ口付けるたびに博雅が成長してゆく。5回目には中学3年くらいまでにその体が戻っていた。
「博雅…俺が誰だかわかるか?」
「え…?」
何回も口付けられてぼうっとなった博雅、さっきまでの小さな博雅とは違って随分少年らしくなっている。背もぐんと伸びて160センチくらいにはなっていた。それでもゆうに180は超えている晴明の腕の中では小柄に見える。長いまつげをやさしげに伏せて聞く晴明の顔に博雅の頬がほんのりと上気した。
「おじさんなどと言ったら怒るぞ…。」
紅を差したような唇がカーブを描く。
「せい…めい…?」
その唇に魅入られながら博雅が晴明の名を呼んだ。過去の記憶と現代の記憶が混在しているようだ。
「俺がわかるか、よかった…博雅。」
ほっとしたように言うとまた再び唇を重ねようとした…が、その顔がふと止まった。
何かを考ているのか、晴明の目が細められた。
「せ、晴明…?」
博雅が不安そうに晴明を見上げた。
晴明がその腕の中の博雅を見下ろした、そして、にっ、と笑った。
「な、なに…?」
その笑顔に思わずびくっと体を震わせる博雅。
「朱呑童子の言ったのも案外本当だな。まことよきチャンス…」
博雅の少年らしい細い腰をぐっと自分の方へと引き寄せた。
ベッドの上にしなやかな博雅の若い体が横たえられている。その上に覆いかぶさるようにして晴明の広い肩があった。
博雅の少し薄い胸に晴明の大人の手が這う。胸の桜色の突起をつまみあげるときゅっと押しつぶした。博雅の体が晴明の腕の中でびくっ、とのけぞった。
「あんっ!」
こぶしを口に当てて博雅が耐え切れないように声を上げた。
「かわいいな博雅。」
晴明が博雅の耳元でささやく。その低く甘い声にまた博雅の体が反応する。
「こんなころから感じやすかったのか、博雅。まったく何てことだ。」
いいながら耳朶をかむ。
「ああん…」
博雅がかわいい声であえぐ。
「ひとつキスをするたびに大きくなるのなら…ヤレばどうなる?まさか俺を追い越しはしないだろう?」
そういうと首筋に口付けを落としてゆく。鎖骨の辺りをきつく吸い上げてそこに赤い印をつけた。
「俺より年を食わないようにお守りだ…。」
そういってその印の上に指を二本当て呪を唱えた。
まだ若くはちきれそうな博雅のそれを晴明の手が優しく上下する。
「…あ…ん…晴明っ…」
晴明の手を止めようと博雅の手が下りてくる。その手をもう片手で軽々と掴み上げると晴明は笑った。
「いまのお前の抵抗などもの数ではないな。…それにしても…本当のお前のものと少し大きさは違うがほとんど色が変わらないんだな。」
大きく広げられた博雅の股間に立ち上がる手の中のものをじっくりと見つめて晴明が言った。それは大きさこそ少しこぶりだったが、ほんのりとピンクに色づいてとてもきれいな色をしていた。
「やだっ!見ないでっ!」
博雅がいやいやをするように頭を振った。同時にその細い腰も揺れた。
博雅の抵抗などなんとも思っていない晴明、今度は博雅のひざの裏に手を入れるとそのままぐいっと足を胸のほうへと押した。
「やあ…んっ!」
博雅が叫ぶようにあえいだ。
「本当にいつだってかわいいヤツ…。」
両足を胸の下に抱き込んだまま晴明が再び口づけた。
今度は唇が触れ合うだけのものではなくて舌を絡ませてゆく。
「…は…ふっ…」
辛いであろう姿勢なのに、博雅の柔らかな唇からはうっとりとしたようなため息にも似た声が上がる。口づけの最中にまたしても博雅の体が少し大きくなった。少年らしい柔らかなあごのラインが消え、代わりに線がはっきりとシャープになった。花びらのようだった唇も少し厚みのある艶めいた唇へと変わる。全体に少年というよりは青年と呼ぶに相応しい体に博雅は変じていた。
「あんまり小さいと悪いことをしているようで落ち着かないからな。これぐらいなら後で博雅に怒られることもないだろう。」
唇を離して晴明は言った。
「さて…」
博雅の足首を持ってその中心へとそのきれいなかんばせを沈めてゆく晴明。いよいよ本気モード全開である。
「あ…ん…」
すいつくような滑らかな肌に晴明の冷たい手のひらがなでるように這う。
博雅の両脚の間に晴明の腰がしっかりと納まっていた。まだ晴明のものは博雅の中には入っていない、お互いのものを重ねるようにして摺りあわせる晴明。それぞれの先から溢れた露によってなめらかに摩擦が続いていた。
「…博雅…こっちを見ろ。」
博雅の顔の両サイドに手をついて晴明が言った。
「…は…あ…」
重くなってゆくまぶたを必死に開けて博雅が晴明の方を見た。
「博雅はまだ母が恋しいか…?」
「…母を恋しく思うのは…当たり前…ではないか…」
「…そうだな…つまらんことを聞いたな…」
「でも…」
びくっと大きく博雅の背がしなった。感じるところに晴明のものが触れたようだった。
「母を恋うる心と…晴明…おまえを恋うる心はまったく…別だぞ…」
そう言ってにっこりと笑う博雅、いつのまにか元の博雅に戻っていた。
「戻ったか…」
苦笑いする晴明。
「俺で遊ぼうとしたな…晴明?」
博雅のいつもの手が晴明の首筋に回された。
そのまま晴明の顔を引き寄せて口付けた。
さきほどまでのぎこちないくちづけとは違っていた。
「…んん…」
遠慮のない晴明の舌の動きに博雅の鼻から甘い息が漏れた。
「今俺が一番恋しく思うのはいつでもおまえひとりだよ晴明…かあさんには悪いけれどな。」
そういって微笑む博雅の笑顔に晴明は胸の奥に痺れるような幸せを感じた。
「…博雅…」
博雅の心と同じに熱く自分を待つ場所へと晴明のものが誘い込まれるように入っていった。
「何で小さくなったんだろう、俺?」
晴明の腕に絡まれながら博雅が首をかしげた。
「さあな…」
博雅の首筋に名残惜しげにくちづけを落としながら晴明が返事をする。
「常にいろんな妖しと付き合ってればいくらかはその影響もあるだろうさ。」
「そんな簡単に?」
まだ博雅は納得がいかない。そんな単純なわけのないので当たり前だが。
「でも、まあ元に戻ったんだしいいではないか。」
「まあな…ただ小さくなってたときの記憶があんまりはっきりしてなくて…」
「そりゃあそうだろ、完全に子供に戻ってたからな」
「…うん…あ!でもひとつだけはっきり覚えてるぞ!」
なにを思い出したのか博雅がに〜っとうれしそうに笑った。
「なにを?」
晴明はもう一度博雅をその気にさせるのには背中から攻めるか口付けがさきかと、頭の中で作戦を立てるのに忙しく博雅の言葉の真意にもろくに気づかず生返事をした。
「晴明…お前にむかって『おじさん』って言ったこと」
晴明の動きがぴくっととまった。
「なんだって…?」
「だからおまえのこと『おじさん』って…」
晴明の顔が急に目前に迫って博雅の言葉が途中で途切れた。
「…あ、あの…なんか…まずかった…かな…?」
「ふっふっふっ…」
「ちょ、ちょっと…晴…わあああっっ!!」
「子供だからこそ許される一言って言うのはあるものなのですよ、博雅くん」
と、晴明が博雅に言ったのは、それからずいぶんと後のことでありました。