ただひとり
月明かりの差し込む寝室のなか、小さな話し声。なんだか少々もめているような。
「だから、いいって。」
「いいわけないだろ。一度もないのだろう?」
「いいんだよ。俺は今のままで。」
博雅が頑固に首を振る。
晴明は困ったように博雅をみた。
何をもめているかというと、博雅の女性経験についてだ。
ひたすら一途に晴明を待っていた博雅。二十五才にもなっているのにまったくといって良いほど女の経験がない。
それは何度かキス位はしたことはあるが、そこから先の経験はほぼ、皆無だった。晴明はうれしいことはうれしいのだが結構気がとがめてもいた。
一度博雅にも男として経験させてやるのが公平だろうとかんがえていた。
だからといって、浮気はして欲しくない。考えた結果、式を相手にと、思ったのだった。
二人の目の前に妖艶な美女がすそも露わに座っている。普通のまともな男なら、生唾ものの姿態だ。
「お前が俺だけを待っていてくれたことはうれしいが、それで男としてのお前を全否定するのはおれには我慢できないんだ。これはお願いだ。一度で良いから男として女を抱いてくれ。それでも俺の方が良いといってくれれば俺はそれでやっと納得できるんだ。」
「そんなこといわれてもなあ。やっぱり、やんないと駄目か?」
ため息をつく。自分だって女性が嫌いなわけではない、可愛い子を見ればどきっとすることもあるし、セクシーな女を見れば股間に来ることもある。ただ、それ以上に晴明がよいだけなのだ。でも、今それをいったところで信用されるとも思えない。
ただ、横でそれやれ今やれと,せかされて出来るものでもないし。
博雅は腹を決めると
「わかった!すればいいんだろ。ちゃんとやることはやるからちょっと外してくれ。横にいられては起つものも起たない。」
博雅の強い言葉に一瞬驚いた晴明だったが、うなずくとだまって部屋を後にした。
「さて、どうしたものか。」
目の前の式に向かって言葉をかける。
「私を抱いていただければそれでよろしいのです、それが我が主の望みです。」
「式とはいえ、律儀なものだな。俺も相当な律義者だが。」
では、律儀にやるとするかと博雅はため息をつきながら、女を床に横たえていった。
博雅だとてまだ二十五の若い男だ。その気になればいくらだって女ぐらい抱ける。
柔らかな胸を掴み、片方に舌を這わす。
式とは言え、どこまでも普通の女に近いゆえ、舌でつぼみを転がされればあえぐ声も上がる。
「ああっ!…博雅さまっ!」
切なげに身をよじる様はどこまでも艶っぽい。
柔らかな茂みを掻き分けると秘められたそこはもう、溢れるほどに潤って。二本の指を滑り込ませる。
何度か挿入を繰り返した後に、その指をなかで開くとあえぐ声がさらに大きくあがる。
「あっあっ…ああっ…!!」
しかし、博雅の表情は淡々としたものだ。女を喜ばす手順など誰に教わらなくても知っている。前世とはいえ、一応、経験くらいあるのだ。
女のそこに大きくなった自分のそれをあてがう。
(晴明、そこにいるか?今からお前の望みどおり女とやるぞ。確認に来たらどうだ?)
心の中で博雅にしては皮肉っぽく言う。
嫌がる自分にこんなことをさせる晴明に対して、腹を立てていた。
女の中にじぶんのものを突き入れてゆく。いつもは晴明の口の中しか知らないそれを熱い女のそこが絡みつくように包み込む。
式の足を大きくひろげその腰を掴み挿入を繰り返す。式は身体をのたうたせて悦んでいる。
だが、博雅は相変わらず表情があまりない。
男だから女のそこは確かに気持ちがいいし、挿入による満足感もある。でも、それだけだ。虚しい…。
「晴明のばかやろう。俺にこんなことをさせて…。こんなのが俺のためだと本気で思っているのか!…大馬鹿野郎だ、おまえはっ!」
思わず晴明を責める言葉が口をついて出る
「博雅様…?」
博雅の目から大粒の涙が落ちるのに式が驚く。
「晴明さまっ!!博雅様が泣かれております!私はどうすればよろしいのですかっ!?」
大きな声で晴明に呼びかける。
「ばっ…ばか!言うなっ!!」
止めた時にはもう遅く。
部屋のとびらがあわてたように大きく開く。
「博雅っ!」
晴明は目の前の光景に自分がけしかけたこととはいえ一瞬、胸がつぶれるような思いがした。
博雅のそれが女の中にきっちりと埋められているのが目に入った。相手が己で作った式とはいえ、嫉妬に胸が焼かれる思いがする。
が、その博雅の顔はこれ以上ないほど悲しげで、ほおを涙の後がぬらしている。
「見るなっ!晴明のばかっ!」
博雅が顔をそらせて叫ぶ。でも、晴明は見てしまった。後から後から溢れる涙を。
「現正真姿。」
博雅の体の下から女が消え一枚の人型だけが残った。
「博雅…。」
小刻みに震える博雅の肩に手をかける。
「晴明のばかやろう…。」
「博雅…。」
「俺は本当にお前だけでいいんだ…。なんで分からないんだ…ばか…。」
「すまない…博雅。」
シーツを握り締めた博雅のこぶしに涙が落ちる。
「お前が余りに一途で、…俺は本当に俺でいいのかと不安でしょうがなかったんだ。すまない、博雅…。」
その胸に博雅の身体を引きよせ、ぎゅっと抱きしめる。その晴明の腕もわずかに震えていた。たとえ式とはいえ、やはり博雅を取られるのはかなり辛かったのだ。
「では、俺がほんとにお前だけだということを証明してやる。俺を抱け、晴明。今すぐにだぞ!」
涙にぬれた目できっと晴明をにらむように見る。
「…!」
晴明はだまってその背の高い均整の取れた身体を博雅のその身を覆いかぶせてゆく。博雅の頬を両手ではさみ、その唇を割って口付ける。
「んん…んっ…」
性急に絡みつく晴明の舌に博雅のくぐもった声が漏れる。唇を離すとどちらからともなく満足のため息が漏れる。
更に何度かついばむように口付けを交わすと晴明の唇は博雅の身体を下へと降りていった。博雅のピンクの小さな突起に舌をあそばせた後、更に下へと下がってゆく。長い博雅の両足をひざを曲げさせると大きく広げ、先ほどまで女の中で挿入を繰り返していたため大きくそそり立ちぬれて光っている博雅のそれに舌を這わす。
「うっ!」
博雅が声を上げるのとほぼ同時にそれもびくんと大きく振れた。
晴明は博雅のものを口に含んでゆく。月明かりの室内に隠微な水音と博雅の切れ切れのあえぐ声が小さく響く。
「あっ!!…ああ…。」
博雅は晴明の咥内で大きくはじけた。
晴明の紅い唇の端から白い博雅のそれがつうっとしずくを漏らす。
「飲んだりするなよ、晴明。…。」
「もう、おそい、博雅…。」
「ばか…。」
「今日は博雅に馬鹿馬鹿言われてばかりだな。」
それもしょうがないと切れ長の目を細めて笑うと、晴明は着ていた物を脱ぎ、博雅の秘められたそこに自分の固く屹立したものをあてがった。
「晴明、俺の目を見ていろ。俺がどれほどお前を思っているか証明してやる。」
「普通、そんな台詞はやる側だと思うんだが…?」
思わず苦笑する晴明。
「いいんだよ、これでっ!」
ほおを紅潮させながら博雅が言い返す。
博雅に促されて晴明のそれが博雅のそこに突き入れられる。
博雅の身体が大きくのけぞる。
「あっ!ああっ!」
きっちりと奥まで晴明のものを飲み込んだ博雅。大きく息をつきながら晴明に視線を合わす。
「…俺はお前けだ…晴明。俺の身体はそうは言っていないか…?」
「ああ。…俺だけだといっている。…うっ…俺に絡み付いてはなそうとしないよ。」
博雅のそこは本当に晴明を離すものかと絡み付いてくるようだった。ぎゅるりと晴明のことを締め付ける。
「そうだ、やっと見つけたのだお前を…、絶対離さない…あっ…。」
晴明のそれが博雅の感じるところをついた。
博雅の身体はほのかに桃色に染まってその媚態は先ほどの淡々とした表情とはまるで別人のようだ。
晴明に何度も何度も大きく突き動かされてその身体が汗で光っている。かき乱されてもう目を開けていることさえ出来ない
紅潮した頬に長いまつげを伏せて苦しいかのように眉間にしわを寄せている。その唇は半分開き、白い歯の間にはピンクの舌が顔を覗かせている。
晴明は博雅の身体を九の字に折り曲げるようにすると、自分のそれで博雅のその最奥をつく。さらに、誘うように覗く博雅その舌を絡めとるように口付ける。
上の口と下の口の両方をふさがれて博雅がはじけた。晴明もそれに合わせるかのように博雅の最奥で精をはなつ。
「ああっ!博雅っ!」
「せい…めえ…あっ…ああっ!」
唇を離し、同時に互いを呼び合う。晴明の顔から汗がしたたり落ちる。普段の涼しげな顔から想像すら出来ない表情だ。
「はあ…。やっぱり、おまえがいい…晴明。」
「…ばか…。そんなうれしいこというな。」
シーツの中でくしゃくしゃになりながら笑顔を交し合うふたり。
「でも、俺はほんとに怒っているんだからな、晴明。今度、あんなふざけたまねをしたらただじゃ置かないからな。」
「すまん。本当に悪かった。でも、少しは女とやってよかったんじゃないのか?」
「俺に経験がないとお前はうるさく言うが、確かに今生ではないかもしれないが過去にその記憶がないわけではないぞ。女と寝るくらい、いつだって出来るんだからな。
今日は相手が式だったからよかったようなものの、俺が本気でおんなと出来たりしたらどうするつもりだ。晴明。」
うぶな博雅でも意地悪のひとつも言いたくもなるというものだ。
「それは嫌だな。…そのときはお前を殺して俺も死ぬかな。」
冗談めかして言った晴明だったが、その冷たい瞳は決して冗談を言っている目ではなかった。
「ばか…。物騒なこと言うな。」
いいながらも、晴明の本気を感じてなんだかうれしくてくすくす笑い出す博雅であった。
ちょいやば