俊 宏


さっきからクラスの女どもがうるさい。

彼は友人とゲームの話をしながらも、頭の片隅でそう思っていた。
クラスの女子たちが騒いでいるのは、源元先生のことだ。
 
「最近、源元先生、かっこいいよねえー!」
一人が言い出したのだ。すぐ、それにつられてほかの女子たちも騒ぎ出す。
「あ!やっぱそう思う!?あたしもそう思ってた!」
「あたしも〜!」
我もわれもと大騒ぎだ。
「なんか、セクシーっつうか、色っぽいつうか〜。なんだか見てると、どきってすることあるよねえ!」
「それ、それ!なんか、お・と・な・の男って感じ?」
両手を前に組んで、ぽ〜っとなっているのまでいる。
「あれは、ぜ〜ったい、なんかあったのよ!」
「やっぱ、彼女できたんじゃないの?」
「え〜!やっぱ!?もし、そうならかなりショックかもー!」
「あたしも、ショック〜!」
「なによ、あんたも先生のこと好きだったのー?」
「そういうあんただって、そうじゃん!」
「まあまあ、源元先生はみんなのアイドルなんだから、けんかすんじゃないのっ!」
「でも、一度でいいから抱かれた〜いっ!」
「きゃあ〜!やらしい〜っ!!」
ぎゃはぎゃは大騒ぎだ。
 
(うるせえやつら…)
友達の話に適当に相槌を打ちながら、女子たちの話を聞くともなしに聞いていた俊宏。聞いているうちにだんだんイライラしてきた。
(こいつら、何にもわかってねえし。…まあ、わかったらこんなもんじゃすまないだろうけどな。)
騒いでいる女子たちを冷たい目でみた。
実は、この俊宏、ご他聞にもれず、生まれ変わり組のひとりであった。縁の深いものは転生するときも近くに生まれるという…。
前世であれだけかいがいしく、博雅の身の回りの世話をし、常に近くに張り付いて自分の命よりも博雅を大切にしていた男である、近くにも転生しようというものである。
ただ、そのことに気づいたのはこの高校に入学してからのことであった。
入学式の後、自分のクラスの担任として紹介された博雅をみて、この人を自分は知っていると思ったのが最初だった。
ただ、何もかもすべてを思い出したわけではなく、ただ自分はこの人と前世で主従関係にあったことと、とても尊敬していて敬愛していたことをうっすらと覚えているくらいだった。
それだけのことであったので、とりたてて誰に言うでもなくそのまま過ごしてきたのだった…この前までは…。
 
先日のことだった。
授業が始まってから教科書を部室に忘れてきたことに気づいた俊宏は、教科の担任の許可をもらって校舎の外を部室へと急いでいた。
校舎の角を曲がろうとしたところで人影が目に入った。校舎の影で重なり合うように立っている人影がふたつ。
(わっ!やべえ!)
ぱっと見ただけで分かる、あきらかにキスシーンの真っ最中である。
(誰だよ!こんなとこで!?)
部室へはここを通らないといくことが出来ない。やめてくれよなあと思いながら校舎横の植え込みの影から一体誰だと、そっとうかがう。
びっくりして、思わず声を上げそうになってしまった。
(み、源元せんせいぃ〜!?)
しかも、キスしている側ではなく、校舎に背を押し付けられているところからもあきらかにキスされている側だ。
(うそだろ?おいおい!)
びっくりしすぎて目が離せなくなってしまった。
と、二人の顔が離れた。相手の背の高いほうは俊宏に背を向けているので、顔は見えなかった。だが、どうみたって男だ。
(俺、もしかして、とんでもなくやばいもの見てるんじゃないか…?)
まさか、源元先生がそっちのほうだとは知らなかった…。でも、個人の自由だしな、などと、博雅側につい、考えてしまう俊宏。
相手の男が未練がましく、もう一度軽くキスしている、それから、源元先生の唇に親指をあててぬれた唇をぬぐっている。ぼーっとなってされるがままの博雅。
(まいったなあ、とにかく早くどいてくれないかなあ)
と、相手の男の顔が見えた。
(あっ!あのやろう!またしても!!)
とたんによみがえる記憶。ついでに怒りも蘇った…。
 
女子の騒いでいる源元先生の相手はあいつだと知っている俊宏。あの、冷たい目をした美貌の陰陽師…。
(なんだか面白くねえ…。)
別に博雅を恋愛対象にしているわけではないが、あいつだきゃあ許せねえと思う俊宏であった。

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