「続・都一のヨキオトコ」
「お、おぬしなあ…」
なんとか意識のはっきりした博雅、恨めしげに晴明を見上げて言った。
「なんですか?」
後から抱くように博雅の体を支えた晴明がまるで何事もなかったかのように答える。
「なんですかじゃないだろう…まったく…」
はあ、と息を吐いて博雅は起き上がった。はずみで、肩からするりと衣が滑り落ちた。それをあわてて引き上げると、後ろにいる晴明をキッと睨む。
「なにもこんなところで…」
そこまで言って博雅の顔がボッと真っ赤に染まる。そこから先の言葉が恥ずかしくて続かない。
「ヤッちゃいけませんでした?」
代わりに晴明が続けた。
「ヤ、ヤヤヤ…!」
さらに博雅の顔がボボボッと赤くなる。
「ヤる、ですよ。どもっちゃうなんて可愛いですねえ」
くすっと笑う晴明。
「そ、そ、そのように品のない言い方で何回も言うなっっ!」
「品のないのは、いたし方ございませぬよ。なにしろ私は地下の出ですからね。そこへゆくと、あなたはあの時の声ですら品がおありになる。」
その言葉に博雅が硬直する。どうやら、アノ時に自分がどのような声を上げていたのか思い出したらしい。
「お、お俺俺俺…」
「品のよいお声で啼かれておられましたよ。ちょっと大音量でしたけれどね」
「うげ。」
「きっと、都中に聞こえたぞ…」
そうに決まってる、ああ、どうしよう、と頭を抱える博雅。
「なんです、博雅どのはそんなことを気にしておられるのか?都中にあなたの声が響いていたとしても、私は一向にかまいませぬよ」
「俺がかまうっ!」
ああっ!恥ずかしいっ!と、博雅は声を上げて両手で顔を覆った。
「そんな風に恥ずかしがるあなたも、とても素敵ですよ、…博雅」
後から晴明の腕が回されてその耳元に低い声が甘く響く。思わず背中がぞくっと粟立った。その下半身に直結するようなざわめきを振り払って、博雅は晴明の腕の中から転げるように逃れ出た。その弾みに単の前がはだけて、あらぬところまで危うくさらされそうになる。
「わわっっ!」
あわてて単の前をかきあわせた。
「だ、だっ大体、な、なんで俺がこっち側なんだ?」
散々弄られた後で言う話でもないのだが、考えてみればいつこの立場が決まったというのか。
「一通り終わった後で聞くことですか?」
いまさら何を、と晴明が笑う。
「おぬしの勢いについ浚われたが、お、俺はれっきとした男で」
「私だってそうですけど」
言いながら晴明の白く長い指が、博雅の単の袖をツイと引く。
「…ぐっ!で、でもっ!おぬしの方が綺麗でどっちかっていうと…」
晴明に引っ張られて、またしてもずり落ちかけた単の袷を、まるで生娘のように頬を染めて、きゅきゅっとキッチリ掛け合わせて引っ張り返す。
「いいえ、私などより博雅、あなたのほうがずっとずっと可愛い…それにあなたのこの体は愛つくしまれるためのもの、まさにその為に作られた天からの賜りものですよ。まあ、この際、それはすなわち私のためのもの、ということになりますが。」
博雅の言葉をさえぎってそういうと、掴んだ博雅の袖を、今度は力を込めてぐいと引っ張った。
「うわ!」
袷にかかっていた腕を引かれたために、せっかく隠した胸元が返って前より大きく開いてしまった。バランスを失って晴明の腕の中に倒れこむ博雅の、肌蹴られて露になった胸に晴明はするっと手を滑らせた。
白い手がさわさわと博雅の肌を這い、行き当たった小さな突起を捻る。先ほどまで散々愛されていたその体は必要以上に敏感で、博雅の口から思わず「あっ」と声が漏れる。
「それにあなたが言ったのですよ、自分は私のものだと。」
「そ、そうは言ったが…、うは…」
もう一度、晴明の手からあたふたと逃れようとする博雅を、逃がすまいとしっかり捕まえて
「だから、どちらが手綱をとるのか…おのずとわかるというものでしょう?」
脇の下から差し込んだ手が博雅の両の乳首をくりくりと転がす
「やっ…は…っ…た、手綱って…俺は、はっ…う、馬じゃないぞ」
「クク…本当に面白いことを言われるおひとだ。でもこんなに可愛い馬には会ったことがありませんね」
そう言って晴明は博雅のうなじに鼻をうずめた。
「お、俺はぜんっぜん、面白くない!と、とにかく、いつまでもこんなところにいるわけにはいかない。離せっ!」
すぐ傍に脱ぎ散らかされた衣に必死で手を伸ばす。
「ああ、そのままで。どうせ、またすぐに脱いでいただくのですから。」
博雅のうなじに鼻をこすりつけながら晴明が言った。
「は???」
衣に伸ばした手が止まった。
「やっと、あなたを手に入れたのに、たった一度で済む…なんて思います?」
驚いて目が点になっている博雅の頬に、ちゅ、と小さく口づけると
「せっかくですから、もう少しいちゃいちゃしましょう」
そういって晴明はに〜っこりと笑ったのだった。
「あっ…やっ…」
晴明の屋敷の奥から時折漏れ聞こえる艶めく声。その声の主はさっきまでジタバタと最後の抵抗をしていた近衛府中将である。
灯火の明かりに照らされてふわりとはためく几帳に、睦みあう二人の影がゆらゆらと映る。
「やだ…やめろって…」
「でもあなたのここは嫌がってなどおりませぬよ…」
博雅の熱く猛る熱茎をそろりとなであげて晴明は楽しげに言った。恥ずかしがって閉じようとする博雅のひざ裏に手をいれて脚を折り曲げると、ぐいと押し開く。
「わっ!なにをする…あっ!」
晴明の紅い唇が博雅のものをゆっくりとその中に誘い込んだ。熱い晴明の舌が博雅のそれに添わされてその形を確かめるようにゆるゆると上下する。抵抗むなしく広げられたままの博雅の内腿にじわりと汗が浮かぶ。
「は…っ…ん…っ…」
眉間に深い皺を刻んで博雅は頭を仰け反らせた。食いしばったその唇から止められない吐息が漏れる。
小刻みに震える手が、自分のものをその口で愛撫する晴明の頭に触れ、そのさらりとした色の薄い髪を掴んだ。
「あ…あ…」
たまらぬ刺激に、思わずうっすらと目を開けて博雅は晴明を見下ろした。
博雅が見ていることに感づいた晴明が、視線を上げて博雅の目と目を合わせた。見ろと言わんばかりに晴明はわざと大きな濡れ音を立てて博雅のものを嬲る。桃色の舌が濃い色に怒張した博雅のそれをごくごくゆっくりと舐めあげる。その刺激に先端からつうっと露が溢れる。それをも躊躇なく舐めとる晴明。思わず博雅は半分開けていた目をぎゅっと閉じた。
…あまりにも淫らで直視することができなかった。
髪を掴んだ博雅の手をゆっくりと外させると、晴明は博雅自身の根元に導いた。震えて固まる指を開いてそこに回させる。
「握って…博雅」
一度、博雅のものから唇を外してそう言うと、晴明は再び博雅のものをその口内へと収め、愛撫を再開した。
晴明の舌がまるで口づけをする時のように丹念に博雅のものに絡みつく。腰から下がまるで暖められた蜜蝋のようにとろとろに溶けてゆく。晴明に言われるままに自身をぎゅっと握りしめて、博雅は今にも沸点に達しようとしていた。
ああ、もう…。
博雅がぼうっとした意識の中でそう思った時だった。まだ、柔らかく解けたままだった博雅の後孔に、硬い指が潜り込んだ。
「あっ!」
思わず声が上がる。体もそれに付いて動こうとしたが、膝裏を押さえた晴明の手がそれを許さない。
「あ…あぁ…っ…」
くちゅくちゅと、先ほど受けた晴明の精を滴らせながら博雅のそこが淫らに音を立てる。
前と後を同時に慰撫されるなど初めてのこと、その逃れようのない初めての快感に自身を握り締めた手がふるふると震えた。
「こんなに熱くて硬い…素敵ですよ、博雅」
晴明が、博雅の手に手を被せてゆっくりと上下に動かす。
己の手の中で燃えるように熱い自分、溢れる露。
いつのまにか複数に増やされた晴明の指が、器用に博雅の中の敏感な場所を見つけてそこを突く。
「う…っ…ああっ!」
握り締めた熱茎に電流のように伝播する快感の波。
耐え切れなくなった博雅が登りつめ、ついにその鳥羽口から白濁の熱が開放された。
「あ…あ…あ…」
絹の衣の海の中で大きく体を開いて、おこりのように震える博雅。
かつて抱いた源融のような華奢な体でも、可憐なつくりの顔でもない。色の濃い肌は程よく鍛えられて、どこを触れても女のような柔らかさはない。それでも、その肌は誰よりも肌理細かく、弾けるような艶を放つ。
晴明の愛撫に仰け反る首筋にはくっきりと腱が浮き出、華奢ではない鋭角な顎の線が汗を滴らせる。どちらかといえば男らしさを感じさせるはずが、今の博雅はどんな女よりも色を放ち晴明を煽る。
眉間に苦しそうにも見える皺をよせて吐精の余韻に耐える博雅。
薄く開いたその博雅の唇に、晴明は己の唇を重ねて舌を絡ませる。動けぬようにその顔を押さえつけて角度を変え、深度を変え、博雅の咥内を蹂躙してゆく。
「ん…ふ…」
博雅の鼻から熱い息が漏れる。
口付けながら晴明は博雅の後孔から指を引き抜く。そして、トロトロに溶けた博雅のそこに再び怒張した自分のものをずくりと潜り込ませた。
初めての時とは違って既に晴明のものを受け入れた覚えのあるそこは、何の抵抗もなく晴明を飲み込んでゆく。
「つ…あ…っ」
晴明の唇を振り切って博雅が大きく声を上げる。そのあごを晴明の手がしっかりと捕まえて外された唇を再び捉え、博雅の声を飲み込んでゆく。牛車の中では声を上げることを止めはしなかったくせに今の博雅には声を上げることも、息をさせることも許さない。
「んっ…んっ…ん…」
容赦なく突き上げる晴明のものに、声を上げてその逃げ道を作ることも許されず、耐え切れぬ快感が博雅の体の中を駆け巡る。
逃げ場をなくした熱が、貴族らしさを感じさせる秀でた博雅の額に汗が浮かせ、つややかな黒髪を濡らさせる。
元結を解かれた博雅の髪が香りを放つ。融のなまめかしい華の香りとも、女房たちのむせ返るような香の匂いとも違う、博雅だけが放つことのできる香り。
涼やかな花橘。
汗に濡れて晴明に揺らされる淫らな姿態とは、あまりにも対照的な爽やかな香り。
清純なくせに妖艶。
「あなたは凄い…」
わずかに唇を離して晴明は囁いた。
誰が博雅の今のこのような姿を想像できるだろうか。浅紫の三位の束帯を襟元まできっちりとまじめに着こなす博雅が、それをその身から取り去ったとき、普段からは想像もできないほどその体が色めき艶めくか。
…もちろん誰にも教えるつもりなどないが。
そして、さらに大事なことがもうひとつ。
融のような、ただひたすら己の欲を追うような自分勝手な官能とは違う。博雅のその体のすべてが自分、晴明を愛おしいと叫んでいるのがわかる。
「気のせいではありませぬよね…」
揺られて乱れる博雅の髪を掻き揚げて、晴明はその濡れた瞳をじっと見つめて言った。
「な、なに…?」
ぼうっとした瞳で博雅が掠れた声で答える。ほんのりと上気した頬に、口づけられてふっくらと濡れて膨らんだ唇。
誰とも縁を望んだことのない自分が心の底から望んだひと。
そのひとが、今、自分の腕の中で溺れている。
「なんでもありませぬ…。ただ、言っておきますよ。もう、あなたは私のもの…誰にも渡しはしませぬ。お覚悟めされよ」
唇の端に小さく笑みを浮かべて晴明は言った。
「ば…か…。わかっておる…それぐらい…」
突き上げる晴明を最奥に感じながら、博雅は途切れそうな意識の中でそう答えた。
「…う…」
低く唸る声に、単に腕を通そうとしていた晴明が、その上半身を博雅のほうに振り向いた。
「なにか仰いましたか?」
「何か…仰った…じゃない…うう…」
晴明のすぐそばにうつ伏せて横たわる男、博雅は不機嫌そうにさらに唸る。
「か、体が動かない…っ…」
「だから、お覚悟なされませと言ったではないですか」
唸る博雅に晴明はくすくすと小さく笑った。
「覚悟ったって、こんな目に合わされる覚悟など…なかった…ぞ…」
ぐったりと力が抜けて動けない博雅は絹の海の中から恨めしそうに晴明を見上げた。形容するならば「激しい」の一言に尽きる晴明との交わりに、いまだ腰から下が熱を持って燃えるようにじんじんと熱い。牛車の中でのことなど、ものの数ではなかったのだ。
「
申し訳ありませぬ。あなたが自分は私のものだと言って下さったので、つい、熱が入ってしまいました。それに、まあ、あるとも思っちゃいませんが、あなたが私以外に目が行かないようにしておきませんとね。」
「確かにおまえだけとは言ったが…こんな目に合わされるのなら考えるぞ…まったく」
つい、ぼそっと口に出た。
「おや」
晴明の片眉がピキッと上がった。
が、はあ、と大きくため息をついて俯いた博雅がそれに気づくはずもなく。
「…念を押しておきますか」
そう言って、にっこりと紅い唇に(怖い)笑みを乗せて晴明は博雅に手を伸ばした。力の抜け切った博雅の両腿の間に手を滑り込ませると下から掬い上げるようにして大切なところを握る。
「あっ…っ…」
いまだ熱を持ったままのそれをゆるりと握りこまれて博雅の体がビクンッ!と大きく波打つ。
「な、なにを…」
晴明の手から逃れようとしてつい、腰が上向くように持ち上がる。
「やめ…う…」
散々に弄られてただでさえ敏感になったいるそれを、筒にした晴明の手がやわやわと上下する。その手からツイと人差し指だけが伸びて、その頂にある小さな窪みをきゅっと刺激した。
じゅわと透明な蜜が溢れ、思わず博雅の声が途切れる。
「私以外にこんな反応しちゃいけませぬよ、博雅どの。あなたのこのような姿を見るものがほかにいては困ります。」
「だから…いないって…ううっ…」
目じりに涙を浮かべて言うが、もちろんそんな博雅の言葉なんて聞いちゃいないわが道をゆく冷徹な恋人。
「私のほかに誰も考えられなくなるまで念には念をいれませんと。徹底的にね」
そういうと我知らず持ち上がった博雅の双丘の中央に濡れる秘座に、空いているほうの手の指をくぷっと突き刺した。
「あ…ふ…っ…」
博雅の体が晴明の指に即座に反応する。晴明の指を飲み込んでひくひくと引き付けるように博雅のそこが蠢く。もう片手に握られた博雅のものがドクンとその嵩を増した。
「あなたは敏感に過ぎます。こんなに即答する体だなんて私以外に決して知られてはなりませぬ。」
「ああ…あ…」
前後を同時に嬲られて、敷かれてくしゃくしゃになった衣をぎゅうっと握り締めて再び襲い来る官能の波に耐える博雅。晴明の声だけがまるで呪文のように博雅の耳に入ってくる。
もうすべて絞りつくされて、何も出るものはないはずなのに精を放つ感覚が下腹部を襲う。
「くう…っ!」
唇をかみ締めた博雅が小刻みに震える。
「どうです?博雅さま。私以外要りますか?」
背中にぴたりと体を沿わせた晴明が博雅の耳元で囁く。差し込まれた指が博雅の双丘の間をゆっくりと往復する。
「う…っ…お、おまえ…だけで…っていうか…殺す気かっ!」
博雅が体を捻ってすぐうしろの晴明を涙目で睨みつける。
「これ以上は…ムリだ…!」
「ふむ…。」
訴える博雅に小首を傾げる晴明。が、にこりと笑むと
「まだ、大丈夫ですよ」
と、言った。
「は??」
な、なんで、俺の代わりにおまえが答えるんだっ!っと、ツッコミたいが、愛撫を続ける晴明の手に意識がとられて博雅は考えがまとまらない。
「な…あっ…なんでおまえが…っ…」
背中を晴明の舌が這う。それに反応して博雅の腰がまた一段上向く。
そんな様子に晴明の目が細められる。
「申し訳ありませぬ…でも、こうしてあなたが私を煽るのですから、しょうがないではないですか」
ククッと含んだ笑いを洩らすと、一応これで終わりにしておきますよ、今回のところはね、そういって晴明は博雅の腰を抱えなおした。
「あ、煽ってなんかいないっ!やめっ…!」
単を羽織っただけの晴明の体がゆっくりと博雅の背に重なる。疲れを知らぬ晴明のものが指に代わって博雅の双丘を割って…。
「はあっ…あっ…ああぁ…」
埋め込まれるそれに博雅の唇から熱を帯びた声が上がる。
「ね。大丈夫でしょう?」
震える博雅の肩にくちづけを落として晴明はくすくすと笑った。
都一の悦きオトコは、これもまた、ある意味「都一のヨキオトコ」を手に入れて、実はひどくご満悦なのだった。
…手に入れられた方はともかくとして。
「な、なにが…か、覚悟だっ…!!せ、晴明のばかっ!ああっ…!!」
都の夜空にヨキオトコの罵声が響く。
…とりあえず終わり。すいません、だらだらエッチで…(汗)