「続・春の檻」
「笛も夜歩きもできぬように私が呪をかけて進ぜましょう」
「呪だって?そ、そんなものかけてなぞいらぬ!」
呪と聞いて慌てふためく博雅。そんなもの掛けられて大事な笛も吹けぬようになったら大変である。掴まれた手を振り払って博雅は首を振った。
「あなたのように不用意にふらふらする輩にはそれぐらい当然です」
「な、何を言うか、晴明!って、ちょ、ちょっと、ま、待て!わあ!」
抵抗むなしく博雅の三位は、ずるずると、かの陰陽師の屋敷の奥へと引きずられていった。
「あ、あの、せ、晴明?」
屋敷の奥で晴明に組み敷かれ、両の手をその晴明の手でしっかりと床に繋ぎとめられた博雅、真上に見える晴明の綺麗な顔を不覚にも見上げる羽目と相成った。
「こ、これは?」
なんだか非常にまずい立場の気がする博雅、見上げた晴明にそうっと聞く。
「前にもして差し上げたことがあったでしょう?これは身固めの呪と言います。悪しきものから身を護る呪ですよ。」
「呪?」
これがか??
「私が身をもって自然の精からあなたさまを護って差し上げます。…それこそ足腰立ちませぬようにね」
言いながら、晴明の手が、さわり、と博雅のわき腹を撫で下ろす。
「う、うわ…」
足腰立たないように、って、それは普通、こちらに害なすモノに向って言うセリフではないか?い、今のは明らかに違ったゾ!
博雅の頬から、ボン!と火が吹いた。
「じゅ、じゅ、呪って、それは、け、結局、ナニをナニするアレではないのかっ!」
「ナニナニアレアレ言われても、なんのことだか意味がさっぱりわかりませんね。私はあなたに呪をかけ、妖しのようなものどもからあなたを護るだけ。…身体を繋いでね」
「や、やっぱり、そういう意味じゃないか!」
真っ赤になって、じたばたと抗議する博雅に向かって、晴明は実に余裕でニッと微笑んだ。が、それから、すぐに怖い表情に変えて続けた。
「あなたは春の精とウキウキ笛なぞ吹いて、のん気に過ごしておられたのでしょうが、その間、こちらは大変な騒ぎだったのですよ。知っているでしょう?」
言われて博雅、思わず言葉に詰まる。
「う。まあ…な」
罰の悪い顔をして、博雅は見下ろしてくる晴明から視線を逸らせた。
なんとか宵春の造りのところを逃げ出して都に戻ってみれば、季節はもうすっかり初夏へと変わっていて、帰り着いた屋敷では博雅がふいに現れたことで大騒ぎになったのを思い返す。
聞いたところによると、たったひとり、ついてきた供は、たった数歩離れて歩く博雅が、まるで煙かかすみのように目の前で消えて心底仰天してしまったという。(それはそうだろう)
慌てた供のものは、博雅がそうしたように必死に主人の姿を探し回った。が、どこを探しても主人の博雅の姿はない。これは、一大事!きっと鬼か妖しに浚われたのに違いないと(それはみごと当たっていたのだ)、供は山を転げるように駆け下りた。
そして、それを聞いた家人の俊宏は、大勢の人間を出して博雅を見つけるべく、大規模な山狩りに及んだのだった。が、山の中を総出で探しても、博雅の姿は杳として見つからない。
やはり、博雅は化け物に浚われたのだろうかと、皆が思い始めたころ、誰かが、何者かが食い荒らした後の骨が散らばっているのを見つけた。探している博雅が見つからず、代わりに骨が見つかったのだ。
誰もが、それを博雅の残骸だと思い込んでしまうのは、当然といえば当然の成り行きであった。
よく見れば、その骨は博雅にしては小さすぎるし、そんなに新しくもなかったのだが、必死な俊宏ら家人がその違いが気づくはずもない。
皆は博雅が死んでしまったと思い込んで、悲愴な顔をしてその骨の欠片を大事に拾って帰ってきたのだ。
博雅が姿を消して幾日もが過ぎた日のことであった。
「あなたの葬儀の日まで、もう決まっていたのですよ」
「それは…」
「それもお聞きになったはずです。」
…確かに聞いた。
「う。」
博雅はますます言葉に詰まった。晴明の言うとおり、屋敷では、明日にも博雅の葬式を出すべく準備が整えられていたのだった。そんなところにひょっこり帰ってきた博雅。
「おい、今日は何かあるのか?ずいぶん騒がしいようだが?」
ばたばたと門を行きかう雑色のひとりを捕まえて聞いた。
「はあ、近々ここのお殿さまのご葬儀が行われることになっておりまして、ただ今はその準備などで忙しくしております」
どうやら、その手伝いのため新しく雇われたらしい雑色、主人である博雅の顔を知らないらしく、そう答えた。
「ここの殿って…俺じゃないか…うむむ」
門に一歩足を踏み入れたまま、博雅は思いの外大変なことになっていることに、頭を抱えたのであった。
その後の騒ぎは前出したとおりである。
「お、おぬしも俺が死んだと思っていたのか…?」
恐る恐る博雅が聞く。
「あのこ汚い骨の欠片を見て私がそう思ったと思いますか?」
晴明の片眉が、何を言っているのです、あなたは、と言わんばかりにクイとはね上がる。
「思うわけがないでしょう?私の恋人はひとであって、犬畜生ではありませぬからね」
「い、犬?」
「あの骨はたぶん犬か、もしくは猪あたりのものでしょう。なにはともあれ、あなたの骨とは似ても似つきませぬ。」
「俺の骨って」
そんなの区別がつくのか、と博雅が聞こうとした時。
「この骨ですよ。」
博雅の水干の蜻蛉を外して襟を開くと、晴明はきれいに浮き出たその鎖骨にカリ…と歯を当てた。思わず博雅から小さく声が上がる。
「あっ!こ、これ何を…」
「とても綺麗な骨です。」
噛んで小さく跡のついたそこに愛しげに舌を這わせると
「たとえ、あなたが骨だけになろうと、これを違えようはずございませぬ。」
そう博雅の耳元に囁き、ついで胸の合わせを大きく開く。水干の下の単衣までが大きく肌蹴られた。
緑が芽吹いた季節とはいえ屋内はまだ肌寒さも感じられる頃、肌蹴られた博雅の胸に粟肌が立ち、その胸の蕾がきゅいと窄まる。
「せ、晴明…」
「この骨もこの骨も、すべて私のものだ、…違えようはずがない」
脇にわずかに浮き出るあばらの骨をひとつづつなぞりながら、晴明は独り言のように小さく言った。
「もちろん、いくら可愛くて愛しかろうが、骨だけでは愛しみあうことなどできませんがね。」
今度はもう少しはっきりと、組み敷いたままの博雅に向かって言う。
「晴明…」
肌が粟立つのは外気のゆえだけではない。晴明に、射抜くようにまっすぐ見つめられて、博雅の体から力が抜ける。
「もし、あなたが誰かに身も心も奪われることがあったならば、私があなたを骨だけにしてさしあげましょう」
この、いつもはありえないほど冷静な男が、本気で自分を心配し、怒っていたことにようよう気づいた博雅、
「そうだな…俺のすべては…そう…骨までもおぬしのものだ。…心配させて悪かった」
独占欲の強い恋人の首に手をかけて引き寄せると、困ったように笑って自ら唇を重ねた。
「あ!…や…ああっ…ふ、深い…っ!」
大きく広げられた博雅の下肢の間を、晴明の腰が大きな音を立てて打ち付けられる。奥深くを激しく突き上げられて博雅が悲鳴にも似た声を上げた。
奥の閨に引きずり込まれて、もうどれぐらいの時が立っただろうか。
博雅の頭の芯が痺れるほどに口づけた晴明、それだけでは収まらず博雅の体中の骨をひとつづつ数え上げながら、そこもまた晴明は唇を這わせた。優しく、時には荒っぽく啄ばまれ、博雅の身体はどんどんと熱を上げていった。
その熱の故か…身体からある香りが立ち上った。
口に含んだ博雅のものから離れて、晴明が顔を上げた。その美しい眉間に険しい溝が刻まれる。
「…嫌な匂いだ」
「え?…な、なに…」
朦朧とした頭を上げて博雅が問う。体中を口づけられ、さらに男の証を散々にいたぶられて、ジンジンと痛いほどに身体が熱い。
晴明の口淫で濡れそぼったものがビクビクと動悸を打ち、更なる愛撫を求めている。そんな博雅、晴明が何を言っているのかよくわからない。今は一刻も早くその先を行きたいのに、なぜ晴明が唇を外してしまったのか、頭の中にはそれしかなかった。
「晴明…離しては嫌だ…もっと…」
晴明の肩を掴み懇願する。が、晴明はそれに取り合わない。
「あいつ、あなたに何をしました?」
「な…なに…って…?」
ようやく晴明に焦点があった。更に愛撫を乞った自分が恥ずかしくなって、博雅は晴明の肩から手を外した。その手を掴み返して、晴明がもう一度尋ねた。
「春の精に何かされましたか?」
「な、なにも…」
腿の内側にじわりと汗が浮く。ふるふるとその身を震わせながら博雅は首を振った。
「言え。博雅。」
晴明は怖い顔をして言った。
「なにも…なにもされてない。」
さらに博雅は首を振った。
「本当に?」
「ほ、本当だ…、ただ、酒を飲んで笛を吹いて…それだけだ…」
焦点を必死に晴明に合わせて博雅は答えた。本当に何もなかったのだ。…誘われはしたけれど。
「酒?」
晴明の目が細められる。
「何の酒です?」
「なんのって…桜の酒とか…言っていた…けど。それを毎晩飲んで…笛を吹いた…本当にそれだけだ…」
「なるほど。」
「な、なに…?」
「本当に取り込まれかけていたのですね」
「え?」
「体中から桜の匂いがぷんぷんですよ。…ったく」
そう言うや博雅の足首を掴んで大きく押し広げた。
「やっ!な、なにをする!」
愛撫でぼうっとしていた博雅だったが、これには驚き思わず声を上げる。
「あのままそこにいたなら、あなたはとっくに桜の精だ。」
「せ、晴明っ!やめろっ!」
つい今しがたまで晴明によって弄られていた玉茎が天を向いて屹立する、博雅は頬を染めて声を上げた。
「あなたは人として余りにも美しすぎる」
「な、何を?お、俺は綺麗なんかじゃない!」
「顔の造作や、身体のことではありませぬ。あなたは、人としてあまりにも無垢な心をお持ちだ。それが、春の精などという人ならぬものを手繰り寄せるのです」
そう言うや、晴明は博雅の濡れそぼるそれを手のひらに握り締めた。
「あっ!」
既に熱く燃えているそこを晴明の手に収められて博雅の背が反る。
「やめ…」
晴明の指が輪を作り、博雅のそれを上下に往復する。指が上に摺り上げられるたび、博雅の天頂からぷくぷくと蜜が溢れ、晴明の手を濡らしてゆく。
「あなたは天部の神でも自然の精でもない人の子。これがその証拠」
言うや、博雅の秘孔にぴたりと熱を持った硬いものが押し当てられた。晴明のものである。
「やあ…っ…せ…っ!」
震える体を捩って逃げようとする博雅。が、晴明がそれを逃がすわけもない。
「もっと人らしくして差し上げましょう。私の元から逃げてしまいませぬように」
熱く硬く滾る晴明のものが博雅の秘孔を貫いた。
「あああっ!」
背を大きくしならせて博雅が大きく声を上げた。
激しく肌を打つ音が閨に響く。その音に混じって博雅の泣く声が混ざる。
熱を帯びた室内に篭るむせ返りそうな花の匂い。
桜の匂いである。
「いや…あ…ああっ!」
深く深く晴明のものが博雅の秘められた孔を抉る。頬を濡らして首を打ち振る博雅。
「ふ、深いっ!い、嫌だっ!」
まだ体を合わせて日も浅い博雅、自分でも知らぬ体の奥を抉られて悲鳴を上げる。
「せ、晴明っ!」
涙で潤む瞳で自分に重なる晴明を見上げた。
「大丈夫、何も怖いことなどありませぬ。すべて私にお任せください。ほら、力を抜いて」
やさしく博雅の強張った内腿を撫でる。
「深いのが怖いと言うなら、では、ここならいかがです?」
グイと中に収められたものの角度を変えて晴明は聞いた。
「あっ…!」
晴明のそれが博雅の中のある一点を押し上げた。背中を何かが駆け上がる。萎え始めた博雅のそれにも雷(いかずち)のごときものが走る。
「あああっ!」
体を反らせて悲鳴のように声を上げる博雅。
晴明のものが博雅が自分では知りようはすもない体の内に秘められた愉悦の種を突く。そこから体の芯を走る激しい衝撃。
「アア…ッ…あ…ぁ…ア…」
焦点を失った目で天井を見上げた博雅の唇から間段なく愉悦の嬌声が上がりつづけた。
と。
ぽん。
ぽぽん。
ぽぽぽん。
なんと博雅の体の回りに桜の花が浮かんだ。まるで手妻のように花が宙に浮いて現れたのだ。
ほとんど忘我の境に至ってそんな周りの状況にも気がつかない博雅の体を抱いた晴明の唇に、なんとも苦い笑みが浮かぶ。
「いくらか予想はしていたが…」
まったくもってこの一番忙しい時に、と少し文句を言った晴明、博雅を突く腰の動きを止めもせず呪を口にした。
そして、博雅のものから零れる蜜をその指先に少し取ると
「悪いな、宵春の造りとやら。この男を春の手先にするつもりはないぞ」
そう言って指先に乗せた博雅の蜜をフッと吹き飛ばした。
二人の周りに浮かんでいた小さな桜の花たちがいっせいに弾き飛び、沢山の花びらが花吹雪となって舞う。
「ほら。間違いなく人間だろう?」
花たちが散って幻のように消えてゆくのを眺めながら、晴明はニヤと笑った。
「はあ…」
博雅がぐったりとしたため息をついた。
ここは晴明の屋敷の奥である。晴明が今宵の閨に選んだ塗りこめと言われる入り口がひとつ開いているだけのこの部屋に今は桜の花の匂いはかけらもない。
あるのは愛しみあったあとに残る汗とむせ返るような隠微な香り。
「死ぬかと思った…」
「何を大げさな」
うつぶせたまま大きなため息とともに博雅の言った言葉に晴明が微笑った。
「大げさなものか。おぬしの、ぁ、ぁれ…が変なところに当たってそこから先がよくわからなくなったんだぞ。」
顔を伏したまま博雅が肝心なところは小さな声になって文句を言った。その耳が赤い。
「気が飛ぶほどよろしかったと?」
クスリとさらに笑って晴明が言う。
「…ち、違う」
「違う?ま、違うと博雅さまがおっしゃるのならそうなんでしょう。」
「違うに決まってる。…それよりそのよくわからなくなっているときに妙なものを見た気がするんだが」
真っ赤な耳のまま、ひじだけ突いてうつぶせていた顔を博雅は上げた。解けて乱れた髪がはらりと顔に落ちかかる。
「妙なもの?」
落ちてくる髪をうるさそうに掻き揚げる博雅を見つめて晴明が興味なさそうに聞く。その手が博雅の髪に伸ばされる。
「何です?妙なものって?」
言いながら手とともにその顔を寄せて髪を掻き揚げた博雅の耳元に低い声でささやく。
「耳が真っ赤ですよ。」
そう囁いて博雅の耳をぱくりと銜えた。
「こ、これっ!」
びっくりして博雅が体を避ける。その晴明の方に向けられた顔を逃さず捕まえて晴明は博雅の唇を捕らえる。
「んむっ…!って!待て待て…じゃない、やめろ!お、俺はなにか妙なものを見たのが何だったのか聞きたいのだ!」
晴明の顔を手のひらでグイと押しのけて博雅があわてふためく。
「妙なものってただの花ですよ」
それよりこの無粋な手をお除けなさい、と晴明。
「は、花?」
晴明の手を避けつつ博雅は周りを見渡す。床には花びらの一枚さえない。それより二人が脱ぎ散らかした衣がいかにもという感じで散乱しているだけだ。
「は、花などあるわけがないではないか。せ、晴明、お、おぬし、適当なことを言うな」
衣が床に、ということは必然的に二人は裸ということで。改めてそれに気づいた博雅、迫りくる晴明の裸の胸から目が離せない。
「ありましたよ、さっきまでね」
どうやら今の状況に気づいたらしい博雅を面白がりながら晴明はますます博雅の体に体重をかけてゆく。
「さ、さっきまで?」
ぐぐぐ、と倒されつつ博雅は聞く。このままでは亀のごとくひっくり返されて仰向けになる!
でも花ってなんだ?聞きたい!
「あなた、春の精のところで酒を飲んだっていったでしょう?」
「あ、ああ。い、いかにも。」
晴明の顔が近い。力が…抜ける。
「それは桜の酒。濃縮して熟成された「春」そのものですよ。毎晩調子に乗ってそれを飲み続けたあなたの体にはその「春」がどんどんと染み込んでいっていたのです。」
裸の晴明の硬い胸が博雅の乳首を擦る。
「ん…っ…さ、酒が染み込む…だって?」
「なにより人の造ったものではありませんからね。桜の木さえも酔わすのですから人の体にぐらい簡単に染み込みますよ」
晴明の低い声が響く。吐く息が甘く香る。
「だ、だがその酒と花と何の関係が…」
「染み込んだ酒はやがて血に代わって、桜の樹液となってあなたのからだの中を流れ始めます。そうればあなたはもはや人間ではない。生ける桜、つまり桜の精です。あなたは春そのもの、桜の精になりかけていたのです。しかも一年中満開の桜にね」
「さ、桜?お、俺がか?」
「まあ、確かに似合うとは思いますけどね。あなたは春の桜のように優しく華やかで清いですから、春の精の目は確かだと言えます。」
でも、それでは私が困るのですよ、と晴明は笑って博雅の髪のようにゆるく解けてはいるが頭とは遠く離れた別の場所に指を伸ばした。
つぷり、指がそこへ潜り込む。
「あ!…ば、ばか…っ…んんっ!」
博雅がさっき自分で言った変なところを晴明の長い指先がそっと押す。博雅は過敏になった体をぴくっと跳ねて唇を噛んだ。晴明の指がこぷこぷと音を立てて博雅のそこを擦る。
「うう…ん…っ…」
ぎゅっと目をつぶって博雅はその動きに体を震わせた。
「せっかく手にしたあなたをむざむざ春の精ごときに奪われたくはありませぬからね。ですから、綺麗に咲いたあなたの花は私が散らせていただきました。」
それがあなたが見たという花なのです、そういって晴明は博雅の体の中に入れていた指を抜いた。その指先にトロリ…と先ほどまでに交わした名残が付いてくる。
「春は季節の始まり。春の精はきっと若い姿をしていたでしょう?」
指先のそれを見つめたまま晴明は聞いた。
「あ、ああ…た、確かに…」
晴明の指が抜かれたそこがひくひくとひきつれる。ことが終わって萎えていたはずのものがジンジンと熱い。
震えるまぶたをうっすらと開けて博雅が答えた。
「ふふ…だから知らないのですね。」
「な、何を…?」
晴明の顔が、綺麗な瞳が迫る。裸の胸と胸が合わさる。
ああ…そしてまたあの場所を晴明のものが…。
頭の中がこれからのことでいっぱいになる博雅。だから、博雅には晴明の最後の一言が聞こえなかったのだ。
「桜は咲かすより散らすほうが楽しいに決まっているではありませんか」
桜の精より都一の陰陽師のほうが一枚上なのでした。(何が?)
ちょいやばにもどります