咲也の報復(3)



三度分の精を放った博雅のそれが自らの精に濡れてつややかに光っている。紐が食い込んでいたところが痛々しく赤く跡になっていた。
両手を拘束されて自由の利かない博雅の体を眺めおろしながら晴明が自分の身に着けているものを一枚づつ落としていった。
博雅はそれを息を呑む思いで見つめていた。
薄暗い中でもわかる晴明の美貌。
着ていたニットのセーターを頭から脱ぐ晴明、服に引っ張られて乱れた髪がその美しい顔をいつも以上に妖艶に見せている。
服を脱ぎ去ったその身はほの白く闇に浮き上がって見えているが、細身でも決して華奢ではなく大人の男のしっかりとした体格。自分がどう見えているかなどまったく無頓着な晴明。乱れた髪を掻き揚げながら博雅の傍らにゆきベッドに腰を下ろした。

にっこりと笑う晴明。
体をかがめて博雅の額にくちづける。そして手を博雅の後頭部に回すとくくられてあったハンカチを解く。
ずいぶんと簡単な呪だったようで、とくための呪はたったの一言。
「解。」
はらりとハンカチが落ちた。
どうも、最近、晴明の力が格段に増しているような気がする。       

「やはり博雅の声を聞けないのはさびしいからな。」
そういうと博雅の頬に手をあてた。
「…晴‥明…。」
少しかすれた声で博雅が晴明の名を呼んだ。散々に精を放った後だけに声にも体にも力が入らない。
「口をあけて。」
晴明に静かに言われて素直に博雅がうっすらと口を開いた。
「舌を。」
晴明がさらに言う。
一瞬、ためらった博雅だったが、おずおずとだがその唇からピンク色の舌先をのぞかせた。
晴明が博雅の顔に自分の顔を重ねてゆく。晴明の舌が博雅の差し出した舌を捕らえる、二人の唇が隙間なく合わされてゆく。そのまま自分の唇の中へと博雅の舌を誘う。
「‥ん‥んん‥。」
息すら奪うほどの口づけ。触れることすら適わなかった分を補うように激しい。
「晴明…、手を…ほどいてくれ‥。」
くちづけの合間をぬって博雅が言う。
「いやだね。」
博雅の唇に噛み付くように口づけながら晴明が答える。
「なんで‥?」
息をあえがせて博雅が問う。
「お前を逃がさぬようにするためさ。」
「俺はおまえから逃げたりなどしないぞ、晴明‥。…ん。」
晴明に下唇をかまれてやさしくひっぱられる。
「さて、どうだかな。博雅はすぐ恥ずかしがって隠れたがるからな。」
「そ、そんなことは‥」
「なくはない‥だろ?俺の前ではなにも隠さないでほしいんだよ。‥たとえば、変な呪をかけられたりしたときとか‥な。」
にやりと笑う。
「もしかして‥晴明、おまえ俺が今回のこと隠してたこと、ちょっと怒ってる‥?」
恐る恐る博雅が聞く。聞く前から答えがわかっているような気がした。
「さあて‥。」
一言いうと悪魔のような笑みを見せた。赤い唇が美しいカーブを描いた。
(げげっ!やっぱり怒ってる‥)
こういうときはとりあえず低姿勢に謝っておくに限る。
まるで浮気のばれた夫のような心境の博雅。けっして浮気をしていたわけではないのだが、心情的には近いものがあった。
なにしろ、咲也に裸を見られた上に大事なところを嬲られてもいたのだから。大体、このようなところに紐をかけられたということ自体、それに触れられたという証明でもあった。
博雅の背にぞっと寒気が走る。日ごろクールな晴明がこと、自分に関してだけはとんでもなく嫉妬深いということは、いろんな妖しどもにからかわれなくても充分に知っていることだったから。
「あ、あの‥晴明‥?」
「なんだ、博雅?なにかおれに言うことがあるのか?」
やさしいことばが、なおいっそう怖い。
「今回のことは悪かったとは思う‥でも、でもだよ、あれは俺にはとてもじゃないが太刀打ちできなかったんだ。不可抗力ってやつだったんだよ。」
我ながら言い訳がましいとは思うのだが、でも、それだけは言っておきたかった。
「そんなことは言われなくてもわかっている。俺が怒っているのは、その後だ。‥お前、俺から必死でそのことを隠したな‥。俺はそんなに信用ならないか?」
つつっと指先が博雅の胸の真ん中を下へと滑ってゆく。
「‥うっ‥、そんなことはないっ!誰よりも信用している!」
晴明の指先の動きに思わず体をねじらせる。片ひざをたて、自分のそこを少しでも隠そうとする博雅に晴明の目が不機嫌さを増した。
「なら、なぜそのとき俺に言わなかった?俺は何度も聞いたぞ。」
立てたひざの内側に手を入れてぐいっと開く。
「あっ!‥や‥だって‥恥ずかしかったんだよ!‥あ‥やめ‥。」
三度も精を放ってことのほか敏感になっている博雅のそれに晴明の冷たい指先が絡まる。ぐっと力を入れて握られて博雅が声を上げた。
「…あうっ!」
「ほう、恥ずかしかっただって?」
「だ、だって、あんなものを巻きつけられて。お前に見られたらと思うと‥」
にぎりこまれた自分のものについ意識が飛んでしまいそうになるのを必死でつなぎとめる。
「あんなものって‥これのことか?」
そういうと外れた紐を博雅の目の前にぶら下げた。
「‥!見せるな!そんなものっ!」
真っ赤になって抗議する。
「そんなに見られたくなかったか?」
「‥そうだよっ!頼む。もう捨ててしまってくれ!」
顔を背ける。
「ふ〜ん‥」
博雅の赤くなった顔をじっと見ていた晴明。
少し考えたあと、握りこんだ博雅に再びその紐をくるくると絡ませ始めた。
その感覚に驚いて目を開ける博雅、見れば晴明がまたあの紐を自分のものに巻きつけているではないか。
「晴明っ!なにするんだ!!」
じたばたと抵抗する博雅の足を簡単に押さえ込むと、晴明は実に手際よく紐を結び終えた。
二本の指をそこに当てて短い呪を唱える。呪を唱え終えてふっ、とそれに息を吹きかけた。赤い紐がさらに紅く色を増した。
新たな呪がかかったのだ。
再び目にした情けない己の姿に博雅がうめく。
「なんてことを‥晴明、なんで‥」
つながれた両手をぐっと握り締める。
新たに拘束された博雅のものに手を這わせながら晴明が耳元でささやく。
「俺の前では何事も恥ずかしがったり、隠したりしてはならない…、なぜなら博雅、お前のすべては俺のものだから‥。」
博雅のものを嬲っていた手を離し、そのきれいな唇をあけると紅い舌を出してその指先をぺろりとなめた。その色気があふれる表情に博雅に胸がどくりと高鳴った。
晴明は濡れた指先を目的の場所へとあてがう。博雅の秘められたちいさな蕾。
今日はじめて触れられた。博雅が一人ではどうしても触れる勇気のなかったそこ、でも、本当はどこよりもそこに満たされるものがほしかった。思わず期待で博雅の体が震える。
「その紐は俺が新しく呪をかけた。今度は咲也のようなボケた呪ではないぞ。俺によってイカされなければ絶対取れない呪。もちろん、今度は一人でやるのもだめだ。」
言葉もない博雅。咲也などとは比べようもない晴明の存在感に思わず圧倒されていた。
(やはり…力が増してきている…。)
晴明の陰陽師としての力が知らぬ間に格段に増していた。
と、晴明の指先に力が入った。あっという間に意識がさらわれる。
「これからしばらくはそれをつけてろよ。だが、まずはそれが本当かどうか、その体で知るといい。」
長い中指を博雅のそこへと沈めてゆく。きつくしまった博雅の内壁が晴明の指に絡みつく。ゆっくりと指の抜き差しを始める晴明。
くちゅり、くちゅり‥。
やわらかく解けはじめるとともに隠微な音を立て始める博雅の蕾。
指の数が少しづつ増やされるにしたがって博雅の声もまた少しずつ大きくなってくる。晴明が声を殺すのも禁止したのだ。足を大きく開かれ一番恥かしいところに指を突き立てられてあえぐ博雅に、くちづけながら晴明が言った。
「俺には何も隠すな。博雅‥、お前が俺に隠し事をしているのを知るのは何よりもつらいんだ。だから身も心も俺の前にさらけ出せ。頼む‥。」
切なくなるような瞳で見つめられて、晴明にその身を翻弄されながらも博雅の目に涙が浮かんだ。
「晴明‥ごめん‥」
その時、その言葉に答えるかのように晴明のものが指に代わって博雅の体を貫きとめた。
「あああっ‥っ!」
つながれた手首を、ぎりっと博雅のお気に入りのネクタイが動けぬように引き止める。
博雅の背が晴明に繋ぎとめられて弓なりに反る。
腰を密着させたその間に博雅のものがぴんと天を向いて立ち上がっていた。そのつややかな表面には晴明によって巻かれた紅い紐がその存在を誇示するように燃えるように色づいて見えた。
博雅の両ひざの裏に手を入れてさらに足を開く晴明。余すところなく晴明の眼前に博雅のその艶に満ちた体がさらされる。
晴明の視線を浴びてさらにほの赤く色づくその肌、雄を誘うような香りが匂いたつようだった。
晴明の固く猛ったものが博雅の蕾を激しく出入りする。腰を打ち付けられるたびに博雅のものが揺れる。
「ああ‥イカせて‥晴‥め…、たのむ…あ…っ」
首を左右にフルフルと振りながら博雅が晴明に泣きながら懇願する、もうその目には晴明しか映ってはいない。
「ここも俺のものだな…そうだろ博雅?」
晴明が紅い紐が食い込んだ博雅のものに手を触れて聞いた。
「…ああ…そうだ…お前のもの…だ…っ」
涙で潤んだ瞳で答える博雅。
「すべて俺のものだな…?」
重ねて問う。
「ばか…!知って…いるくせに聞くな…っ!…ああっあっ…!」
晴明の腰がさらに深く博雅の両足の間にねじ込まれる。考えもつかないほど体の奥に晴明のものを感じて博雅が悲鳴の様な嬌声を上げる。目の前が白くぼやける。
「ああ…イキたい…イカせてくれ…おねがい…だ…せいめ…。」
もう何も考えられない。
晴明が指先を触れると博雅から紅い紐がはらりと解けた。紐の跡目も鮮やかな博雅のものを晴明の長い指が強く扱く、それとともに最奥に向けて最後の一突きを突き刺し、晴明は博雅の中へと白濁のしぶきを放つ。
「そうだ、博雅、お前のすべて…は俺のもの…んんっ…!」
秀でた額にうっすらと汗をにじませて晴明が果てた。
「あああっっ!!」
博雅の背がアーチを描いてのけぞる。拘束された手がこれでもかというほどに引かれた。博雅のものを握った晴明の手にどくどくと博雅のものが流れて落ちた。
 
博雅がようやく我にかえると、もうすでに手首の拘束は解かれていた。
晴明の姿が隣にない。
紅く後のついた手首をさすりながら身を起こす博雅。
ベッドのシーツがくしゃくしゃになっている。その傍らにはお気に入りだったネクタイがよれよれになって落ちていた。それを手に取る。
別の意味でお気に入りになりそうだな…と、ぼんやりと思って、はっと気づき、あわてて自分で否定する。
(ばか…!俺って、なんてやーらしいんだっ!!)
一人赤面しているところに晴明が部屋に戻ってきた。まだ上には何も着ていない。
「なに赤くなってるんだ?ネクタイなんか握り締めて。」
「…い…いやっ!なんでもないっ!」
まるで熱いものでも触ったようにあわててネクタイを放り出す。
「はは〜ん…。」
訳知り顔で晴明がにやりと笑った。
「な、何でわらうっ!」
「ふ…何でもない…。」
にやにや。
「ば、ばかっっ!」
「俺は何にも言ってないぞ…。それにしても、もう約束を忘れたか博雅?」
「約束…?」
「俺に隠し事をしないってことさ…。」
「うっ…!」
「思い出したか、では正直に言え。」
さらににやにや。
「な…なにを?」
「縛られるのは嫌いじゃないって…さ。」
「ば!ばかっ!言うかあ!そんなことっっ!!!」
晴明に向かって思いっきり枕を投げつけた。
それを軽く跳ね返すと、博雅のそばに腰を下ろして怒れる博雅のあごを取って覗き込む晴明。
「まあ、それは言わなくていいとしても…、これからは大事なことは必ず俺に言え。決して隠すな。」
軽くチュッと口づけを落とす。
「だって、さびしいだろ?」
またひとつ。ちゅ。
博雅が怒りを忘れて晴明の瞳を見つめる。まだ愛し合った後の麝香のような香りを漂わせている晴明の肩に額を落とす。
「…うん。」
「ならいい…。おっと、それから約束どおり罰としてしばらくアレ、付けといたからな。」
最後にもうひとつくちづけを落とすと、晴明はにっこりとして言った。
「な…!」
おもわずバッとシーツをめくると…。
前よりも色鮮やかに、そしてさらにキツく博雅のものにまきついた紅い紐。
「俺の呪は咲也のバカとはレベルが違うからな、俺以外には逆立ちしたって取れっこないぞ。」
ああ、楽しみだ、と笑う晴明に声もなく呆然とする博雅であった…。
 
咲也の意趣返しに対する晴明の仕返しの話はまた今度。


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